最終話 仕事は続くよどこまでも
最終話 仕事は続くよどこまでも
「おおー、偉大なる死の精霊よー、地獄の王よー
ディアストラナガンよー、我、希求し奉るー。
この生贄と引き換えに、我に偉大なる御身の力をー…あーたーえーたーまーへーーーーーーっ」
「「「「へへーーーーーーーーーーーっ」」」」
暗いかがり火の中で頭から黒いローブをかぶった男と、それに似た数人が、奇妙な文様の前でみょうちくりんな動きをしているのが見える。
その文様は不出来な魔法陣で、しかしまったく意味のないものだった。
その無意味な魔法陣の上に寝かされた幼い子供。
まだ二歳かそこらだ。
死の神を呼び出すにはみずみずしい命の輝きが良い、とそう言われていることを俺は知っていた。
風評被害である。
そんでなんで俺がこれを見ているかというと俺の名前が呼ばれたからだ。
元の名前とかあとからの苗字とかごっちゃになっているから長ったらしくなっているのだが、俺は最近死の神とか呼ばれている。
地獄の王とか呼ばれている。
本当はただの中間管理職なんだけどね、下っ端の仕事として死んだ人の魂の回収とかフォローとかしているうちにそんな風によばれるようになった。
俺的には地獄の王とかまったく似合わない名前だ。だって中間管理職のサラリーマンみたいなことやってるわけだし…
だが俺も精霊のお仕事に結構慣れた。そこそこ長いしね。だから名を呼ばれればなんとなくその場が見えたりするようにはなっている。
精霊召喚の基本だそうだ。
力の弱い下位の精霊だといきなり呼ばれてワタワタすることもあるのだが、ある程度力が強くなるとあらかじめわかるのでブッチしたりできるのだ。
まあ、やらんけどね。
こういう手合いをぶっちすると世界の歪みが増えるだけだ。
そして世界に歪みを作るやつは放置できないのだ。
つまり残業確定である。
『やかましい!! 仕事を増やすなーーーーっ』
召喚の場が揺らいで黒ローブが『おおーっ』とか喚声を上げ、そのタイミングで子供にナイフを…というところで俺は正面の男に思いきり蹴りをかました。
「ぶべら!」
ごろごろ転がって後ろの男たちに激突、見事にみんな吹っ飛んだよ。
ストライークというほど人はいなかったからスペアか?
「きっ、きひゃまにゃにものひゃ! 邪神か? おおっ、死の神よまもりたまえー」
『呼んどいて人間違い扱いとかひどくね?
お前らが呼んだんじゃん』
「嘘だ!」
おっ、真っ向否定しやがった。
「わが神がそんなに軽薄なはずはない!」
あー、それは否定しきれないかな…
「それに見よ、我が神の偉大な姿はこうだ!!」
そう言うと黒ローブは後ろにかけられていたタペストリーを指さした。
『ぶっ』
《あー、ごっちゃになっているでありますな》
《かっこいいかもですよー》
そこには象にまたがり、背中に、後光のように枝を広げた木を背負った骸骨が描かれていた。
つまりモース君と華芽姫と獄卒がごっちゃになっていて俺自身の要素が全くない。
『あほかーーーーっ』
ずばっ!
「「「ぎゃーーーーーーっ」」」
おっといけない、気が付いたら切っちゃってたぜ。
大鎌の先に黒ローブたちの魂五つ。
《良いでありますか?》
《ありますかー?》
いいっていいって、こいつらはよくないものを召喚しようとして失敗して死んだんだよ。
それにそれなりに臭いし、結構歪みをため込んでるみたいだから地獄に回収で問題なし。
本人たちも地獄が恋しかったみたいだから、しばらく堪能してもらおう。
《そういう意味ではないと思うでありますが…》
うん、知ってる。
『さて、せっかく呼ばれたんだから少し遊んでいくかー』
俺は地上に向かった。
いけにえにされそうだった子供を回収して。
◇・◇・◇・◇
「だれかーーーーーっ、子供が倒れているよーっ
加護持ちだよーーーーーっ」
「精霊様だ」
「ありがたやありがたや」
「もう大丈夫だぞ」
助けた子供が町で回収されるのを見届けてその場を離れる。
ここはアリオンゼール王国の…どっかだ。うん、どっか。
《いいかげんでありますなー》
「そんなこと言われてもな、もうずいぶん経つからけっこう町の位置とかも変わったし」
そう、俺たちが生きて大騒ぎしていた時からもう数百年の時間が流れた。
当時生きていた人たちは当然天寿を全うして、すでにこの世界を去っている。
そしてメイヤ様(や俺たち精霊)のケアの下、さらなる高みに行くために別の世界に転生をしている。繰り返している。
命というのは中身が基本で、肉体というのはその時その時の形でしかなかったんだよね。
中身は成長していくし、終わることもない。命は続いていくのだ。
そして命たちは不思議と今の自分にふさわしい世界にながれていくもののようだ。
だから異世界に落っこちるというのは基本的によろしくない。
まあ、それでもこっちに落ちてきた人は歪みが出ないように対処できるようになったし、世界の境界の穴も発見しだい修復されるようになったのでそういった意味での歪みも減った。
その意味でもあの戦いはラストバトルだったな。
まあでも、世界なんて無数にあるからさ、完全に対応するなんてほぼ不可能なわけで、つまり俺たちの仕事はなくならないということらしい。
一応俺はここの管轄ね。
さて、現在アリオンゼールは専制君主制から立憲君主制に移行はしたがちゃんと王国として続いている。王家も健在だ。
俺の子孫になる。
と言ってもサリアが王位の継承争いで王位についたというわけではない。
あの娘はフリーダムだったので王様にはむかないだろう。
非常時ならともかく、大きな騒ぎもあれっきりになったのでこういう時に王位につくのは普通の人がよい。
