幾千の彼方より、
星宮 穹
プロローグ
side 夕陽
一段、一段。
階段を上がることに僕の体に重りが一つずつのしかかってくるように体が重くなる。
呼吸が荒くなり、心臓の鼓動も早くなる。
屋上の扉にたどり着くまでにはあと20段程度。
心構えはしてきたはずだ。
彼女がどれだけ汚れていようと、どれだけ狂っていようと、どんな思いで自分を誤魔化しているのだろうと、助けると...
助けられなくても最前の可能性を選んでみせると。
ここまできて怖気つきそうになってしまう。
相手は秋津教教祖の娘。
体、考え、心まで教祖の教えを濃く受けた人間。
別に喧嘩するわけじゃない。
侮蔑しにきたわけでもない。
殺しに来た訳でもない。
ただ、助けたいだけなのに。
ここまで心が不安定なのは何故だろう…
僕は自分に問う。
しかし答えはでない、しかしもう1人の僕が言う。
これはお前のすべきことだ…と。
それを繰り返しながらさらに1段、またさらに1段と階段を登っていく。
「にゃー」
突然の鳴き声に驚き体が硬直してしまう。
動かない体がさらに動かなくなってしまった。
体が震えてしまう。正直ちびりそうなくらいだ。
僕は動かないからだをどうにか動かし鳴き声の発生源の方を見る。
振り向くとそこには、1匹の猫がいた。
「なんだ、みゃ〜か。驚かすなよ…。心臓が止まりかけたよ」
みゃ〜とは彼女がこっそり飼っていた猫だ。
彼女に懐いていて、いつも甘えたがる。そのくせやけに空気が読める猫でもある。たまにその目線には何も無い虚空を眺めているような節もあるが。
みゃ〜はその場からジャンプし、僕の肩にのる。
早く行けと言わんばかりに足についてる肉球で僕を叩いてくる。
「はいはい、わかりましたよ。行けばいいんでしょ行けば!」
僕はみゃ〜のおかげで吹っ切れたのか先程の足どりの重さを感じない。
僕はいつも階段を登る速さで階段を登りきる。
屋上のドアのノブに手をかける。
ここからは戦いだ。
拳では無い。
遊戯でもない。
総合力でもない。
我等が使うのは論理、言葉と言葉の戦いだ。
彼女は自分のことを聖女だという。
彼女は自分には未来の選択肢が見えているという。
彼女は自分の選んだ未来をつかみ取れるという。
彼女は自分の命が代償だという。
そんなものは間違っている。
人はそれぞれ可能性という選択肢を持っているがそれが何なのかは分からない。
確定されてないし、選択肢なんてこていされてない。
それこそそこには代償なんてものは無い。
代償だと思うものは全て人間の間違った解釈だ。
この世は選択と結果、そして持続でできている。
さぁ、ここから僕が行うのは証明だ。
貴方はきっと理解るはずだ。
貴方は本当はそんなものを望んでないはずだ。
だから、証明してやろう。
あなたの宗教は間違っていると。
あなたの植え付けられた考えは間違っていると。
あなたの行動は間違っていると。
だって、
"この世に悪魔は存在しないのだから"
僕はドアノブを捻りドアを開け、1歩を踏み出す。
1歩、1歩、1歩、1歩と。
そこには彼女がいる。
僕は彼女の数メートル前で止まり軽く息を吸って喉、肺、心臓から声を出す。
「こんばんは、春。君を聖女から引きずり下ろしにきたよ」
「待っていましたよ夕陽。あなたに世界の仕組みから全てを教えこんであげます。私たちの正しさを」
この会話が始まった瞬間
僕と彼女の戦いが始まった。
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