第4話 上位自我出現

 だが、「週6日筋トレプログラム」を始めて二週間目あたりで幻視体験があったことを述べておく。精神医学では「上位自我」と呼ぶらしいのだが死んだはずの母親が現れて「アメリカ人より強くなったら殺す」と言った。

 更に顔が母親の蟹が映画のCGのような半透明の姿で現れ、歩いている時に私の足を挟もうとした。


 簡単に書くと亡母はいわゆる毒親だった。古い世代の高学歴の女性にありがちだが、日本の男性社会を嫌っていた。それを父親の前で出すことは無かったが子供には不満をぶつけていた。やはりもう他界した父親は体育会系の力自慢の男だったが子供をぶつことは無かったが母親にはよくぶたれた。


 母親は私を含めた子供達に「初詣禁止」など日本の習慣に染まらないような教育方針を施した。だからといって幻視体験に現れてくるのはおかしい。それ以前に幻視体験をすること自体がおかしい。俺は自分で統合失調ではないかと疑ったが、いつも診てもらっている先生によれば「統合失調の人はそういった体験を現実として認識する」そうなので幻視と認識しているうちは大丈夫らしい。


 母親が幻視体験に現れたのは初めてではない。以前白人のおじさんと腕相撲をしている時死んだはずの母親が笑顔で現れ「白人には負けておきなさい」と俺に諭した。それが最初の母親幻視体験なのだが、動揺した私は力が入らず負けてしまった。


 別に特殊な思想の持ち主でなくとも「日本人は黒人や白人に力で負ける」と信じている人がいまだにいる。だが、腕相撲で言えば一番強かったのはトルコ人だった。イスラム圏の男は筋トレや格闘技が好きで概して強い。アメリカ人は軍人やプロスポーツ選手はもちろん強いが一般人はそれほどでもない。アメリカ人に関して言えば彼等のステロイドユーザー率は高い。しかしステロイドユーザーの多くは見た目の結果が出てきたらトレーニングを怠ける傾向がある。


 欧米人は知力体力に優れモラルも高いというのは現実を知らない人々の主張で実態は日本人と比べて特別立派でも強くもない等身大の人間なのだ。

 2020年の現在でも現実を述べると嫌がる人達がいる。そうした人々の話をネットでよく目にしたから母親が幻視体験に現れたのかもしれない。


 今でも筋トレをして肉体的に強くなること、それを通して自信を得ることに罪悪感がある。明らかにおかしいのだが、「それが潜在的な暴力や戦争を生み出すのだ」と教育されてきたのでそう思ってしまうのだろう。


現実には腕力や自分に自信が無い奴に限ってナイフを持っている。人を刺したことのある人間にはそれなりの特殊な雰囲気があり、すれ違うだけで寒気がする。そういう奴も筋トレや格闘技に接することで却って平和的な人間になるのだが世界全体が「誤った非暴力」に毒されているように感じる。少なくとも私は「誤った非暴力」に毒されていると自覚している。

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