春木と夏目

 卒業式を終えた後、僕はこっそりと夏目なつめの様子を伺っていた。彼女の行き先が分かると、僕は急いで図書館に先回りした。そして彼女にメッセージを送る。

 

 ――未来予報。今日の午後五時、あなたは図書館で春木はるきに告白される。


 これは僕自身で現実にしなければならない未来だ。予報の時刻まであと五分。僕の想いが彼女に通じることを願った。


 午後五時、図書館で待つ僕の前に夏目が現れる。僕たちは静かに向かい合った。

「ずっと騙していてごめんなさい」

 彼女は目を伏せたまま言った。

「気にしてないよ。途中で気づかない僕の鈍感さの方が問題だ」

 彼女の口元が緩んだ。僕は少しだけ安堵する。

「最初の予報がいきなり外れたのには焦ったわ。あれだけ濡れて風邪もひかないなんて」

「雨の中、走っている姿を見られていたわけか。でも――予報は外れてないよ。ちゃんと現実になった」

 彼女は首をかしげた。

 そう、彼女のことを考える度、僕の体に異変が起こる。胸が苦しくなり、頭がぼんやりとするのだ。

「君が未来予報の送り主だと気づいてから、どうしてそんなことをしたのかを想像した。そして一つの結論に辿り着くことができた。僕と君は同じ想いを抱いているんだと。それから僕は、僕たちにとって一番良い未来について考え続けた」

 僕は言葉を止め、一度深呼吸をする。

「とても時間がかかったけど、ようやく答えを出せた。今日から僕と君は付き合う。そうすればどこの大学に行こうが関係ない。そんな未来はどうだろう?」

 いいと思う、と彼女はうなずいた。だが少し不満そうに言う。

「もう少し、ストレートに言うと?」

「つまり――君のことが好きなんだ」

 晴れた空のような笑みを残し、彼女は僕に背を向ける。

「……明日の十時、ここで待ち合わせね。一緒にどこか出かけない?」

 きっとこの先も僕たちには色んな未来予報が届く。大抵はデートの約束のような近い未来のものだろう。でも夢のような遠い未来の予報だったとしても、自分たちの力で現実にできると信じている。

「もちろん」

 僕は力強く答えた。


 翌朝、僕は家を出て待ち合わせ場所へ向かう。

 ちょうど十時に図書館へ到着すると、正面に彼女の姿を見つける。


 翌朝、私は家を出て待ち合わせ場所へ向かう。

 空は澄み切っており、傘が不要であることを私は知る。

 ちょうど十時に図書館へ到着すると、正面に彼の姿を見つける。

 笑みを交わした瞬間、私たちと予報した未来がぴたりと重なる。

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未来予報、受信しました 篠也マシン @sasayamashin

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