第51話 魔法学校短期入門13

「筆記は全て満点。当然ですよ」

「おお」

「実技も、今のところは全て満点。残すところあと一つ。召喚獣との実践バトルのみ」

「おお」

「で、僕のケットシーさん」

「はいにゃー!」

「お前は魔女に戻ってでも全員ぶちのめす覚悟が出来ていらっしゃいますか?」

「えー。その覚悟いるん……?」

「知っていますか? 世の中の全ての一位と言う席は僕のためだけに存在してるんですよ?」


 姉様達の末妹としても、絶対に最優秀賞で卒業以外はあり得ないのだ。


「大丈夫やろ。俺、無敵やし」

「そういう傲慢さが命取りになるんですよ!?」

「大丈夫やて。俺の体ん中弄ったやろ? 君の呪いの力は俺ん中にある。謂わば俺と君は繋がっとる状態や。魔女二人分に勝てる奴なんておらんやろ。ほんまなら、内臓交換っ子しあっても俺的には良かったんに君が文句言うからなぁ」

「絶対に嫌ですよ」

「わがままかー? 実の姉妹でもこんな事した事なかったんに」

「僕だってしたくなかったですよ! 一本とは言え、僕の呪いの手が貴方の中にあると思うだけで精神的にキツいのに……」

「アホ言え。滅茶苦茶名誉な事やぞ? 魔女序列二位のこの標識の魔女、マリンちゃんの体に呪いを打ち込めるんは君だけや」

「無理矢理やらされたんですが」

「無理矢理でも! 名誉!」


 何処がだ。


「それにな、今回で必ず出て来るで?」

「復讐の魔女の手を持つ馬鹿がですか? 本当に?」

「おう。その為の君の手や。そんな奴に負ける訳ないやろ」

「……目的はなんでしょうね?」

「さあ? 案外くだらん事やと俺は思うで? 生きてる奴全て愚かで馬鹿。俺はそう思っとる」

「はっ。死んでる奴はそうでもないと?」

「馬鹿やな。死んでる奴は、愚かで馬鹿だから死んだんや。それ以下に決まっとる」


 そう言ってマリンちゃんは笑った。




「全学科全ての生徒がこの庭園に放り込まれる。バトルは、全て召喚獣のみ。召喚獣が戦闘不能、又は契約が破棄された生徒はその場で失格。制限時間一時間、生き残っていた者に倒した分だけ点数が加算される形式だ。この最終試験で短い魔法学校の短期入門が幕を閉じる。最後に徒花を咲かして見ろっ!」


 そう言って先生が手を叩く。


「開門だっ! 試験開始はこれより十分後、皆頑張れよ!」


 徒花だったり頑張れだったり、情緒不安定な先生だな。


「さて、ほな行くか」

「はい」


 僕達は最終試験会場に足を踏み入れる。


「取り敢えず、隠れたりするん?」

「は? 何でですか?」


 僕はマリンちゃんを見る。


「何でって、え? 最終試験、本気でやるからやろ?」

「ええ。本気でやるから隠れませんよ」


 何度も言うが、僕は一位を取らなければならない。


「それによく考えてみてください。復讐の魔女の手を持っている奴が何をするか僕達は分かりません。本当に人を殺すかもしれないし、ここで大掛かりな何かを企てるかも。そうなれば、犠牲は多い。その前に僕達で片っ端から倒してリタイアさせた方が安全だと思いませんか?」

