夏目1
私は回りくどい性格で、ストレートに想いを伝えることが苦手だった。幼い頃「誕生日に何がほしい?」と聞かれ、クマのぬいぐるみと伝えたのに怪獣の人形をもらったこともあった。
高校二年生の時、私は恋に落ちた。ある日、文芸部で好きな本を語り合っていた時のこと。
「
それは主人公の男の子が、偶然繋がった並行世界に住む女の子と恋をする物語で、私が一番好きな本だった。
同じ本を好きな人がこんな近くにいるなんて。それから彼のことを目で追うようになり、気づいたら好きになっていた。
私は彼にアプローチを続けたが、三年生になっても何の進展もなかった。回りくどい性格が災いし、彼にうまく伝わらなかっただけかもしれないが。
部活を引退すると、クラスも違うので顔を合わす機会すら無くなった。
「もう恋が実る見込みはない。戦いは終わった」
私は自らを納得させ、受験勉強に集中することにした。
休日、図書館で勉強していると、偶然彼の姿を見つけた。
「――あ、
これは最後のチャンスかもしれない。私は勇気をふり絞って声をかけ、恋を実らすための糸口を探した。
彼が進路に悩んでいると口にした時、私は気づく。
(まだ、終わっちゃいない。もし彼が私と同じ大学に来たら、この恋は続く)
だが、彼の進路を私の思い通りにすることなんてできるのだろうか。
夕方、図書館を出ると激しい雨が降っていた。私は常備していた折り畳み傘を差し、図書館を後にした。
途中、春木が傘も差さずに私の脇を走り抜けていった。あっという間のことで声をかけられず、彼も私に気づかなかったようだ。
「傘ぐらい入れてあげたのに。あれじゃあ風邪をひいちゃう」
その瞬間、私は閃いた。彼の進路を私と同じ大学にする素晴らしい計画を。
――誰か僕の未来を見てきて、どこに進学したかを教えてほしいぐらいだよ。
そう、春木が望んでいる通り、彼へ『あなたは来年地元の大学に行く』と予言すればいいのだ。だが私が言っても説得力はないし、好きという気持ちがバレる可能性もある。だから――。
「……よし、登録完了」
私はスマートフォンを操作し、予言を伝えるための新しいアカウントを作った。
もちろん赤の他人の言葉など信じないだろう。だがその予言が実際に起きればどうだ? きっと信じるようになるはず。そうなればこっちのものだ。地元の大学に行くとの予言を聞かされたら、それを道標として進路を選ぶだろう。
……少し回りくどい気もするが、些細な問題だ。
まずは最初の予言。あれほど雨に濡れたら風邪をひくに違いない。念のため他の病気になる可能性も踏まえ、こんなメッセージはどうだ。
――予言。あなたは病気になる。
なんだか予言という言葉が妙に胡散臭い。しばらく悩んだ後、私はメッセージを書き直す。
――未来予報。あなたは病気になる。
私たちは天気予報を聞き、傘を持つかを選択する。この予言も同じだ。聞いた未来により回避する道も選択できる。だから『未来予報』と名付けよう。
地元の大学に行くという未来が、彼にとって晴れの予報になればいい。私はそう思った。
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