ワイングラスで遊ぶ

 今日は、ちょっと怖いことがありました。そのことについても触れておきますが、まずは、雑記を。


 いつものように、娘が泣きはじめて一日が始まりました。なにを求めているのか、生後一年になる娘はなかなか泣きやみません。いろいろと苦心していたわたしですが、最近になって、娘を泣きやます面白い方法をひとつ見つけました。水をたっぷりと入れたワイングラスで遊ぶのです。


 ワイングラスに水をたっぷりと入れると、グラスの湾曲した構造と水の屈折作用によって、向こうに透けて見える景色が歪みます。それを利用して、変顔をするのです。水をたっぷりと入れたワイングラスをテーブルに置き、それを挟んで、娘の前に自分の顔を置く。すると、娘が、面白がって笑ってくれます。


 それで泣きやみ、一件落着。娘が泣きはじめたときにすぐ変顔ができるように、水を入れたワイングラスを常時、テーブルに置いていました。泣きはじめたらすぐ、そのワイングラスを利用しました。


 今日も、傍から見れば奇っ怪な、そんな生活を続けていたわけなのですが。


 それは午後三時ごろだったと思います。リビングのローテーブルの脇にいた娘が突然に、くすくすと笑いはじめました。珍しいこともあるものだくらいにしか思っていなかったわたしですが、すぐ、さすがに珍しすぎるだろうと思い直しました。


 最近はずっと、娘はご機嫌が悪かったのです。変顔をせずとも笑いはじめるのはおかしい。わたしは、娘に近付いて、なにがあったか探ろうとしました。すぐに気が付きました。娘は、ローテーブルの上に置かれた、たっぷりと水の入ったワイングラスを見つめていました。


 そして、笑っているのです。


 なにを見て、笑っているのだろう。それが、わたしの率直な疑問でした。それは単純な好奇心でもありました。ワイングラスを通して見える向こうの景色が面白く歪んでいるのではないか。わたしは、娘がワイングラスを通して見ているだろう場所を見ましたが、そこには電源の切れたテレビがあるだけでした。


 どういうことだろう、と気になりました。わたしは、屈んで、娘の横からワイングラスを覗きました。


 たぶん二十代くらいの、歪んだ女の顔が見えました。


 はっとして、身体を起こしましたが、そこには誰もいませんでした。ただの幻覚だったのだろうか。そうなら、娘はどうして笑っていたのだろうか。なんだか後味の悪い体験でした。

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