「まあ、確かに」

「でも、隠れている相手を片っ端から探すのは随分と手間です。なので……」


 開けた場所に出た僕は足を止めて仁王立ちでその場に立つ。


「ここに立って襲ってきた馬鹿達を片っ端から叩きましょう」


 ポイントも一番取れるし効率がいい。


「……戦うの、俺なんですけど?」

「はい。なので、ケットシーさん。バンバン魔法使って下さいね? 先生達にアピールできるくらい派手に」

「奴隷やん!」

「契約と言ってください。そろそろ十分経ちますよ。魔法練り上げて!」

「……鬼か。まー、しゃあない。一丁この愛くるしいケットシーちゃんが力貸したるわ」


 マリンちゃんは一本の標識を目の前に立てる。


「おっしゃ、派手に行こか!?」

「ケットシーさん、時間ですっ!」


 開始の鐘が鳴る。

 同時に、炎の魔人がマリンちゃんの目の前に現れた。


「存在が派手じゃないですか!」

「え? そこなん? まー、うちのご主人様がうっさいからな。さっさとご退場願うわ」


 魔人がマリンちゃんに業火を吹き付ける。マリンちゃんが炎の魔神を指さすと、魔人の炎がピタリと止まった。


「酸素ないと、燃えんからなぁ」


 成る程、酸素を標識の力で変えてるのか。


「あ、君。苦しそうやん。ごめんごめん。気付かんかったわ。お詫びに、沢山酸素あげたるな?」


 マリンちゃん指を弾くと、魔神の体が膨れ上がる。


「そんな嬉しそうに体膨らましてくれると、こっちまで嬉しくなるわ。弾けるまで、沢山お食べ?」


 弾け散る魔神を見て僕はうーんと唸る。

 マリンちゃん、多分性格もアレだよな。


「はい、一匹! 音が派手やろ?」


 くるりと振り返って僕を見るマリンちゃんにため息を吐く。


「芸術点は百点中マイナス五億です。美しくない」

「そんな点数あんの!? じゃあ、花火っ!」


 そう言って、マリンちゃんの後から襲おうとしてきた魔獣がマリンちゃんの指を鳴らす音で花火の様に火に包まれ弾き散らす。


「汚い花火を僕に見せた罰でマイナス六兆万点ですね」

「文句多過ぎん!? 流石にそれは虐めやろ!」

「イジメじゃないですよ」

「異議申し立てまつるわっ! 君たちはちょっと邪魔だから静かにしとってくれるか!?」


 次々とマリンちゃんに襲いかかる召喚獣を出来るだけ派手な魔法で仕留めていくマリンちゃんが、少しだけ面白い。

 でも、美しくもないしな。

 マイナス八兆万億点。


「でも、ペースはいいんですよね……」


 このまま全員の召喚獣倒さないかな?