ただ俺の孫がね、当時の王太子と恋をしてくっついてしまったんだよ。
恐妻家の王様とアグレッシブすぎる王妃様で結構うまくやったようだ。
現在の王家はその後裔ということになる。
だから俺の子孫だ。
王家には俺の呼び出し方法とか教えてあるし、時々降りてきて助言したりしているのでこの国でも俺は祀られていたりする。
なかなか良い関係だと思う。
現在アリオンゼール王国では文明の神と冥界の神そして豊穣の神が土地神として大事にされているが文明と冥界の神が俺のことだ。
表向き別の存在になっているので一応三柱の神をまつっていることになるね。
文明の神に関してはいろいろやりすぎたということだよ。
携帯電話とか、魔動車とかいろいろ生活を便利にする道具を公開しまくったから。
反省は…している。後悔はしていない。
現在のこの国は、地球の文明にファンタジー要素を加えたような文明を築いている。高層ビルとか携帯電話とか普通にあるのだ。
医療とかも発展している。
それでいて動力が魔力なのでクリーンで、ところどころファンタジーで面白い文明になったと思う。
そして時々精霊に助けられた子どもなんかが見つかることがあって、その子は額に目印とか付いているのでそういう子を見つけたら保護するようなシステムもあったりするのだ。
つまり今回のようなケースだ。
ちなみに目印は俺の手書きだ。
他には…そうそう、俺とルトナの子孫は、やっぱり獣人らしくどこかをふらふらして、テケトーに子孫を残して、子孫たちは今もどこかでテケトーに生きている。
クレオとも同様。
みんなで子育てしている時が一番楽しかったかもしれない。
そんな感じで獣人は相変わらず自由に生きている。アリオンゼールは法を犯さない限り獣人も普通の市民扱いしているので大して問題はないようだ。
エルフたちも元気に森の中で暮らしている。
表向きは独立国という形になった。その方が座りがいいからだそうだ。
政治形態は元老院政。
アリオンゼールとは同盟関係でお互い独立国として助け合う形だ。軍事的にもね。
そして、アリオンゼールはこの大陸で一番の大国になっているから喧嘩を売ってくるようなバカは…まあ、いるんだけど、その都度ちゃんと踏み潰しているから問題なくやっている。
永遠の王国などあるはずもないが、しばらくは大丈夫そう。
この世界は精霊とか土地神とかがいて、彼らと良好な関係を築いた国の方が安定するので、息の長い国はかなり長生きする傾向にあるようだ。
ガタガタ騒ぐような国は長続きしないということだね。
長く祀られていた方がまつられている側も安定して力が増すから。
国として、諸々問題がないわけではないが、それはどこの世界でもあることだし、俺が口を出していいような話ではない。
人が生きていれば生まれる問題だ。
俺はただひどい歪みを解消し、歪みの元を刈り取るのみなのだ。
ちゃらりら~♪ ちゃらりら~♪
とか思っていたら電話がかかってきました。
多分仕事の電話だな。
携帯の音がする度にいやーんな感じがする。昔地球にいたころ、兄貴たちが休みの時間に携帯が鳴ると嫌な顔をしていた理由が分かる。
これが携帯恐怖症か…
携帯をとって相手を確認する。
上司である。
冥界に携帯電話を持ち込んだことは最大の失策かもしれない。神託が全くありがたくない。
「はい、ディアです」
「あっ、ディアちゃん?」
ありゃ? ルトナだ。
ルトナも元気だよ、といっても人間として生きているわけではないのだけどね、英霊としておれの補佐をしてもらっている。
あのあと何回か別の世界に転生して、俺やメイヤ様のサポートで活躍して、英霊として冥界に帰りざいた。
精霊になってしまった俺と違って、完全に輪廻から外れたわけではないのだけど、まあ、俺もそうなのだけど、格が上がるとサイクルが伸びる。
あと数百年ぐらいは転生はしないんじゃないかな。
俺の方は数千年単位だ。
サリアとクレオは現在他の世界で修業中。しばらくすれば戻ってくるだろう。
そしていつか同じように…ということだね。
さて、電話の方だが…
「メイヤ様が地球との境界に大きな歪みが発生したって言ってたよ。すぐに修復に向かってくださいって」
やれやれお仕事だ。
断られないようにルトナに電話かけさせたな!
『携帯が、あれば仕事が追ってくる』
いい川柳だな。
「おいしいご飯作って待っているから頑張ってね」
大立ち回りだと喜んでついてこようとするルトナだけど、今回見たいな土木作業には関心を示さない。
どれだけたってもわかりやすい女だ。
仕方ない。仕事に行くか。
それが
END
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
これにて終幕となります。
皆様長い間ありがとうございました。
不思議と思い入れができてしまった作品で、終わりが見えてきたころから、それが随分と惜しいような。もっと続けていたいような、そんな郷愁を感じてしまい、思うように進めなくなってしまいました。
振り返ってみれば本当につたなくて(今も大して上達はしてませんが)誤字も脱字もいっぱいなんですけど、とても、大事な作品になりました。
ここまで続けてこれたのは皆様がいてくれたおかげです。
ありがとうございました。
他にも小説は書いていますので、そちらの方も、よろしければ読んでやってください。
ぼん@ぼおやっじ
精霊のお仕事 ぼん@ぼおやっじ @74175963987456321
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