Fさん、67歳、年金暮らし、嗅覚異常

 2/22 来院。

     二日前より、嗅覚異常。

     なにかが腐ったような嫌な臭いがする。

     ずっと臭いにつきまとわれている。

     鼻栓をしても臭いが消えない、という。

     鼻腔内を検査したが、異常なし。

     原因は不明。

     病的なものとも考えられないので、経過観察に。


 2/27 来院。

     前回と同じ症状が継続中。

     以前よりも強くなった、という。

     いまいちど鼻腔内を検査するが、異常なし。

     そのほかの症状もなし。

     臭いがきついせいでほかのことに集中できず、

     生活に支障を来たしている。

     依然、原因は不明。

     診察上、問題を確認できない。

     経過観察に。


 2/30 当人より電話が入る。

     「臭いが一時的に途切れた」という。

     同日、当人は夜道を散歩していた。

     住宅街を歩く中では臭いがしたが、

     山中にある広い公園に来たときには臭いがしなかった。

     臭いがする場所としない場所がある可能性。

     精神的なものだろうか。


 3/4  来院。 

     依然にして、嗅覚異常が続いている。

     基本的に継続的だが、

     ときどき、臭いが途切れることもある。

     その逆で、臭いが強まることもある。

     当人が言うには、「墓場はとても臭い」という。

     街中も臭い。

     山や川などの自然に出かけると、臭いがなくなる。

     当人は、次のように考えた。


     死の臭いを嗅げるのではないか。

     つまり、人間の死体が近くにあると、臭いがするのではないか。

     街中では、どこかしらで毎日人が死んでいる。

     だから、臭う。

     墓場には人間の骨がたくさん埋まっている。

     だから、とても臭う。

     反対に、周りに誰もいない開けた場所や自然には死体がない。

     だから、臭わない。

     

     あくまでも当人の考えである。

     診察上は判断できない。

     異常は、一切、確認できていない。


     当人によれば、住宅街の中にひとつ、とてつもなく臭う家があるという。

     一般的な日本家屋の一軒家だが、臭いが凄まじい。

     その家にちょっと近づくだけで、気絶しそうなほど臭う。

     その家の前を通るときは、走らずにはいられないという。

     なぜなのか、不明。


 3/30  夕方のテレビニュースで、大量殺人事件が報じられていた。

      当人が指摘していた、よく臭う例の家の中から、

      13体の絞殺死体が発見された。

      臭いと死体には、実際に関係があるかもしれない。

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黒いカルテ 山本清流 @whattimeisitnow

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