「褒めるならもっとでかい声で褒めてくれる!?」

「ペースだけは最高ですよ!」

「ありがとなっ!!」


 さて、と。


「ケットシーさん。そろそろですよ。メインディッシュの七面鳥がそろそろ到着する様です」

「もうそんな時間か? まだ半分ぐらいしか倒しとやんやろ? そや、俺いい案思いついたわ」

「何です?」

「ここら一体全てを焼き払うってのはどうや? 残り全員ぶち殺せるで?」

「いい案ですね。最高じゃないですか。僕が一番ですね」

「せやろ? ご主人様の為にケットシーがんばるにゃん!」

「……おぇ」

「根性見せろよ! 君、ご主人様やぞ!? 中年猫耳にゃん語喋るケットシーのご主人様やぞ!? 胃腸弱すぎやろ!?」

「現実に堪えきれなくて……。もう僕の胃腸も多分捩れて焼き切れて死ぬので最後にここら一体火の海にして下さい」

「雑っ! けど、いいよー!」

「何をやってるんだっ!」


 その時だ。

 正義の声が聞こえたのは。


「ああ、サスさんに、皆さん。お揃いですね。どうしたんですか? バトル中ですよ? 皆んなで行動するのはリスクかと」

「皆んな助け合ってるんだ。クロユリ、何を馬鹿な事を言っているんだ。止めるんだ」

「何を言っているとは? 召喚獣を効率よく倒すのはこの試験には必須ですよ?」

「人間迄攻撃する事はないだろ!」

「五月蝿いですね。それは、貴方の正義です。別に禁止されているわけではないでしょ?」

「クロユリっ!」

「ああ、貴方の偽善じみた正義は聞くに耐えないので結構です」

「……君、ホンマ悪役上手すぎやろ。来る世界間違えとらん? 大丈夫か? 悪役令嬢とかに転生すべきやったやろ?」

「煩いですよ、ケットシーさん。手始めに、サスさんを火だるまにしておやりなさいっ!」

「了解だにゃー!」

「クーシーっ!」


 緑の犬がマリンちゃんの前に立つ。


「みんなを守るんだっ!」

「ケットシー、攻撃です!」


 マリンちゃんの魔法がクーシーを襲うが、マリンちゃんの魔法が一吠えで吹き飛ばされる。


「くっ! つ、強いでぇ!」

「くって何ですか、くって。もっと本気でやってください!」

「俺はいつでも本気や! ファイナルファイヤー!」


 あ、この人本当に大姉様のお兄さんなんだ。

 センスが死んでるな。

 しかし、マリンちゃんの渾身のファイナルファイヤーもクーシーによって吹き飛ばされる。


「クーシー、攻撃だ! 皆んなも!」

「はいっ!」


 数々の召喚獣がマリンちゃんを囲って魔法を打ち込む。


「け、ケットシーさんっ!」

「あかんっ! 防ぎきれんっ!」

「何某洗剤くんみたいな事言ってるんですか! 根性で耐えなさいっ!」

「ネタわからんし! こんなに魔法が集まったら俺がて……」

「ケットシーさんっ!」


 魔法の強い力がマリンちゃんに集中する。

 さて。


「頃合いですか。反転っ」


 僕は呪いの手を出し反転世界を作る。

 これほど大規模な反転世界は初めてだ。庭園全てを包み込む反転世界は。

 だが、僕は天才なもので。

 出来ないはずがないんですよ。


「急に夜に!?」

「なにっ!?」

「最高のタイミングやな」


 マリンちゃんに向かっていた魔法が、彼の標識でピタリと止まる。


「やっぱりなぁ。お前だったんか」


 止めた魔法の後ろに伸びる黒い手。


「それで俺まで食おうとしとったわけや。アホやな」

「本当に、馬鹿では? 少しがっかりですよ。サスさん」


 僕とマリンちゃんが、呪いの手の根源を見る。

 そこには、サスさんがいた。


「……どうなっているんだ?」


 手を持ってしても、理由が分からないのか。

 それもそうか。生きている魔女なんて、見た事もないだろうに。


「貴方の引き連れている食糧庫にも、呪いの手が全てついているところを見ると、大分お腹は膨れているのでは?」


 クラスメイトの影には呪いでのが這いずり上がっている。


「何これっ!?」

「どうなってるの!?」


 呪いを食わしていたのか。

 それもそうか。食料確保の手を僕達は封印してしまった訳だし。


「クロユリ、君は一体……」

「それはこちらのセリフです。貴方、何をするつもりだったんですか? 呪いの手に、何重にも魔法陣をかかせて。それだけ力を貯めて。何がしたいんです?」

「……この手が見えるのか?」

「ええ。少しだけ」

「……なら、お前も喰らうしかない」

「っ!?」


 呪いの手が僕を襲う。


「俺は、ここに居る魔法使い達の力を全て吸い上げる。魔力全てを。それを使って、魔王を召喚する」

「ま、魔王!? 貴方、何をする気ですかっ!?」

「決まっているだろ? 魔王を呼び出すと言う事は、魔法使い全てを根絶やしにするんだ。魔法使いの世界は狂っている。血が全てのこの世界は、人の努力を踏み躙り、尊厳を……」

「あー。もう良いです。いいです。そう言うの、お腹いっぱいですし、聞いてるだけ損ですし」

「は? クロユリ、お前は自分の立場を……」

「分かってますよ。此処まで貴方を誘導するぐらいにはわかってます。いいですよ、その使い古されたクソ雑魚みたいな理由、誰が聞きたいと思いますか?」


 もう、時間の無駄もいいところだろ。


「それに、この程度の呪いで何を? 優秀すぎる魔法使いであるこの僕を倒せるとお思いで? バカも休み休み言ってくださいよ」


 僕に襲いかかって来た呪いの手を僕は簡単に引き離す。


「滅ぼしたいなら、自分でやれよ。クソ雑魚野郎。誰かがやってくれる? そんなクソ甘い雑魚だから、見下されるんですよ」

「この野郎っ! 良いだろうっ! 後悔させてやるっ! 本物の呪いって奴を、お前に見せてやるよ!」


 そういうと、サスさんは復讐の魔女の手を取り出した。


「面白い事言いますね。本物の呪い? いいですよ。是非見せてみてください。できるものならね?」

「俺を見下した事、後悔、させてやるっ!」


 ははは。

 は?

 見下してるのは、そっちでしょ?


「呪いの手で、アイツを食い尽くせっ!」


 今迄に見たこともない量も呪いも桁違いの黒い手が僕を襲う。


「マリンちゃん」

「あいよっ」


 でも、そんなもので僕を呪えるとでも?


「俺の全ての力でバックアップしたるから、好きなだけ食い尽くせ」


 マリンちゃんが大きな口を開ける。

 そこから飛び出たのは僕の呪いの手だ。

 マリンちゃんの体に埋め込んだ呪いの手。僕の力では弱いけど、母体がマリンちゃん程の魔女になれば?

 手は一本。でも、どんな呪いよりも大きくて馬鹿強いのは保証しますよ。


「え?」


 カロリーも気にせずに食べれるって、最高ですね。


「では、遠慮なく。いただきますっ」


 パクリ。

 たった一口で手が放っていた呪いを食い尽くす。


「高カロリーの味がする……」

「俺、どんだけ食べても太らん体質やから平気やで!」

「嘘、だろ? 何で……」

「貴方の体にも美味しそうな呪いの匂いがしますよ。あるんでしょ? 呪いを隠している魔道具が。悪いですが、それも全て」


 いただきますっ。




「最優秀賞は、クロユリだ。すごいな。ほぼほぼ全ての召喚獣を倒したじゃないか」

「ええ。これも単に……僕の実力のおかげですかね!」


 はー! やっぱり一位最高!!


「楽しそうな顔しとんなぁ」

「何ですか。楽しいですし嬉しいですもん」

「君、ほんまそう言うところやわ」

「それよりも、サスさんはどうです?」

「ん? めっちゃこざっぱりして拍手しとったで」

「呪い、なくなりましたからね。それにしても、下らない話でしたね」

「な。ま、俺はどうでもいいけど。用事も終わったし、俺も帰るわ。これの処理もあるしな」

「あ、お疲れ様です」

「君もお疲れ。次会う時は、魔女のお茶会やな。素敵なドレス、楽しみにしとるわ」

「はぁ」

「じゃ、またな」

「はい」


 そう言って、マリンちゃんは手と一緒に消えていく。

 こうして、僕の短くて長かった魔法学校短期入学は終わりを告げた。


「あれ? そう言えば、僕何か忘れている様な……?」


 誰か、クラスにいた様な?


「気の、せいか?」


 僕は何故か甘い匂いのキャンディーを思い出しながら、家路に着く準備を始めた。



次回更新は31日の22時になります!お楽しみに!



 

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