第49話 魔法学校短期入門11

「手……。女の人の手、ですよね? これが呪いの魔女の手?」

「今は復讐の魔女や。しっかし……、アレの手……、こんなんだっけ?」

「おい、お兄ちゃん」

「手だけで妹が分かるのはお兄ちゃんやない。ただの変態や。でも……呪いはアレのやしなぁ。アレの手なんやろうけど……。可笑しいな。俺は手なんて残さんかったで? 手どころか、髪の毛一本すら残さんかった」


 マリンちゃんの顔が真剣になる。

 一体、どんな殺し方をしたのか。


「では、模造品? 複製の魔女がいるんですよね? 彼女のなら可能性では?」

「彼奴は現存してるものしか複製できん。しかも作るなら完璧なコピーや。手だけとが都合のいい複製とは訳が違うで。やるなら本体フルオートで複製するわ」

「元々この場所にあったんですかね?」

「それも考えにくい。この世界が出来たのも、復讐の魔女が死んだ随分後や。例え手だけ俺から逃げれたとしても、ここにおるのは可笑しい」

「と言う事は、誰かが復讐の魔女さんの手を作ってここに置いたという事ですかね?」

「やろうな。わざわざ何を好き好んでこんな場所におくんやろな」

「呪いを食わせる為、でしょうね」


 学校と言う閉ざされた檻には人の感情が溢れかえる。一部の優等生の傲慢さと大勢の劣等感。

 さずめここは呪いのお菓子箱。

 それを貪り食べていたら、僕でもすぐさまデブになるさ。


「誰かが、此奴にここで呪いを食わせとったんやな。まあ、短期なのは良かったわ」

「短期? 何故わかるんです?」

「あの程度の呪いのしか出せん事がいい証拠や。雑魚も雑魚。俺に触れる事もちんけな標識一本取ることも出来ん。こんなもんまがいモンもまがいモンよ。しかし、長期に呪いを取り込んでいたら……、多分本物のにより近くなっとたやろうな」

「体を持っていたかも……」

「ありえん話やない。こんなもんは直ぐに封印や。封印」

「それにしても、左手が見つかりませんね」

「ん? 左手? ないんやないの? 右手だけやろ?」

「いや、そんなわけないでしょ。……ないですよね?」


 あれ?

 僕がおかし事を言ってるのか? これ。


「いや、可笑しいやろ。右手あるなら左手もある理論、可笑しいわ」

「……その復讐の魔女さんに僕は会った事ないので分かりませんけど、呪いを使うなら両手がないと無理じゃないですか?」

「あ?」

「存在を反転して隠してたぐらいです。反転ってのは内と外を逆にする呪いです。要領的には両手に持っている物を落とさずにひっくり返す。だから両手がいるんですよ。右手が内で、左手が外を引っ張るんです。それに、呪いも。片手で呪いを食べれば呪いを貯める片手がいる。両手は繋がっているので片手でもそれなりに貯めれると思いますが、大きな魔力は片手では貯められないです。あの攻撃も、右手だけだからあの程度であって左手があればもっと強力なものになっていたはずですよ」


 と言っても、右手だけでも随分と強力な魔法だったが。

 呪いの質も量も、僕とは比べ物にならないと言うわけだ。恐らく、そのおかげで身体を作る呪いの量もそれに比例して莫大に膨れ上がってる。その為、この程度で済んでいるのも皮肉だな。


「……近くに匂いはないぞ?」

「同等の呪いの気配もここには無いです」

「どう言う事や?」

「……違う世界にある、とか?」

「違う世界にあっても手は繋がっとるん?」

「僕は体があるんで何とも。でも、気配はここにはないですよ」

「……わからん。が、世界の跨ぎを気にしんでいい奴は知っとる。だが、アイツが復讐のをどうにかするとは考えられへん」


 それは、世界の魔女の事だろうか。


「と言う事は、可能性としては低いと言う事ですか?」

「ああ。限りなく低い。元々ないと言われた方が納得できる」

「復讐の魔女さんは、片手で反転世界を作れる程強ければ左手がなくても可能でしょうが、そこは?」

「……多分、それは違うで。それは、呪いの魔女の理や。強さは関係ない。やから、多分、アレでも無理やろうな」

「なら、可能性は一つです。その手を貸してもらっても?」

「封印するで?」

「封印の前に。飲み込んだ呪いの気配を追います」

「そんなこと出来んの?」

「さあ? 初めてやるので。でも、僕がやらなきゃ行けないでしょ?」

「……全く。カッコいいな、君は」

「当たり前です。僕は、終焉の魔女の末妹で呪いの魔女ですよ? カッコよくないわけがないんですよ」


 僕はマリンちゃんから手を受け取ると、世界を反転する。

 これで、呪いは目視出来る。

 ここで一番古い呪いの気配は……。


「……マリンちゃん」

「わかったか?」

「いや、全然わかんないです」

「……君、それでええの?」

「仕方がないじゃないですか。ここにある呪いは古いのから新しいのまであるんですから。けど、恐らく呪いを飲み込んだ日数は十日前後ですよ」

「分からんかったんちゃうの?」

「飲み込んだ呪いの気配は。けど、呪いの手の能力は分かります。どれ程伸びるかで」

「それが?」

「この下水道の端から端までは伸ばせれますが、外には出れないみたいですね」

「外に?」

「ええ。成長具合で考えたら十日が妥当かと」

「……一日ぐらいでどこまで伸びる?」

「蓄積ですからね。日付が経てば一日が倍になりますよ」

「二日、三日辺りなら?」

「そうですね、精々、5、6メートルぐらいでは?」

「……それなら君の部屋まで、届くな」

「何か?」

「いや。外に出られんとなると、飴のが教室で襲われたのは幻やったん?」

「いえ。恐らく、あれは左手です」


 僕は左手を広げる。


「マリンちゃんの攻撃で、左手は明らかに高いダメージを受けていた。だからこそ、右手と繋がって回復していたんですよ。回復と言うよりは、エネルギーのチャージですかね。送る方がより強い力を出す為に、僕達はその強い気配の方、つまりこの右手を追えた訳です」

「成る程、つまり、左手は……」

「そうです。何処かのアホが持っていると言う事になりますね」


 こんな呪いの品を後生大切に。

 アホだとしか言えないだろう。

 いつ、自分が食われてもおかしくないんだから。


「……成る程なぁ」


 マリンちゃんはそう呟くとニヤリと笑う。


「そのアホ、引き摺り出さんとあかんのか。得意やわ」



次回更新は29日22時となります。お楽しみに!

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