スクールカーストなんて○○だ!

夕景あき

スクールカーストなんて○○だ!

高校では顕著にスクールカーストが現れる。

まるで昔の身分制度のように、付き合う相手も、同じカーストから選ぶのが一般的だ。

スクールカーストの上位者と下位者が結ばれる、身分差の恋·····などはめったに起こらない。

めったに起こらないからこそ、身分差の恋は漫画やアニメなどの物語になるのだと、私は思う。

そもそも、スクールカースト下位のものには恋愛すら縁遠い。だから『リア充爆発しろ』なんて単語が誕生するのだ。


私の中には「スクールカーストなんて糞喰らえ!」という思いと「スクールカースト上位者でいたい·····」という相反する思いが同居し、大きなストレスを生んでいた。


幸いな事に、私は母親譲りの色白小顔と、父親譲りのくっきり二重と明るい性格でスクールカースト上位者でいられていた。高校からメイクを覚えたことによる影響もデカい。少しぽっちゃりしてる点がコンプレックスだが、絶賛ダイエット中だ。


ちなみに私は、中学時代から重度の乙女ゲームオタクになった。

深夜に何気なくつけた、テレビに映った美少年に心を射抜かれた事が、きっかけだ。

あの頃の私は疲れ切っていた。中学入学と共に、人からどう見られるかが異様に気になりだして、学校にいる間ずっと周りの評価を気にしていた。

家に帰ったあとも、学校での友人との会話を、「あんな言い方しなけりゃ良かった」「SNSにあんな書き込みしたから、嫌われたかも」とあれこれ思い返して悶々と眠れなくなる日もあった。外では明るい性格だと言われるが、実は気になりだすとことん落ち込むタイプだ。

その日も、悶々と考え深夜になってしまった。このままじゃ寝れないなと思い、気分を変えようと何気なくテレビをつけた。その瞬間、画面にどアップで映ったアニメの美少年が「ありのままの君が好きなんだ!」と叫んでいた。

今思い返すと、ありきたりのセリフだが、当時『人から嫌われないキャラ』を作りすぎて、ありのままの自分を見失ってた自分には、泣きたくなるほど魅力的なセリフに聞こえた。

そこから、そのアニメを毎週録画し、初回から動画配信で見て、関連サイトに行き、DVDを購入し、乙女ゲームが元と知って購入してやり込み、そこから乙女ゲームの沼にどっぷり浸かった。


学校での今の立場を失わないために、オタクであることは絶対にバレないように生活していた。オタクとバレたらスクールカースト下位に転落必須だからだ。グッズの買い物はネットだし、外では絶対にバレないように気をつけていた。

乙女ゲームのグッツが収納された、自室のクローゼットの中だけが私のオアシスだった。中2から始まってかれこれ4年も経つと、クローゼットの中はグッズだらけでパンパンになった。


夏休み前のある日、同じクラスでサッカー部のエース、セイジに告白された。

セイジはツーブロックの茶髪で前髪が目にかかる位の長さだ、クラスでも目立つスクールカースト上位の男子だ。周りの男子達といつも騒がしくしている。スクールカースト下位の男子をいじったり、先生への暴言を吐くことで、自分の地位を誇示するような幼さもあった。

私の彼への印象は『いつも騒いでうるさいな。不快だ。つーか、前髪ジャマじゃないのかな?いつかハサミでバツンと切ってやりたくなるな』というものでしか無かった。

しかし、セイジは何を勘違いしたのか、

「ヒロコって俺の事、見てること多いよな。俺の事、好きなんだろ?付き合おうぜ」

下校時に急に呼び止められ、壁ドンされて言われた。

壁ドンというか正確には下駄箱ドンだったので、暑い時期ということもあり皆の脱ぎたてホヤホヤの上履きから立ち上る芳しい匂いに、私は「うっ!」と呻き声を漏らした。


私の呻き声を、セイジは「うん」という了承の返事と勘違いしたらしく、満足げに部活に向かってしまい誤解を訂正することができなかった。

そのままなし崩し的に彼と付き合ってしまったのは、スクールカーストに惑わされたせいもあったと思う。


付き合ってみて後悔したのは、彼のデリカシーの無さだ。

夏休み中に、セイジと私は映画デートに行くことになった。彼のポップコーンをボロボロこぼす食べ方や、咀嚼の音の大きさにウンザリしつつ映画を見終えた。

映画の帰り、両親が出掛けている話をしたところ、セイジはすごく執拗に私の家に来たがった。

うだるような暑い日だったし、ゲームにお小遣いを注ぎ込みすぎてカフェに入るお金もあまり無かったので、セイジのあまりのしつこさに根負けして、仕方ないから私の部屋に来させてあげる事にした。


