第9話:農園ダンジョン

「私の魔力を食べてダンジョンを変化させてください」


 聖女ルイーズがエチェバル辺境伯領に入って最初にやった事は、ダンジョンコアを従魔にする事だった。

 魔境以外の領地がとても狭いエチェバル辺境伯領では、魔境の中に居住地を設けなければ、十分な生活環境を整える事などできなかったからだ。

 だが魔境は、鍛え上げた兵士でもとても危険な所で、女子供が普通に暮らしていけるような場所ではなかった。

 だから、ダンジョンコアを従魔にして、人間が住み易いダンジョンを作るのだ。


「はい、どのように変化させればいいですか」


 危険な魔境部分に出入り口を設けてしまうと、安全なダンジョン内に入る前に獣や魔獣に襲われてしまうかもしれないので、出入り口は魔境外の領主屋敷にあった。

 ダンジョン入口の外側と内側は、歩兵軍団の将兵が厳重に警備をしていて、その奥には歩兵軍団の家族や貧民が暮らす家が並んでいた。

 ダンジョン内ではあるが、出入り口以外にも格子状の大きな採光天井があり、強力な魔獣の侵入を防ぎつつ、十分な光と空気がダンジョンの一階層に取り入れられるようになっていた。


「それに、自給自足のための耕作地や放牧地が欲しいわね」


 聖女ルイーズの願い通りに、広大な採光天井の下は麦畑や水田、牧草地や果樹園が広がっていて、一軒一軒の家庭が自給自足できるようになっていた。

 最初に魔素と養分が豊富な魔境の腐葉土を大量に取り込んだことで、耕作用の土壌としては最高の場所になっていた。

 水田にはドジョウなどの小魚やタニシなどの食用にできる貝類も住み、順番に植える物を変える畑と放牧地には、鶏や鴨、豚や山羊といった家畜が飼える。

 もちろん騎兵のための軍馬を放牧する事もできる。


「今までのダンジョンはそのままにして、少しずつ成長していけばいいわ。

 吸収と維持に必要な魔力が不足するようなら、いつでも魔力を分けてあげます」


 人間が安全に暮らすための階層を新たに作るために、多くの魔力を必要としたが、その全てを聖女ルイーズがダンジョンコアに与えた。

 広大な農園ダンジョン層を作った事で、ダンジョンコアの魔力バランスが崩れてしまったら、聖女ルイーズ亡きあとにダンジョンコアが死んでしまう。

 そんなことにならないように、魔境で狩った獣や魔獣はできるだけ農園ダンジョン層で解体して、ダンジョンコアの力に還元する仕組みを確立したかった。

 本来なら殺すのも農園ダンジョン層で行えればよかったのだが、狩るよりも生け捕りにする方が難しいので、歩兵軍団員に無理はさせられなかった。


「私が生きている間は必要な魔力は全てあげましょう。

 その代わり、私が生きている間に、私が死んだ後でも人間が安全に暮らせるダンジョンを作ってください、いいですね」

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婚約破棄追放された聖女はダンジョンコアを魅了して農園ダンジョンを作ります。 克全 @dokatu

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