第48話 魔法学校短期入門10
「処女の本分は穢れなき血ではない。他者を受け入れない拒絶と赦しの皆無。それに嫉妬と渇望と憧れを入れれば出来上がる。だからこそ、穢れていない。穢れていないのは結果であり、その過程こそが処女本分。それが処女の呪いです。なので、僕は男ですがそ本分が分かっていれば真似る事ぐらい出来るわけです」
「君みたいな真面目な奴が処女処女連呼すると、逆にエロく感じるの不思議やね」
「ぶち殺しますよ? 他に言い方あります?」
「乙女とか」
乙女。
「は? おっさんの感性にはついていけないですね」
「君、ほんま、そう言うところやぞ」
「では、早速処女臭を撒き散らかす呪いを出すので、その乙女とやらを死ぬ気で守って下さいね」
「使っとるやん。はいはい。此方はいつでもオッケーや」
「では、撒き散らします」
僕は自分の腹を手で貫く。
手っ取り早い撒き散らしは矢張り内蔵に限るな。
「ぐっろ」
「体は所詮体ですよ」
「痛覚はあるやん」
「は? 痛覚があった所で僕たち死なないでしょ? 痛覚よりも僕は自分のプライドを折られる方が死ぬほど苦痛ですけど?」
「お、いい事聞いたわ。覚えとこ」
「使わせませんよ。さぁ、来ますよ。構えて」
「構える必要もないわ」
マリンちゃんの前に、様々な標識が乱立する。
周りの呪い全てが、その標識に従い僕たちから逸れるように右に左へと分けて駆けていく。
標識の魔女、此奴の存在自体がチートだろ。
大姉様も種と言う在り来たりな能力ながらも、全てを種に出来き、育てる事が出来ると言う大概なチート能力だが、それ以上にマリンちゃんの能力はヤバい。
「ほれほれっ! 加速しろやっ!」
原始の魔女は一体どれぐらい強いのだろうか。
目の前で見ていると、そんな興味すら吹き飛ばしてくれる。
「来ますよっ!」
「ほな、こっちから行かんとな。と、言いたいところやが、君抱き抱えると内臓触っちゃうもんな……。グチョッてしそうで、嫌やな……」
「何嫌がってるんですか! 嫌がるのは僕の方でしょ!?」
「歩く?」
「は? 内臓撒き散らしながら歩けと? この僕に? こっちは腹切り裂いて内臓出してるんですよ!?」
「君のその切れどころが、おっちゃんには全然分からんわ。自分からしたんにキレ出すとか。しゃーな。多少のグチョッぐらいは我慢したるわ。……いや、腕に抱えるのも、肩に担ぐのも切り取り線やん。え? お姫様抱っこしかないの……? 地獄か?」
「だから、それは僕の台詞ですよっ!」
「男にお姫様抱っこはキツいて」
「……姉様達ならしてくれるのに」
例え内臓出てなくても、してくれるのに!
「……いや、しそうやけど。種のなんかクソうまやろうけど」
「してくれます! 可愛い妹って言ってたでしょ!? 僕の姉ならお姫様抱っこぐらいしてくれて当然ですよ!」
「えー……。なにその我儘」
「抱っこ!」
「おま……。はぁー。しゃーな。末っ子こっわ。今回だけやぞ? お互い地獄に行くんや。仲良くしたるわ」
「姉様達ならコンマ一秒もかからずに抱っこしてくれるのに。標識のお姉様にはガッカリですよ。貴方の兄力は程度ですか」
「君、末っ子過ぎやろ。うちの姉妹の末っ子でも其処迄ではないわ。あと、雷のガキンチョは抱っこしんやろ」
「小姉様は抱っこしてくれた後、五時間ぐらい愚痴愚痴言うだけで誰よりも素早く抱っこしてくれますよ。小姉様も僕の事何だかんだ言って可愛い妹だと思ってらっしゃるので」
「君の心強すぎるのはよう分かった。じゃ、内臓置き去りにされないようにしっかり持ってろや」
「当たり前です。振り落としたら、僕のモンスターシスターズに言いつけますからね?」
「マジで地獄やんけ」
ケラケラと笑いながら、マリンちゃんは僕を抱き上げ指を鳴らす。
「なら、地獄迄のヴァージンロードも用意したるわ。この道の魔女がな」
急に、世界が変わる。
僕たちの世界には一直線の道しかない。
周りにはマリンちゃんの標識が乱立していると言うのに、意識しても道しか僕たちの目には入らない。