しかし、その判断をした事に、私は大いに後悔することになる·····。


なんと、私がお菓子と飲み物を用意しようと部屋を出ている間に、セイジが勝手に私の秘密の詰まったクローゼットを開けたのだ。


あの日の怒りは、一生忘れない。


「·····な、なんだこれ!?」


クローゼットの中身を見て唖然としているセイジに、私は金切り声で叫んだ。


「出てって!!アンタとはマジで無理!別れて!」


尻尾をまいて逃げていくセイジの後ろ姿を見ながら、私は何もかもに後悔し始めた。


夏休み明けにクラスに行くと、案の定の展開が待ち受けていた。


「ヒロコって実はオタクなんだぜ!マジで、キモかったから振ってやったわ!」

「マジかよww」

「あいつの部屋のクローゼットの中、なんか銀髪のゲームのキャラクターのポスターで1杯だったし、抱き枕まであったんだぜ!マジでキモかったわ!」


セイジはわざと、クラス中に聞こえるような大声で話している。

クラスの視線と嘲り笑いが私に集中しているのを感じて、私は顔が真っ赤になるのを感じた。


その時、生徒会長のよく通る声が聞こえた。


「オタクであることは、蔑まれることではないと思うけど?」


生徒会長は黒髪短髪でスラッと背が高く、目鼻立ちがくっきりしている。勉強も学年トップ、スポーツも万能で、女子のファンも多かった。

以前、女子達でクラスでイケメンは誰かという話になった時、堂々の1位になったのが生徒会長だった。セイジがスクールカースト下位のものをいじったり、授業を妨害するといつも正してくれるのは、生徒会長だった。生徒会長はスクールカーストの頂点·····というより、そんな糞みたいな身分制度の次元を超えて、誰に対しても分け隔てなく接する人だった。


生徒会長は、セイジに向かって続けて言った。


「漫画であれゲームであれ、スポーツであれ、大好きな熱中できるものがある事は、素敵な事だと思うけど」


「なっ!ゲームとスポーツを同レベルにすんなよ!」


「好きなものに熱中してる事に、変わりないのでは?」


空手黒帯、剣道段持の生徒会長にそう言われて、セイジは言葉につまったが、負けじと周りの男子に向かって「生徒会長が女子びいきだと、男子は肩身が狭いよなぁ?」と同意を求めた。


すると生徒会長は、毅然と言い返した。


「いや、セイジを心配して言ってるんだ。セイジの今の言動は『自分は好きな人の大切なものを、大事にできない人間だ』と公言してるようなものだから····」


クラスで男子からも女子からも一目置かれている生徒会長にそう言われ、セイジは耳まで真っ赤になっておし黙ってしまった。


私は、この時の爽快感を忘れない。


それと同時に私はようやく気づいた。スクールカーストは『糞みたいなもの』ではなく『糞その物』だ。う○こだ。

歪んだ自尊感情と承認欲求、差別意識、劣等感情という人間の腐臭のする汚い部分の塊だ。トイレに流すべき汚物だ。汚物を処理しないから『いじめ』という病気に発展するのだ。


私は、教室内にデカデカととぐろを巻いていたう○こを気にして、好きなものを好きだと言えなかったのか·····と、途端に全てが馬鹿らしくなった。


ありのままの自分でいよう、糞のことは気にしない。

大丈夫、このクラスにはトイレを流して浄化くれる生徒会長がいる。


その出来事以降、私は吹っ切れて、好きなものは好きだと高々と宣言するようになった。

そのなんと、清々しく楽しいことか!


恐れていた女友達からハブられることは、特に無かった。

時々ネタにされる事はあるが、逆に、興味を持たれ、布教する側になって仲間を増やしたりしている。

新しいオタク友達もできた。


周りの評価より、自分の心を優先させて生きることが出来る強さがある人こそが、人生の勝者なのだ!



その後私は、生徒会長と恋に落ち·····たりはしなかった。



私に、ガールズラブの趣味はないからだ。


生徒会長は、『イケメン女子』だったからだ。

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