炎の写真
バラバラ殺人がテレビで報じられていたころ――いまから二か月ほど前は、社内もその話題で持ち切りだった。うちの会社から徒歩二〇分の場所から、右脚が見つかったそうだ。頭部だけ、まだ発見されていないという事件だった。
そのころ、うちの会社に顧客としてやってきた愛想のいい男が、対応した社員に、素敵な写真をプレゼントしてくれた。満天の星空を背景に焚火をする男たちのシルエットが映った写真だった。「昔に、仲間と一緒にキャンプ場で撮った写真なんだが、お土産代わりにもらってくれ」と差し出してきた。とてもきれいな写真だったから、うちの社長がたいそう気に入り、オフィスに飾ることになった。
その写真を飾ってから二日後だった。オフィスの外にある階段で、女性社員が転落事故を起こした。踊り場から足を踏み外して、前向きに転がり落ちた。幸いにも命に別状はなかったが、全治一か月の胸骨の骨折だった。
その三日後、会社としての一世一代の取引が取り消しとなった。担当していた社員が取引先の社長に無礼な態度を取ってしまい、全部、パーになった。会社の命運を左右する取引だったため、その影響で社内の士気は下がった。士気が下がると、些細なミスが続発するようになった。
ミスが続発する中で、次々と取引が失敗に終わっていく事態となった。商品開発部のアイデアマンだった女性社員がうつ病に倒れるという災難も続き、会社としての機能が破綻していった。
いまから一か月ほど前になって、若手社員が気付いた。「あの写真をオフィスに飾ってから不幸が続いているような気がする」と。その意見はたしかに事実だった。写真を飾ってから、不幸が相次いでいた。社長は、焚火の写真をオフィスから撤去することに決めた。
その写真を倉庫に仕舞うと、すぐに大きな取引が舞い込んでいた。その取引は順調に進んで、二週間もしないうちに社内が活気づいてきた。転落事故を起こした女性社員が退院したり、社外で活躍していたアイディアマンを中途採用できたりと幸運が続いた。会社としての機能が回復していった。
「やはり、写真のせいだったのかもしれない」という意見が社内で共有された。わたしもそう考えている。しかし、あの写真はなんだったのだろうと気になった。今日、わたしは会社の倉庫に向かい、問題の写真を手に取った。よく観察すると、気が付いた。
焚火ではない。丸い物体を燃やしている。大きさからして、ちょうど、人間の頭部のようなものを。
頭部だけ発見されていないバラバラ殺人事件と関連性があるのかは知らない。ただ、その写真をプレゼントしてくれた顧客の男に電話をしても、連絡がつかない状況だ。あの写真はひょっとして――というのが、いまのわたしの想像である。
怖い日記 山本清流 @whattimeisitnow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。怖い日記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます