元カノがまだ好きな俺。元彼がまだ好きな私。

メープルシロップ

第1話 忘れられないあいつ

「昨日の月9見た?!めっちゃ面白かったよね〜」


「よねよね!あれは最高よ!」


教室で伏せて寝てるふりをしていると、聞こえてくる声。

その声を聞き、俺の鼓動は高まっていく。


「はあ……」


ため息を吐き、俺は立ち上がり、教室を出る。


いい加減、この気持ちを捨てたい。


そう思っても、こべりつくように俺の心に残るこの気持ち……

はっきり言う。


俺は元カノがいまだに大好きだ


あいつと別れてもう3ヶ月が経つ。

なのに、俺の気持ちは付き合っていた頃となんら変わらない。

いや、むしろ、前よりも強くなっているかもしれない。


こんな気持ち、さっさと消え去ればいいのに……


あいつとは小学校の頃から同じだった。

中3の時に、突然あいつに告白された。

そして奇跡的に付き合うことができた。


あいつは顔も、性格も良かった。

おまけに勉強も運動もできて、人付き合いも良い。

ずっと好きだった相手に、告白された時の信じれないほどの驚きは、今でも鮮明に覚えている。


最初の方は、順調だった。

一年経っても倦怠期とやらは来なかった。

このまま結婚までするんだろうと、淡い妄想すらしていた。


初めて女子と手を繋いだ。

初めて好きな人と抱きしめ合った。

初めてキスをした。

初めてセックスをした。


いろんな初めてを共にした。

自分が初めてになれて、なんだかとても嬉しかった。


でも、高校2年生になろうかと言う時に、俺たちの関係はギクシャクし始めた。

きっかけがなんだったのかはいまいち分からない。

そして、喧嘩をし、俺たちは別れた。


今まで積み上げてきた時間が、愛が、1つの大喧嘩で全て崩れ落ちた。

自分が今までにないほど惨めに思えた。

この気持ちは、今までの時間は、全て無駄だったのか?

何度もそう思った。


こんなに辛くなるなら、こんな恋しなかったら良かった。


そう思ってしまった。


ドラマ、漫画などでイチャつくシーンがあると、あいつとの思い出と重ねてしまう。

そんな自分が気持ち悪い。

分かっているけど勝手にそうなってしなう。


あいつの笑顔を見ると、馬鹿みたいに心臓が暴れる。

やめろと言うのに、言うことを聞かない。


窓を開けていて、風が入り、あいつの匂いが風に乗ってやってくる。

その匂いが鼻に入り、鼓動が高まる。


あー本当バカバカしい。


あいつの前だと、いまだにイキってカッコをつける。


俺はもう、あいつの彼氏でもなんでもないのに……



そして、あいつにはもう新しい彼氏がいる。

俺と別れて2ヶ月後に付き合い始めたらしい。


告白したのはあいつではなく、男の方だった。


俺は向こうから告白された


そんなふうに勝手に自分の中でマウントをとり、優越感に浸る。

自分がキモくて仕方ない。

でも、こうするしか傷を防ぐ方法がない……

そんな自分は、さらに情けない。


あいつらは毎日のように一緒に帰っている。

まあ、付き合っているなら当然のことだ。

俺はそんなことにまで嫉妬をしている。


俺はあいつの、なんでもないのに……


もうキスはしたのか?

もうあいつらはヤったのか?


