side 春

 私は自分の世界が嫌いだった。

 どんなに頑張っても、評価されても、罵倒されても、辱められても、教祖さま...いや父は、私を役目からおろしてくれることはなかった。

 聖女らしくあれと言われ勉学に勤しんだ。

 困っている人がいたら誰より早く声をかけ、ボランティア活動などにも積極的に参加して世間的には評価されてきた。

 父が私の行動が自分の理念に合わないと、直せと、『お前は必要ない聖女が必要なのだ。聖女に覚醒しろ』と言われながらぶたれても耐えてきた。

 父に『これは聖女になるため、いや聖女としての役割だ』と言われ中学生になりたての頃に知らない男の人に抱かれ、いや私の体は犯された。その後も続き、週に一回毎回かわるがわるで犯された。

 苦しかった、つらかった、悲しかった。

 だから、そんな世界の自分の手の中に幸福の二文字なんて存在しなかった。

 でも、あの人が私に幸せをくれた。

 普通の人たちからしたらちっぽけな、ほんの一握りの幸せだ。

 でも、私の手は幸せで溢れかえった。

 そんなあなたと離れたくなかった。

 あなたにそばにいて欲しかった。

 こんな世界抜け出してあなたと幸せな家庭を作って、娘か息子かわからないけど子供と一緒に手をつないで笑顔で人生を歩みたかった。

 でも、きっとあなたは私を軽蔑してる。

 あんなところを見られたんだもの、仕方ないよね。

 そんな中、私に吉報が舞い込んできた。

 父から最後の聖女の役目の通達だ。

 やっと終われる、これからは汚されない、今は軽蔑されてるかもしれないけどきっとチャンスが来るよね、と希望を抱いた。

 私は役目が書かれた文を読む。

 それを読んで私の中は、希望から絶望の深淵へと叩き落された。


 冷たい風がふく中、学園の屋上で空を見上げる。

 私はここであの人と関係を持つ。

 汚なく、汚され続けた私の体。

 綺麗とは絶対に言えない私の心。

 でも、どんなに理性で、経験で、心で、痛みでこらえようとしてもあなたへの愛情が勝ってしまう。

 薄汚い雌豚とそう変わりない私だけど最後くらいあなたの一番近くにいてもいいよね?

 今まで私を犯してきた男性たちは、父の宗教の信者たちだ。

 いつの日か父が教えてくれたこと、そして父は私にこう言った。

 『信者以外に体を許すな』と。

 だから私は本気であなたの大嫌いな宗教の信者にする。

 ごめんねが溢れてくる。

 あなたの人生を壊してしまう、その確信があった。

 我儘なのはわかってる、偏愛なのはわかってる、自己中なのはわかってる。

 気持ちは伝わらなくてもいい。

 ただ私はあなたを愛したい、愛されたい。

 虚像の気持ちだとしてもあなたの口から「愛してる」の言葉が聞きたい。


 屋上の扉が開く。

 ああ、ごめんね、ごめんなさい。

 こんな私のせいであなたをこんな目に合わせてしまって。

 あなたへの恋心と、申し訳なさと、自分の罪を心に抱えながら言い放った。

「待っていましたよ夕陽。あなたに世界の仕組みから全てを教えこんであげます。私たちの正しさを」

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