夏目2

 最初の予報が外れた時は焦ったが、その後は順調に予報を当て続けることができた。これもお小遣いをはたいて売店のカレーパンを買い占めたりと、苦労を重ねた結果だ。

 もう春木はるきは予報を信じるようになったはずだ。私はついに彼の進路に関する予報を送った。


 ――未来予報。来年、あなたは県外の大学に行く。


 これで彼は私と同じ地元の大学を選ぶはず――待て、おかしいぞ。送信したメッセージを読み返すと、県外の大学と書いてある。

 私はメッセージを書いた私の手を睨む。

「彼が理系の科目が得意なことを知ったからって、県外の大学を進めるなんて馬鹿か。今までの計画が台無しだ」

 もちろん、私の手は何も答えてくれなかった。私の心に雨粒が落ちていく。だって仕方ないじゃないか。これが彼にとって一番いい未来なのだ。


 次の休日、図書館で春木の言葉を聞いた時、私は耳を疑った。

「――今、なんて?」

「地元の大学を受験するよ」

 予想に反し、彼は予報を回避する道を選んだ。私は理由が分からず混乱した。

「県外の大学とも悩んだけど、レベルが高そうだったからね。無難に地元の大学が良いと思ったんだ」

 彼の学力なら十分合格できるはずだ。私の精一杯の強がりを無にするつもりか。

「それは嘘よ」

「え?」

「春木君のレベルなら合格できるはずよ。未来予報には県外の大学に行くと書いてあるのに、どうして――」

 私はハッとして口を閉じた。彼は目を細めて私を見る。

「……なんで夏目なつめさんが未来予報を知っているんだ?」

 私は何も答えることができず、鞄を抱えてその場から逃げた。背後から引き止める声が聞こえたが、振り返らずに家まで走った。

 

 それから私は図書館へ通うのを止めた。

 きっと彼は未来予報の送り主が私だと気づいただろう。ずっと騙していたことを怒っているはずだ。それに私の想いにも気づいたかもしれない。

 その後、私は地元の大学に無事合格した。結局、彼は予報に従って県外の大学を受験したらしい。しばらくして彼から合格したとのメッセージが届いたが、私は返信することができなかった。


 そして、彼とは一度も顔を合さないまま卒業式の日を迎えた。

 式が終わり、友達との別れを惜しんだ後、私はなんとなく図書館に向かった。今日で私の恋は本当に終わる。頑張った軌跡を辿りたかったのかもしれない。

 図書館まであと少しという所でスマートフォンが震える。それは春木からのメッセージだった。今更何の用だろう。私は恐る恐るメッセージを開く。


 ――未来予報。今日の午後五時、あなたは図書館で春木に告白される。


 心臓の鼓動が大きくなる。私は慌てて時計を確認した。予報の時刻のちょうど五分前だ。

「ここからなら走らなくても間に合う。けど……」

 回りくどい私にとって、二年間の想いを込めるにはとても短い。でも今は真っすぐ進んでみよう。

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