終
「また、見つかっちゃった」
それから
「……もう帰らないと」
唯がつぶやくと、
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、一緒に遊べて楽しかった」
「うん、僕たちもだ」
大丈夫、伝わっているよ。唯が笑いかけると、優の姿は完全に消え去った。
明は言う。
「きっと優は不幸な事故で人知れず亡くなってしまったんだ。誰も見つけてくれなかった寂しさが、彼を霊魂としてこの世に留まらせたんだと思う」
「私たちと遊んだことで、寂しさは消えたのね」
「そう、彼がこの世に留まる理由も一緒に」
明は目を閉じて、先ほどまで優が立っていた場所を通り過ぎた。
「温かい……」
明はつぶやく。唯は微笑み、明の頭を背後から優しく撫でた。
日は完全に沈み、唯と明は細い
「先生、
「怪談は嘘だったってことで」
それがいい、と明は笑った。
「そういえば優君が現れた時、私が止めたにも関わらず、どうして明君は振り返ったの?」
「先生が既に振り返ってたから。一人で冥界に連れ去られるよりも、二人の方が寂しくないかなと思って」
「ふふ、ありがとう」
やはりこの子は強く頼もしい、唯は満足げにうなずいた。
「僕も気になることがあるんだけど」
明は一度言葉を止め、再び口を開く。
「――優が現れた時、なぜすぐに彼が幽霊だと気づいたの? たしか先生は彼の写真をしっかり見ていなかった。普通の子供と考えても良さそうなのに」
唯は足を止めた。明は一歩前に出る形となり、唯の方を振り返った。
「実は優君のことをよく知っていたの。だから顔を見てすぐに分かったのよ」
「優は先生のことを知らないように見えたけど?」
また余計なことを話してしまった、と唯は後悔した。でももう隠す必要はないか。恐怖は去ったのだから。
「何もおかしくないわよ。私が優君のことをよく知っているだけで、彼は私のことを知らないのだから」
意味が分からない、という表情で明は首をかしげた。
「数年前、通学路で優君を見かけた時、どうしてもお友達になりたいと思ったの」
唯は目を閉じて当時のことを思い出す。
「後ろからそっと近づいて目と口を塞いだら、振り返ることもできずに動かなくなってしまってね。だから私は優君のことを知っているけど、彼は私のことを知らない。ほら、何もおかしくないでしょ?」
唯はくつくつと笑った。
明は彼女から目をそらし、正面を向いた。周りに人の姿はなく、大通りまでは距離がある場所だった。
「あの怪談話が広まってからすごく怖かったの。優君が私を恨んでいたらどうしようって。ほら、小説とかだと幽霊って恨んでいた相手に復讐しようとするでしょ? でも今日やっと安心できた。優君は何も覚えておらず、遊びたいだけだったんだもの」
唯は明の様子をねぶるように見た。幽霊が現れても平然としていたはずだが、彼の体は小刻みに震えていた。
「先生ね、転校してきた時からずっと明君を目にかけてたの。あなたはかわいいだけでなくとても強い。優君よりも長く遊べそうで嬉しいわ」
唯はゆっくりと明に近づく。
「遊んでる間に死んでしまったら私を恨むかしら? ふふ、私は平気よ。幽霊になったとしても私に触れることさえできないのだから。そんな存在、もう怖がる必要ない」
唯は自分の黒く長い髪が風に揺れるのを見た。まるで
明の背後から、唯はそっと耳元で語りかける。
――あーそびましょ。
だがしばらく待っても明は振り返らなかった。
唯は待ちきれずに明に向かって手を伸ばす。そして彼の目と口を優しく塞ぎ終えると、歓喜の鳴き声を上げた。
烏と一緒に還る路 篠也マシン @sasayamashin
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