第231話 結婚後

 婚約から一年が経ちわたし達は結婚した。式はアディーレ大神殿で挙げることになり、世間は祝福ムードでお祭り騒ぎだと聞く。


身に纏うウェディングドレスは神殿側の意向を汲んでクラシックでありながら華やかなデザインにした。 

そこへエリックからもらったアクアマリンとわたしの持っている真珠と組み合わせた装飾品を身に着けた。


「マリー、凄く綺麗だ。」


とそこへエリックがキスをしてこようとする。せっかく綺麗に塗った口紅が取れちゃうから慌ててブロック。


「だめ、お化粧が落ちちゃう。エリックこそとても綺麗よ。」


「ふっ、なんだそれ。」


そう、エリックの白の礼装姿が眩しいほどに美しいのだ。

彼の方が大聖女的な何かだと思えてしまうくらいに。


式の最中、わたしの着ける装飾品に注目が集まる。

やはりこの世界では粒の揃った真珠を数多く集めるには(しかもこの世界では大粒と言われる八ミリ玉)膨大な年月と資金が必要みたいで、それを身に着けたわたしはかなりパルディアン王国の真珠養殖事業の宣伝をしたことになったようだ。


多くの参列者が見守る中、夫婦として支え合うことを女神に誓ったわたし達は、晴れて夫婦となった。



 そして結婚してからは、エリックは平日はわたしが転移で送ってネストブルクへ行き都市造りに勤しみ、休日はシューツェント家で入り婿状態の結婚生活を過ごしていた。


入り婿状態だなんて肩身が狭い思いしてないかな、とか最初のころは心配したんだけど、エリックはコミュ力が高いタイプのようで、気が付けばわたしのことはそっちのけでお父様とお兄様と男三人で語り合ったりして、わたしよりこの家に馴染んでるように見えた。


 ネストブルクの方へは結婚式用の神殿を建てたり、わたし達の住むことになる屋敷を見に行ったりして、わたしもちょくちょく赴いていた。


 そんな生活を二年ほど過ごした後、都市としては未完成だけど、わたし達の屋敷、高級ホテル、劇場、神殿、大規模商業施設、そして小さな動物園が完成した。


なぜ小さな動物園まで造ったかと言うと、エリックが仕事の関係でちょっと遠出をするたびに動物を拾ってくるものだから、その動物を収容する場所が必要になったからである。

この前はどういういきさつかヤギとヒツジを連れて帰ってきていた。


まあ、エリックの連れて帰る動物だけでは寂しいから他にウサギやアヒルを補充して、雌鹿のマロンも動物園へ移して、草食動物ばかりが揃うふれあい動物園みたいになっている。(小猿のルゥは屋敷で自由気ままにしている)


わたしはこのころに一人目の子供を妊娠したので、生まれた子供を遊ばせるのにちょうどいいね、とエリックと語り合った。


 お父様とお母様もネストブルクに屋敷を建てて移住してきた。お父様は宮廷音楽団の団長の座をお兄様へ譲り、ネストブルク領専属の音楽団を結成した。

その音楽団の活動はオーケストラのような格式高い公演から、民間で親しまれている流行歌、剣舞劇や舞台劇の後方音楽まで及び、お父様もお母様も毎日忙しそうにしている。


 ネストブルクは大聖女とその配偶者である元帝王が領主として統治する地であり、他に類を見ない遊びに溢れた楽しい領地であると徐々に有名になり、日を追うごとに移住者が増えていった。


観光と娯楽に特化した街だから、我も施設を建てたい、我も店を出したいと申し出る貴族や商人も多く、順調に都市化が進んでいる。


おかげで世界各国から旅行者が集まり、富裕層の間では結婚式と新婚旅行を兼ねてここを訪れるのがステータスとなったりしている。


さすがにお金のない人が遊びに訪れるのは難しい土地柄となってしまったが、労働者として働きながら遊ぶこともできるし、中級層向けになるが宿代さえ払えれば、街を見て歩くだけでも楽しめるようになっている。


 結婚してから五年の月日が経つと、国籍も、身分も、年齢も問わず皆が楽しめる都市が出来上がった。


そしてエリックとの間に、愛おしい二人の子供を授かった。長男サミュエル四歳と長女ルティア二歳。


「あっ!おとうさま!」


「おとしゃま!」


「エリックお待たせ。」


エリックとの待ち合わせ場所へ子供二人を連れて転移した。

挨拶代わりに頬にキスをされる。


「もうすぐ始まるから入ろう。席は取ってあるから。」


「ええ。」


「ぼく、ぞうさんだいすきー!」


「ルティもすきー!」


「おう、そうかそうか。」


「ぞうしゃん、ぞうしゃん、おながはないのね♪」


「お、うまいぞ!ルティアの歌は最高だ。」


見事な親バカと成り変わったエリックは、サミュエルがゾウが見たいと言えば異国まで赴き、ルティアが調子外れで歌おうが歌詞の言い間違いしようが嬉しそうに誉めちぎる。


わたしがサミュエルの手を引き、エリックがルティアを抱き上げ、小さな屋敷ならすっぽりと収まってしまいそうな大きなテントの中へと入った。


ここはカルザニスタン王国の王都、カラマーダ。ナディル帝国よりずっとずっと西にある国。

わたし達はここで催されるサーカス公演を観に来ていた。


なぜこんな遠方の国へサーカスを観に来たかと言うと、サミュエルがゾウを見たいと言ったのもあるけど、エリックがネストブルクへ誘致するための芸団を探しに遠路はるばるカルザニスタン王国のサーカス団を観に来たと言うわけだった。


