未来予報、受信しました

篠也マシン

春木1

 僕は優柔不断な性格で、何かを選択することが苦手だった。幼い頃「誕生日に何がほしい?」と聞かれ、迷っている間に誕生日が過ぎこともあった。

 高校三年生の時、僕は進路に悩んでいた。大学へ進学することは決めたものの、選択肢の多さに頭を抱えることになった。

「天気予報のように、未来を教えてもらえたらな」と僕は思った。

 もし悪い未来と聞けば避ける道を選べばいい。雨の予報の時、傘を持って出かけるように。僕はそんな未来の予言を『未来予報』と名付け、いつか不思議な力を持つ誰かが教えてくれることを空想していた。


 秋になり、部活を引退したが受験勉強は思ったように進まなかった。進路という目標が定まっていないのだから当然だ。

 休日、朝から図書館で勉強することにした。家にこもっているよりも集中でき、気づけば昼を回っていた。僕は売店でカレーパンを買った。何を食べるかを悩まないように、昼飯は必ずカレーパンと決めているのだ。

 イートインスペースに座っていると、ふいに声をかけられる。

「あ、春木はるき君」

 そこにいたのは夏目なつめだった。彼女は僕と同じ文芸部に所属していたが、特別親しい間柄ではなかった。クラスも違うため、部活を引退してから顔を合わすのは初めてだ。

「夏目さん、久しぶりだね。もしかして受験勉強?」

「うん、家だと集中できなくて。少し前から通ってるの」

「たしかに家よりも捗るね。僕もしばらく通おうかな」

 いいと思う、と彼女はうなずく。そして隣の席で弁当を広げた。

「春木君はいつもカレーパンを食べてるよね」

「なんで知ってるの?」

 僕は驚いた。部活で昼食を共にする機会はあまりなかったはずだ。

「部室にカレーの匂いを充満させてたから、覚えてたの」

 彼女はクスクスと笑った。僕は恥ずかしくなり、慌てて話を変える。

「そういえば進路は決めた?」

「地元の大学。春木君は?」

「なかなか決めれなくて。誰か僕の未来を見てきて、進学先を教えてほしいぐらいだよ」

 彼女はクスリと笑うと、何かを考えるように黙り込んだ。しばらくして彼女が口を開く。

「図書館に通うつもりなら、また一緒に昼ご飯を食べない? 話し相手がいるとリフレッシュにもなるし」

 特に断る理由はない。僕は悩まずに答える。

「いいよ。カレーの匂いが嫌いでなければ」

 大丈夫、と彼女は笑った。

「昼になったら連絡してね」

 そういえば部活で連絡先は交換していた気がする。スマートフォンを見ると、友達のリストに彼女が載っていた。

 昼食を終えると僕たちは別れて勉強を再開した。不思議と午前中よりも集中できた気がした。


 夕方、図書館を出ると激しい雨が降っていた。

「天気予報は晴れだったのに」

 あいにく傘は持ってきていなかった。雲に切れ間はなく、しばらく止みそうにない。僕はため息をつき、鞄を傘の代わりにして駆け出した。

 家に着くと濡れた体をタオルで拭いた。ふとスマートフォンが光っていることに気づく。それは知らないアカウントからのメッセージだった。


 ――未来予報。あなたは病気になる。


 タオルを握った手が止まり、濡れた髪から雫が床に落ちる。だがメッセージから目をそらすことができなかった。

 瞬間、体がぶるっと震える。風邪をひくかもしれない、と僕は思った。

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