僕のS級幼馴染が強過ぎるっ!

七野りく

『僕のS級幼馴染が強過ぎるっ!』

 僕の幼馴染である十都千鶴ととちづるは、最大限贔屓目に見ても、整った容姿をしている。

 小説や漫画で案外と多用される『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』を、僕が幼い頃から覚えたのは、彼女の傍にいたことが大きい。

 長く美しい髪。普通にしていても目を引く容姿。

 すらりとしたモデル体型で僕よりも背が高い。あと、胸も……その中学二年にしては大きい……。

 これで、勉強やスポーツ、料理、等々が出来ないのであれば『ああ、ラノベとかでありがちな設定だよね』となるところなのだけれど――十都千鶴に隙はない。

 中学校入学以来、学年首席を明け渡したことはなく、スポーツも得意中の得意。よく、助っ人に駆り出されている。性格も極めて温厚。一部生徒には『聖女様』なんて呼ばれているくらいだ。

 料理も和洋中、何でもござれ。毎日、自分でお弁当も作ってきている。

 僕は聞いたことがないのだけれど、歌も上手いらしく、カラオケに行った同級生が興奮していた。


 ――つまり、十都千鶴は完全無欠な女の子なのだ。


 では、そんな彼女に対して、僕、一二三輝つまびらみつきはどうだろうか?

 容姿は……可もなく不可もなく。

 勉強は丁度学年の真ん中。

 スポーツはそれなりだけど、誇れる程じゃない。

 そんな僕だから、中学入学後、ちづと幼馴染であることが同級生達にバレた後、散々からかわれたのは当然だったと言える。

 だってなぁ……僕は、同級生が揶揄していた言葉を誰もいない放課後の図書室で独白する。


「あのS級幼馴染、強過ぎるって……」


 幼稚園、小学校と僕等は何時も一緒だったと思う。

 厳密に言えば、ちづは絶対に僕から離れようとしなかった。

 今でこそ完全無欠な彼女も、当時は極度の寂しがり屋だったからだ。 


 けれど、それも中学に上がるまで。


 僕等は同じ学校に進学し……そこで道が別れた。

 片や、入学初日の新入生挨拶の段階から学校全体に名を轟かし、僕は有象無象。

 何時の間にか一緒にいる時間も少なくなり……二年に進級して以降、学内で会話を交わした記憶もない。

 ノートにペンを放り投げ、頭を掻く。

 同級生に変なこと――『十都さん、三年の先輩に告白されたみたいだよ?』を聞いたせいか、今日は全く捗らない。


「…………帰るか」

「もう帰るんですか?」

「!?」


 いきなり声をかけられ、椅子から転げ落ちそうになる。

 動揺しつつ、視線を向けるとそこに立っていたのは――


「十都さん? ど、どうして、こんな所に」

「……………やり直しです」

「?」


 ムスッとし、ちづは僕に詰め寄ってきた。

 普段の清楚な様子はなく、明らかに不機嫌そうだ。


「『十都さん』じゃなくて『ちづ』って呼んでください」

「あー……それはー…………」

「……ダメですか?」

「………………」


 ちづは流れるような動作で僕の隣の椅子に座り、上目遣い。

 これで屈しない男はそんなにいないだろう。

 ノートを鞄に仕舞い、席を立ち、朗らかに挨拶。


「それじゃ、十都さん、僕はこれで」

「………………てぃ」

「わっ」


 足をかけられ、椅子に強制的に着席させられる。

 派手な音が出たものの、この時間、図書室に人はいない。

 そのまま、ちづは僕の前に回り込み、再度要求してきた。


「よ・ん・で、っ!」

「……はぁ。久しぶり、ちづ。元気だった?」

「久しぶりじゃないですし、同じクラスですっ! 席も近いですっ!! お昼だって、わざわざ近い場所で食べてますっ!!!」

「あ、やっぱり、わざとだったんだ?」

「………みーちゃんは意地悪さんです。こんなに可愛い幼馴染を虐めて何が楽しいんですかっ! 今晩はみーちゃんの嫌いな物に」

「残念ながら、僕に嫌いな物はないね。あと、どさくさに紛れて、うちに来ようとしない。ほら、どいてどいて」


 学内でこそ接点をなくしているものの、僕等は家もお隣さんな幼馴染。

 未だに多少の付き合いはあるのだ。

 ……と、いうよりも、ちづが絶対に離れてくれなかった、とも言う。

 美少女はジト目。


「……さっき、バスケ部の先輩に告白されたんです」

「おお~それは、えっと……おめでとう?」

「……みーちゃん、本気で言ってるんですか? なら」

「なら?」

「…………」


 ちづは無言で拳をグーにした。怖い。

 僕は窓の外を眺める。夕日が綺麗だなぁ。早口。


「……帰りに、鯛焼きでも買ってく? 奢るけど」

「答えになって――……え? 一緒に帰ってもいいんですかっ!? 『ちづと一緒に歩くと嫉妬が……』って言って、嫌がってたのにっ!? みーちゃんっ!?!!」

「あーあー、今日だけ。今日だけっ!」


 僕は詰め寄る幼馴染を押しのけ、鞄を手に取ろうとし――


「あ!」


 床に落としてしまい、中のノートが広がった。

 慌てて回収しようとし――ちづに防がれ回収される。

 ま、まずいっ!

 パラパラとノートを速読し、幼馴染は満面の笑みを浮かべた。


「みーちゃん♪ これはいったい、何ですか??」

「……ち、違う……」

「何がどう違うんですかぁ? これって、みーちゃんのお部屋にたくさんあるライトノベル、でしたっけ? それに近いお話とイラストですよね?? えーっと……タイトルは『僕のS級幼馴染が』」

「あーあーあー! …………望みを言え」


 僕はノートをどうにか取り上げ、抱きしめ、勝ち誇る幼馴染の少女へ問う。

 十都千鶴は両手を合わせた。


「そんなの、決まっているじゃないですか♪ ――私、十都千鶴を、一二三輝君の彼女にしてください」

「…………」


 ――僕が何と答えたのかは、秘密。

 ただし、その日以降、ちづと僕は、一緒に登下校するようになったことだけを書いおこう。

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