 因みにエリックはわたしの転移ではなく馬や馬車、時には船を乗り継いでここまで来ている。


結婚して四年ほど経ったころに発覚したことだが、エリックには放浪?癖があることが分かった。


ネストブルクの都市化も進み益々の発展を見せ、下の子が一歳を迎えたころだった。突然エリックが「俺旅に出る」と言い出しのだ。


は?なぜ、急に?と疑問に思ったのはわたしだけでなく、家令のペトロナスも同じだった。


どうやらエリックは、物心ついた時から旅を続ける人生を送っていたせいで、一年に一度は旅に出かけないと落ち着かない性分になってしまっていたらしい。


ルティアが無事に一歳を迎え、少しくらいネストブルクを離れても大丈夫だろうと思うようになったころ、旅に出ようと思ったそうだ。


ここで普通なら、領地をほっぽって!!とかわたし達を置いて旅行なんて!!とか怒るところなのかも知れないけど、そこは妻が大聖女。いつでもどこでも転移で会いに行けるおかげで「気を付けてね。」と快く送り出した。


しかしそこで怒り心頭なのが家令のペトロナスの方だった。


「お仕事はどうなさるんですか!」


「お前に任せる。」


「領主の署名でなくてはどうにもならないものもあります!」


「そういうのは帰ってからで。」


「重要な書類を何ヵ月も放置するおつもりですか!」


「何とかなるだろー。」


「なりませんっ!」


という攻防戦を繰り広げた結果、どうしてもエリックの決裁が必要な時はわたしが転移を使ってエリックの送り迎えをするということで落ち着いた。

まさしく大聖女の能力の濫用である。


ここだけ聞くと仕事をしないグータラ領主に見えるかも知れないけど、普段は領民だけでなくこの地を訪れる全ての人のことを考え、平和で笑顔の絶えない領地になるよう真面目に領主をやっている。


 ライオンの火の輪くぐり、小熊の玉乗り、ゾウのお絵かき。

こっちの世界に転生して初めて見る動物たち。子供達も小さな手をぱちぱち叩いて大喜びだった。


「マリー、このサーカス団どう思う?」


「とてもいいと思うわ。子供達も大喜びだし。」


「よし!決めた!このサーカス団を誘致する。」


「わーい!またぞうさんにあえる!」


「ぞうしゃんにあえるー!」


「ん、もう。まだ交渉もしてないじゃない。」


「それは明日。今から旨いカラマーダ料理でも食いに行こう。」


「子供達に辛いのはダメよ。」


「大丈夫、辛くないのもあるよ。」


そう言いながら、わたし達はカラマーダ料理のレストランへと向かった。


 人気の芸団をスカウトするのに公爵が直々に現地へ赴く必要は全くないのだけど、それを理由に一年に一度、短くて二週間、長くて数ヶ月間の旅に出ることはエリックの精神衛生上とてもよろしいようで。


旅から帰ったエリックは、とても楽しそうに旅先で出会った魅力的な芸団のことや、それに刺激を受けて思い付いた新たな興業の構想を語ったりした。


そんないつも胸に夢を抱き続けるエリックがとても素敵に見えた。

しかもその夢を叶える実行力も兼ね備えているところがかっこいいと思う。


 夜、夫婦の寝室のベッドで、二人で夢を語り合う。


「ふふ。」


「なに?どうかした?」


「ううん、幸せだな、と思って。」


「俺も幸せ。マリーと出会って愛する妻と可愛い子供にも恵まれて、しかも人々を笑顔にするという俺の夢も実現している。

俺の人生でこんな日々が送れるとは思わなかった。君のおかげだよ。」


エリックはわたしを抱き寄せて額に優しく唇を落とす。


「それは違うわ。全てエリックが自ら努力した結果よ。」


「それでも君がいなかったらこんな人生にはならなかった。」


「わたしもあなたがいなかったらこんなに幸せにはなれなかった。」


「愛してるよ、マリー。」


わたしもよ、と返したくでも唇が塞がれてしまいそれは叶わない。

わたしを見つめるエリックの瞳に熱が籠る。

こうなってしまうともう彼を止められない。


ああ、三人目に出会える日も遠くなさそう・・・。







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あたしも聖女をしております 斉藤加奈子 @kanak56

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