春木2

 昨日あれほど雨に濡れたが、僕は風邪もひかず他の病気にもならなかった。

 あの未来予報は悪戯だったのだろうか。だが未来を教えてほしいと願っていた僕に届くなんて、偶然にしては出来過ぎだ。

「……たしか病気になる時期は書いていなかったな」

 雨に濡れたことと無関係なのかもしれない。予報を信じるわけではないが体調に注意しておこう。


 次の休日、図書館へ向かおうとした時、再びあのアカウントからメッセージが届いた。


 ――未来予報。今日、あなたは昼食にカレーパンを食べない。


 僕がいつもカレーパンを食べることを知っているかのような内容に驚く。だがメニューを変えるつもりはないので、この予報が現実になるとは思えなかった。一体どういうことなのだろう。僕は疑問を抱いたまま図書館へ向かった。


春木はるき君、今日はカレーパンじゃないの?」

 昼になると、僕は夏目なつめとイートインスペースで待ち合わせた。

「……それが、売店にカレーパンがなかったんだ」

 僕は悩んだ末に買った焼きそばパンを見る。本当に予報の通りになってしまうなんて。

「不思議ね」

 夏目はなぜか嬉しそうな表情で言った。


 その後も未来予報が何通も届いた。些細な内容ばかりだったが、どれもぴたりと当たるので、僕は予報を信じるようになっていった。

 この前届いたのは『今日、あなたの昼飯は夏目の手作り弁当である』という予報。いつものように夏目と待ち合わせると、彼女は恥ずかしそうに弁当を差し出した。

「いつもカレーパンだから、栄養が偏ると思って」

 女の子からお弁当を作ってもらうのは初めてだったので、僕はとても喜んだ。もし予報がなく心の準備ができていなかったら、気を失っていたかもしれない。


 予報が届く度、不思議と僕と夏目の距離は縮まっていった。勉強する時も隣同士で座るようになり、分からない問題をヒソヒソと教え合ったりもした。

「春木君は理系の科目が得意よね」

「大抵答えが一つだから。優柔不断な性格が災いしない」

「なるほど」

 反面、色んな答えのある文系の科目は苦手なので、彼女によく教えてもらっていた。

「でも地元の大学は理系の学部が少ないよね。県外だけど、ここなんか春木君に向いてそう」

 彼女は県外にある大学のホームページをスマートフォンで見せてくれた。理系の学部が充実しており、僕に合っているように思えた。

「たしかに面白そうだ」

 僕が答えると、彼女の表情が曇ったように見えた。


 数日後、新しい未来予報が届く。それはこれまでの些細なものとは違い、僕の未来に大きく関わるものだった。


 ――未来予報。来年、あなたは県外の大学に行く。


 以前の僕ならこの予報を聞いて県外の大学を目指しただろう。だが今の僕にはこの予報が晴れであると思えなくなっていた。

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