そんな疑問を浮かべて、それを想像して、虚しくなって……


本当に俺は何がしたいんだろう




****


「今日の夜音楽ステーションで私の好きなグループでるんだ〜」


「そうなんだ!私も見てみるね!」


友達と、いつものように楽しく話をする。

そして私の視線はチラリとあいつの方に向く。


「また寝たふりしてる……」


「ん?なんか言った?」


「うんん!なんでもないよ!それよりさ〜……」


なんでだろう。

あいつとはもう別れて3ヶ月ほど経つ。

なのに、あいつの事ばかり気にしている。

答えは分かっている。でも、この気持ちは捨てなきゃいけない。


私はまだあいつのことが好きなんだ。


別れたいと言ったのは私だ。

なのに別れてから気づいた。

あいつが好きなことに……


あいつと別れて2ヶ月経った時、クラスの割と仲の良い男子に告白された。

別にその人のことは好きじゃなかったけど付き合うことにした。

あいつを忘れられる気がした。


だけどそれは逆効果になった気がする。

彼と話す時、手を繋ぐ時、キスをする時……

その度にあいつと話した時、手を繋いだ時、キスをした時を思い出す。


あいつとキスをした時の喜び、ドキドキは今の彼では感じれなかった。


別れて日が経つにつれ、あいつのことを好きと言う気持ちが大きくなる。


あいつと付き合っている時は本当に毎日が楽しくて仕方がなかった。

あいつとはこの先ずっと一緒にいたいと思っていた。


だけど、現実はそうもいかない。

きっかけは私の嫉妬だった。

あいつがクラスの女子と話しているところを見て、嫉妬したのだ。

お互いに束縛はしない。

そう約束した。

あいつは女子から人気だった。

話しかけられるのは毎日だった。

それにはもう慣れたはずだった。


でも、ギクシャクし始めて、どうにも我慢できなかった。


「どうして他の女子とばっかり話すの?!私の気持ち、少しは考えてよ!」


その言葉をあいつにぶつけた。


あいつは何度も私に謝った。


「ごめんな。ごめんな……でも、俺が好きなのはお前だけなんだよ!」


そう電話をしてくれた。

なのに、私は別れる道を選んだ。

なのに別れて、彼の大切さに気づいた。

今更あいつに好きになんて言えるはずもない……

私はどうしよもないクズ女だ。


こんな気持ちのままだと、今の彼にも申し訳ない。

いい加減、けじめをつけなくてはいけない。




****

やっと面倒な授業が全て終わった。

荷物を鞄リュックに入れていく。


「帰ろーぜ」


後ろから友達に肩を叩かれた。


「おう」


リュックを背負い、立ち上がる。

あー重てー


「なーなー今日ーゲーセン寄ってもいいか?」


「え?別にいいけど」


「気になるフィギュアが出たんだよ〜」


「金あんの?」


「2000しかない!いざとなったら貸してくれ!」


「無理、却下!」


「まったく冷たいやつだな〜」


ふふっ

笑みが溢れた。


「もっと笑おうぜ!笑えば幸せホルモンが出る!多分!」


「多分かよ」


「おう!笑え笑え〜!」


そう言ってこいつは俺の脇をくすぐり始めた。


「おまっ!ちょっ、や、やめろ!あはははは!」


思いっきり笑う俺を見て、こいつは微笑んだ。

こいつは俺とあいつのことを知っている。

俺があいつを好きになり始めた時、付き合えた時、別れた時、その都度こいつに相談をしていた。

今日ゲーセンに誘ったのも、こいつなりに気を使ってくれているんだと思う。


「ありがとな……」


「え?何が?」


「なんでもない……」


そう言って俺は走り出した。


「なんだよ〜ちょっ、待ってくれ〜」




「はっはっ……」


結局そのまま走ってゲーセンに着いた。

2人揃い、店に入っていく。


店内を歩くと、お目当てのフィギュアがあった。

100円玉を次々に入れていっていき、1900円の時にフィギュアが落ちてきた。


「やった〜!!!」


「良かったな!」


横でずっと見ている俺も、落ちた時にはなぜか嬉しかった。

まあ、俺の金を貸さなくて済んだし……


その後も何もするわけではないが、店内をぐるぐると回った。


しばらくして、店を出る。


「楽しかった〜!」


「ああ。楽しかったな」


「本当に?!」


「まじまじ」


「良かった!じゃあ帰ろーぜ!」


「おう!」


最寄りの駅に行く。

結局こいつの電車賃は俺が出すことになった……


家の近くの駅で電車を降りる。

改札を抜けた時だった。


「あ……」


目の前にあいつと彼氏がいた。


「あ……」


「帰ろー」


そう言うと、背中をバシンと叩かれた。


「いや、何すんだよ」


「大学になったら俺がいくらでも合コンするから安心しろ」


「安心も何も……別に合コンなんていらねーし……てかお前女子の前になると緊張するじゃん。それなのに合コンするって……」


「そ、それは言わないお約束だろ!」


「すまんすまん。早よかえろーぜ」


「おいっ!待て〜!」


俺はこいつと出会えて良かったと心から思っている。

こいつがいなかったら俺はとっくのとうに病んでいた。

俺のあいつへの気持ちは、この先どうやっても消えそうにない。

だから無理にこの気持ちに背くのはもうやめだ。

ちゃんと向き合ってこう……


「まじでありがとな……」


「ん?なんか言ったか?」


「なんも言ってない。じゃあ、俺はこっちだから」


「ん?ああ。また明日!」


「おう!」


こうして俺は友と別れ、家に向かった。

俺はホームで見た、あいつの表情がどこか引っかかっていた。

どこか作ったような笑いだった……


まあ、いっか……


俺はそのことを頭から消し、今日の夜ご飯のことを考えていた。


「ハンバーグがいいな〜」


楽しい時間を過ごしたからか、俺の足取りは軽かった。



ご飯を食べ、風呂に入り、課題をし、後は寝るだけとなった。

ベッドの上でストレッチをしていた時


「ピロピロピロ……ピロピロピロ……」


突然誰かから電話がかかってきた。

誰だよこんな時間に……

俺は画面をよく見ずに、電話に出た。


「もしもし」


「もしもし……突然ごめん……」


「え……」


その声の主は、一瞬で誰かわかった。

そう、あいつだ。


「ど、どうした?」


普通でいようと思うと、余計に心臓が高まる。


「その……あの……」


「ん?」


「あなたが好き」


「え……?」


この時、俺の新しい人生が、始まろうとしていた。



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元カノがまだ好きな俺。元彼がまだ好きな私。 メープルシロップ @kaederunner

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