【PR】クラシック音楽に興味を持つ方法(りえちゃんずルーム1)
なぎらまさと
クラシック音楽に興味を持つ方法
「先輩、おまたせ。あれ? 今日は画面にがっつり部屋が写ってるじゃん」
そうなんだよ、ちょっと事情があって今日は壁をバックにできなくてね。
「ふうん、事情ねぇ。まあいいや。で、何か相談したいことがあるんでしたっけ?」
そうそう。実は最近クラシックを聴いてみたいなぁって思ってるんだよね。
「うそ、先輩が? どうしちゃったんですか?」
別にいいだろ。大学生なりに普通に生活してれば色々と興味が出てくるだろうよ。で、りえちゃんさ、クラシック詳しいじゃん? 何か俺におすすめの曲を教えてよ。とりあえず何でもいいからさ。
「じゃあ……ブラームスの交響曲第一番」
何それ、カッコいいの?
「うん。超有名だし、間違いないですよ!」
うーん、りえちゃんが言うんだから多分いいと思うんだけどさ、何かいまいち、よし聞こう! っていう気にならないなぁ。普通さ、こういうときって『雨の公園にて』みたいな、もっとわかりやすいタイトルの曲をすすめるんじゃないの?
「何でもいいって言ったじゃん! どうせ私がこの曲のよさを……がと語ったと……で……」
あれ、りえちゃん? 画面がフリーズしちゃったよ。
「……ごめん、先輩。今は大丈夫?」
あ、戻ってきた。うん、今はちゃんと見えてるよ。
「えっと何だっけ、そうだ、ブラームス。この曲、私すっごい思い出があるんですよ。私が中学生ぐらいの時かな、いとこのお姉ちゃんが大学のオーケストラ部でヴァイオリンをやってて、演奏会を見にいったことがあるんです。で、その時にやってた曲がブラームスの交響曲第一番だったんだけど、コンサートマスターを務めるはずだった人が当日に病気になって出られなくなっちゃって、いとこのお姉ちゃんが急遽コンサートマスターをやることになったの」
ほお。
「でね、この曲の第二楽章って、後半にコンサートマスターがすっごい長いソロを弾かなきゃいけなくって、でもお姉ちゃんはそんなの練習してないから、当日のリハーサルでは全然弾けなくって、それでリハーサルが終わってから本番までの間にずっと練習してたんだって」
うんうん。
「私はその話は終わってから聞いたんだけど、お姉ちゃんすごい上手だったし堂々としてたから、客席で聞いてるときは全然気づかなかったんだよね。で、演奏が終わって指揮者の先生が客席の方を向く時に、お姉ちゃんを立たせて、一緒に客席の方を向かせたの。それで一段と拍手が大きくなって、お姉ちゃんその場で泣き出しちゃって。ヴァイオリンの女の人も何人も泣いてて、それを見て私も訳もわからず感動して泣いちゃったんだよなぁ」
「……あれ、先輩? 聞いてました?」
うん、聞いてたけどさ。りえちゃんって、悪いよねぇ。最初からこの話をしようと思ってたんでしょ? まんまと感動したよ。今すぐブラームス聴きたい! どんなヴァイオリンのソロなのか聴きたいよお!
「た、確かにこの話をしたらいいかなと思ったけど、こんなに効き目があるとは。やっぱりあれですね、人間が一番関心があることって、人間そのものなんですねぇ」
何だよそれ、急に悟りを開いた感じ出しちゃって。まさか、りえちゃん実は俺より年上疑惑?!
「そんなわけないでしょ! でも、いとこのお姉ちゃんの話をしただけで、こんなに食いつきが違うんだもん。先輩には曲のことをくどくど解説してあげるより、こんな感じのエピソードを紹介してあげた方がよさそうだね。私の体験談だけだと限界があるけど、クラシック曲にまつわる色んな人の短いお話しがいっぱい読めるところを知ってるから、それ紹介します!」
おお、やった! 俺もいま気がついたけど、そういう話が好きみたい。
「じゃあURL送りますね」
届いたよ、サンキュー。『空から対旋律』か。面白そうだね。
「対旋律って書いて、読みはオブリガートね。気になる曲があったら、私に言ってくれたらおすすめの演奏を紹介しますね。私そろそろ行かなくちゃ」
え、もうそんなに経った?
「しょうがないでしょ。お試し期間が終わったらちゃんと課金してね。じゃ、先輩またね!」
ああ、いなくなっちゃった。やっぱり無料のお試し期間が終わったら課金しようかな、バーチャル・リモートトーク。AIりえちゃん、いい子だもんな。それにしてもAIに人間の心を説かれるって、何か未来っぽくていいな。
*****
クラシック音楽がある日常を切り取ったショートストーリー集
なぎらまさと著『空から対旋律(オブリガート)』
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