第50話 魔法学校短期入門12

「多くの人は呪いを維持できん。しかし、呪いには力がある。呪いと言う爆発的なエネルギーはどんな力にも応用が効くんや。勿論、魔法、身体能力、特殊能力に対しての特化付与も可能やで。俺だったら、全世界全てに標識を建てれるやろうな。代わりに君ら呪いの魔女は特殊能力に於いては些細なもんや。君の場合ならば毒。しかし、毒の精度を上げたところで毒が効かんやつは多いし、毒に弱いやつは精度を上げんでも死ぬ。態々上げんでも下げんでもいいもんばっかや。だが、呪いの力を誰かのエネルギーとして変換すればどうや? 一時的とは言え、変換された力を受け取った奴は爆発的な能力向上を受けられる。それがたがが人間でも。魔王、いや、序列二十位程度の魔女と同等の魔法が使えても可笑しない」


 つまり、片手は今この学園の誰かが持っているとマリンちゃんは思っているのか。

 確かに、可能性としては高い。

 しかし、だ。


「……言いたい事は分かりますが、呪いに耐性のない人間や魔法使いがコレを扱えるとは到底思えない。自分がまず喰われますよ」

「こっちの手じゃなくても?」

「一応、両手どちらでも喰ます。此方の手だって、魔法を使ってきたでしょ? 役割分担は確かにありますが、最低限のことは出来ますよ」

「人も食うん?」

「人? 人の呪いの事ですか?」

「うんや、本体そのもの」

「うーん……。食べれるんじゃないですか? 僕は食べた事ないので何とも」

「例えばの話やが、呪いの手を出せば呪いを食えるよな?」

「例えばでもなく、そうですが?」

「呪いの手って、どうやったら出せんくなるん?」

「え? えー? 難しい事聞きますね。出せない条件ですか? 本人が出したくないなら出さない、ぐらいしか僕分かりませんよ?」

「例えば、お腹一杯になるっとるとか」

「まあ、僕なら太るので出さないですが、この人手だけでしょ? 関係ないんじゃないですか?」

「他にも食えるもんあるん?」

「呪い以外で? 無いですよ。大体、呪いと一言で言っても沢山ありますからね。嫉妬やら妬み、怒り、悲しみ、感情すら、人を呪う要素になれば僕は食えますよ」

「食われたらどうなる?」

「食われたら? 僕は永久的に呪いを生み出せるのでわからないですが、一時的に感情が無くなるとかではないですか? 随分とさっぱりした人間になるとは思いますよ。死にはしないし、動かなくなる事もないとは思いますけど……?」


 呪いとは一時的な爆発した負の感情と言っても過言じゃない。

 それを食らうだけなのだ。死ぬ事もなければ、動けなくなる事もない。

 少しだけさっぱりした人間が出来上がるぐらいだろう。


「成る程なぁ……。ま、道具を使えば可能ってわけやな」

「何がですか?」

「知っとる? 魔法使い殺しみたいに、細やかな能力を込めた魔道具ってもんは多々あるんやよ。勿論、細やかやけど、呪いの魔道具って奴もあるんや」

「……はぁ。それが?」

「それは呪いを込めれるんや。呪い殺したい相手に持たせると取り憑いて心の臓を食い破る。時間はかかるがな。でも、それが自分の呪いならどうなるんやろうな?」

「呪いが自分の中に戻るだけでしょ? 自分の呪いで自分は殺せないですからね。呪いの原理を考えれば解る事です」

「ビンゴっ! それやっ!」


 何が?

 ソレに至るまでの説明が疎かすぎでは?

 検討する事すら忘れているのか?

 僕が信じられないものを見る目でマリンちゃんを見ると、マリンちゃんはウインクを僕に飛ばす。


「は?」


 地味に腹が立つな。


「何や。ファンサ強請っとんちゃうんか?」

「やめてください。僕の趣味が疑われる様な事を言うのは」

「めっちゃ良い趣味やーん。俺は魔女界のトップスターやろ? 多少妹達の態度が冷ややかでも、俺にもちゃんとファンが……」

「ファンが? 何ですか」

「……おるわけないやん」


 ん?


「どうしたんてすか? 急に現実が見えてきちゃいました?」


 目が覚めちゃいましたか?


「いや、冗談じゃなくて。マジで」

「現実見えちゃってるじゃないですか」

「そう言うのやない。……マジの方や。これは……、……ま、ええわ。やっぱり辛い現実見んとこ」

「マジの方って言ってたのに?」


 何だこの人は。情緒不安か?


「マジの方やけど、まー、塵は積もらんと山にはなれんからな。ええよ。それよりも、スー君」

「貴方にスー君と呼ばれる覚えはないんですか」

「君、そろそろ卒業試験やろ。勉強はええの?」

「この状態で勉強の話ですか?」

「学生の本分を今思い出した」

「遅すぎでしょ。ま、僕ほどの天才なら勉強しなくても余裕ですが?」

「えー。ほんま? 大丈夫?」

「何ですか。突然。僕を誰だとお思いで?」


 僕ですよ?

 パーフェクトな僕ですよ?


「ほな、今からちょっと今から俺に付き合ってや」

「何をするんですか?」

「何をって……、説明面倒いな。手貸してくれるか?」

「……は? 何に使うんです?」

「俺ん中に入れてもらうねん」

「……は?」

「こうやって」


 そう言ってマリンちゃんは僕の手を自分の胸に押し当てる。


「こう貫いて」


 クチャ、と耳障りな音がする。


「心臓は邪魔やからそこら辺放っといて、ほら? これで俺ん中に腕入れやすいやろ?」

「……え?」


 え?

 ええ?


「え? 何や、その顔。どんな表情なん?」

「べ、勉強するって嘘でも言えば良かったって思ってる表情ですよっ!」


 手がおっさんでネチョネチョするの本当、無理っ!




次回更新は30日の22時ごろを予定してます。お楽しみに!

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