第3話 プログラム開始

 そして今年。週6日筋トレをして一日休むを8週間続けるというトレーニングプログラムでうつを治そうと思い立った。別にそういうプログラムを指導している場所でトレーニングしたのではなく自分でプログラムを組んだ。

 

「お前さ、死ぬかトレーニングするかどっちか選べよ」

 脳内の誰かが耳元でささやいたような気がした。私はトレーニングを選んだ。


 どんなトレーニングを選んだのかというと前にも書いたように自体重トレーニング中心。ダンベルやケトルベルも持ってはいるのだが結局使わなかった。ただ、重さ1.3㎏の片手用ハンマーは素振りで使った。木刀の素振りでもいいのだがさすがに部屋の天井や壁にぶつかってしまいやりにくい。「週6日プログラム」を始めたのは8月26日。10月20日で56日、つまり8週間となる。


 双極性障害Ⅱ型なのに長続きしたなと思う人もいるだろう。世間一般の人は「一日中何もやる気が起きなくて家でゴロゴロしているのがうつ病患者」というイメージを持っている。実際そういう人は多い。だが「こんな自分じゃダメだ!」という強迫観念にとらわれてマラソンなど激しい運動をする人もいる。私にもそんな強迫観念がある。


 そんな強迫観念に背中を押されて始めた「週6日プロブラム」だが、おおまかにワークアウトの内容を説明する。


 まずAメニュー。懸垂2種類、腕立て2種類、腹筋2~3種類、脊柱起立筋1種類、スクワット1種類、ハンマーの素振り。

 そしてBメニュー。腕立て2種類、スクワット1種類、脊柱起立筋1種類、スクワット1種類。ハンマーの素振り。


 AメニューとBメニューを交互にこなすのだがそれにストレッチを含むクールダウンがどちらにも入る。ワークアウトの時間は45分を上回らない。それを超えると次の日が辛くなり、純粋な筋トレとしての効果も薄れてしまう。懸垂が2日おきになるのは広背筋や大円筋などは腕立て伏せでも使うので疲れが取れにくいから。


 腕立てや腹筋は週6日やるのだが、確かに最初の2週間は特に腕立てが辛かった。スクワットも自体重で60~80回1セットとはいえ毎日は辛い。

 頑張れば出来る。確かにそうなのだがこれでは続けるのは無理だ。そう感じた私は手を抜くことにした。例えば足に疲れが残っていれば80回を40回に減らしてみたり、腕立て伏せ4セットが辛ければ3セットに減らすなど。


 私の場合、頑張ることより手を抜いたりさぼるのが難しかった。


 私は普段2週間に6回、あるいは2日連続でやって1日休むなどのトレーニングを続けてきた。これだと多少やり過ぎても問題は無い。そして双極性障害Ⅱ型の症状はあまり改善しなかった。具体的に書くと、以前は疲れている筈なのに午前4時に目が覚め筋トレをこなし、その日は疲れて頭も朦朧としているなどが頻繁にあった。


 そういう日は昼間の眠気にさいなまれコーヒーをがぶ飲みして吐き気がすることも多かった。なら昼間自分を疲れさせればいいんじゃないかと昼間筋トレをしても効果は薄かった。当時は「手を抜く」「さぼる」という発想は全く無かった。


 しかし、例えば時速200㎞で車を運転していたらT字路にさしかかったとする。減速しなければプロのレーシングドライバーでも曲がりきれない。


 そこを減速しないで曲がるのを「真面目」と認識して働いたり勉強するのが双極性障害Ⅱ型及びうつ病患者。事故を起こして死ぬのは当たり前なのだ。カーブを曲がり切れても車はボロボロになる。

 私も日々ボロボロになって、それでも「まだ自分には真面目さが足りないんだ」と思っていた。思い返すと以前のままでは過労死したと思う。


 ただ、前述の「週6日プログラム」を始めてみると毎日のワークアウトの量を自制しないと明日明後日のワークアウトが出来なくなることに気付いた。

 公務員時代は毎日自制していなかった。「仕事熱心だ」と褒められれば自制する理由など全く思いつかなかった。公務員が民間より楽というのは労働時間で測ればその通りだが、ネットで愚痴など書けばお堅い職場のことなので「犯人捜し」が始まってしまう。

 

 渋谷で遊ぶというのもよく思われていなかった。かといって地方都市の狭い盛り場で飲んでいたら課長とでくわしてしまうという気まずさ。


 今は独りぼっちで暮らしているが、別に苦にならない。筋トレより職場の課長と顔を合わせることのほうが辛い。


 人間関係が辛いのは他人を変えるのは不可能に近いから。自分を変えるのはそれに比べれば案外楽。だから「双極性障害Ⅱ型なのに筋トレが出来るのはおかしい」という人に向けて書いておくが、筋トレはやってみるとすごく楽だし脳の働きを改善してくれるので私にとっては楽しい作業だ。

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