「どうなってるんだ……?」
「道は進む為にあるって事や」
答えになってないんだけど。
「君が処女臭とやらを撒き散らかしてくれたお陰で道が出来た。俺でも認識できるほど強くな。さあ、感動の姉妹の再会や。ハンカチの用意しとけや!」
「いや、内臓抑えますよ。そのハンカチで」
「アホ言え。ハンカチは、いつの時代も涙を拭く為にあるんやよ」
マリンちゃんが口笛を拭くと、道の途中に標識が建つ。
「マリンちゃんっ! 上ですっ!」
幾つもの手が僕らを目掛けで降り注ぐ。
「拍手のつもりか? マジモンの拍手って奴をお兄ちゃんが見せたるわ!」
マリンちゃんが僕を小脇に抱え直すと手を叩く。
その瞬間、呪い手が次々と弾けん飛んでいった。
凄い。
矢張り、この魔女は次元が違う。
これも標識。音を標識に乗せたのだ。
「マリンちゃん、また来ますよっ! 次は……魔法ですっ!」
僕たちの上に夥しい数の魔法陣が張り巡らされる。
こんなもの、逃げ場なんてどこにもないだろう。
再生できないぐらい身体を貫かれたら……。そう考えただけでゾクリと身体が縮こまる。
「お、次はお手製のシャワーライスか? 見立ては悪くないな。やけど、見立てだけや」
「マリンちゃんっ! どう避けるんです!?」
「え? 避けんよ? シャワーライスなんやから、全身で浴びて行こうや」
「馬鹿ですかっ!? あれだけの魔法を……」
「馬鹿って。馬鹿は君やろ。俺は、標識の魔女やぞ?」
マリンちゃんが笑うと、魔法陣は一斉に僕たちに魔法を放つ。
基本魔法じゃない。これは、呪いの特殊魔法、呪いに魔法を乗せた全てを溶かす魔法だ。
「こんな魔法……」
あるだなんて。
なんて、美しいんだろう。
この魔法、僕にこそ、相応しいっ!
「いい顔しとるやん。何事も経験や。ま、経験する程時間はかからんがな」
大きな声でマリンちゃんが笑うと、一斉に魔法陣が爆発し始める。
「魔法の方向変える方が先やからな」
「僕たちから自分達に?」
「魔法陣は魔法を放つだけの魔力しかもっとらん。だから、同じぐらいの魔法を撃てば相殺出来る。でも、一つ一つ攻撃するのめんどいやん? やから、同じ分だけ自分で攻撃してもらうのが一番賢いやろ?」
この魔女を倒す術はあるんだろうか?
「あるよ」
僕の問いが声に出ていたのだろうか。
マリンちゃんが笑う。
「けど、俺は知らん。思いつかん。想像できん。それだけや」
少しだけ、僕は今、マリンちゃんを見直す所か尊敬までしそうになっている。
凄い、魔女だ。
僕や小姉様、末姉様とは比べ物にならない。
原始の魔女とは、こんなにも……。
「そろそろ匂いの元に着くで」
「もし、呪いの本体があるのなら……、僕が反転します」
呪いは見えない。
いや、呪いの手は見えていたが、それは別だ。呪いそのものは脳内の裏側。それを具現化しなければ僕達の目には届かない。
僕は見えるかもしれないが、初代の呪いの魔女が自分の本体を隠さずにそのまま現れるとも思えない。
僕がいた事、心底感謝してくださいよ。
「ここや」
一本道の終わりには、矢張り、何もない空間だけがひろがっている。
しかし、呪いの匂いは強烈だ。鼻がもげる所の話ではない。嘔吐しそうになるのを必死に堪えながら僕は頷く。
「反転します」
「おーけー、おーけー。どんとこいや」
僕は力を込めるて手を叩くと、暗闇が夜になる。
人に気付かれない様に反転しなくてもいい分、前回よりも時間はかからなくて済むのが救いだ。
「うわっ!」
反転したした瞬間、僕の前には顔がないドレスの女性が立っていた。
これが、本当の姿。
反転した世界で、正しく姿を持った、姿。
それは、どこかで見た様な……。
「洒落臭い格好して、邪魔やわ」
僕がのけぞると、その女の首がコトリと落ちて闇が広がる。
その闇から浮かび上がったのが……。
「手……?」
女性の右手だった。
次回更新は25日の22時になります。お楽しみに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます