幼馴染が『僕のS級幼馴染が強過ぎる』というラノベを書いていた件
「え、えーっと……」
早朝の学校。
日直の為、誰もいない時間に登校した僕、
昨日、綺麗にしていった筈の机の上には、一見、何の変哲もないノート。
何故か、表紙には僕の苗字が書かれているが……知らない。
学内で一二なんて苗字の人、他に……いないよなぁ?
ただ、僕の字は特徴的だし、表紙の苗字で置かれたのかな? と思い捲ってみたところ……中に書かれていたのは、ラノベの冒頭部分を思わせる文章で、タイトルは『僕のS級幼馴染が強過ぎる』だった、というわけだ。
ノートを閉じ、考える。
文字からいって、これを書いたのはおそらく女子。……というか、僕の字に似すぎなのでは?
なお、作中に出て来たように、僕を『みーちゃん』と呼ぶのは、家族以外では二人しかいない。
まさか……
「いやいやいや、まさか」
僕の声が誰もいないクラスに響く。
ノートの中で『S級幼馴染』と形容されていた通り、彼女は学内ヒエラルキーの頂点に位置する存在で、完全無欠の美少女だ。
そして、僕は平々凡々。モブの一人に過ぎない。
幼馴染ではあるし、生まれた日も一緒だし、小さな頃、子供同士の約束――所謂『大きくなったら、お嫁さんに~』というやつをした記憶もある。
でも、『ちづ』と呼んでいたのは小学校低学年だし、中学入学以降は、学内はもとより、プライベートでもまともに会話をした記憶もない。
そんな子が、僕に……こ、恋をしているなんて、そんなこと……第一、この字は彼女の字じゃないわけで。
「おーっすっ! みーちゃんっ!!」
「!!?!!!」
いきなり、背中を叩かれた僕は字義通り、跳び上がった。
振り向き、怒る。
「お、おまっ!
そこにいたのは、ショートカットで快活そうな女の子だった。……僕よりも、大分背が高い。
名前は、
中学入学後、偶々同じラノベを読んでいたこともあり、友人になった。
部活は水泳部。しかも、全国レベルだ。
本人に言ってはいないけれど、男子の間で人気は高い。
九段は「にしし♪ 日直の相手があたしだからって、油断し過ぎじゃない?」と言いながら、隣の机に鞄を降ろした。
「みーちゃん、来るの早過ぎー。だから、駅で待ち合わせしようよーって言ったのにさー」
「そ、そんなことしたら、変な噂立てられるだろう。ほ、ほら、早く仕事を―ー……」
僕はそこで言葉に詰まった。
――まだ、ノートを隠していない。
何となくだけれど、これを九段に見せるのはマズイ気がする。
自然な振りを装い、机と九段との間へ移動。
どうにか、誤魔化して仕舞えれば……。
「で~……みーちゃんは、何を隠しているのかなぁ?」
「! べべべ、別に何も隠してなんか」
「隙ありっ!」
「!」
水泳部のエース様は見事なステップで回り込み、ノートを奪取した。
すぐさま、目を走らせ――ジト目。若干、距離を取られた。
「……一二君、これはちょっと」
「ち、違うからなっ!」
「でも、これ、みーちゃんの字じゃーん。まんまる~」
「た、確かに似てるけど……ぼ、僕は書いてないっ!」
必死に訴えるも九段は猜疑の視線を変えない。
ど、どうすれば信じて……。
「――おはようございます。一二君。八月十五日さん」
「「!」」
涼やかな声が耳朶を打ち、僕等は教室の入り口を見た。
――十都千鶴が微笑を浮かべている。
しどろもどろになりつつ、応じる。
「お、おはよう、十都さん」「……おはよ、十都さん」
「御二人共、早いんですね。忘れ物をしてしまって……私が一番乗りかと思ったんですが。」
「ぼ、僕等は日直だから……」「あ、ねー十都さん。このノートって、貴女の?」
「! 九段っ!!」
僕が止める間もなく、九段は十都さんへ近づきノートを見せた。
すると……
「あ………………う~……」
十都さんの頬が真っ赤に染まった。
そして、鞄で顔を隠し、早口。
「よ、読んだんですか? 読んじゃったんですかっ!?」
「あ……う、うん…………ご、ごめん、その……僕の机の上にあったから……」
「うぅぅぅぅ…………」
十都さんは呻き、そして、僕へ向かって来た。
鞄を取り――視線が交錯。
「み、みーちゃんが悪いんですっ! わ、私はずっと、ずーっと、約束、憶えているのに……」
「え、えーっと……」
「…………ノートも読まれてしまいましたし、責任、取ってくれますよね? あと、私のことは『ちづ』って呼んでくださいっ!」
「あ、あの、その……」
「あーはいはい。そういうのは後でやってねー。十都さん、はい、ノート!」
九段は僕達の間に割り込み、ノートを十都さんへ押し付けた。
やや不満そうにしながらも、彼女は受け取り、僕へ微笑んだ。
「……一二君、ここに書かれていること、嘘じゃないですからね?」
「え、あの……」
「みーちゃん、ほら、さっさと仕事するよー。……十都さん、また後でね」
「はい――……また後で」
九段が僕の首根っこを掴んだ。
日誌を取りに職員室へ行かないといけないのだ。
最後のやり取り、ちょっと、怖かった……。
でも、十都さんが、あんなことをノートに書いているなんて思わなかったなぁ……。
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