第47話 魔法学校短期入門10
「大姉様?」
「あ、妹ちゃん。どうしたの?」
「それは此方の台詞ですよ。どうしたんですか? 眠るなら椅子じゃなくて自室に戻られては?」
「いやねぇ。眠いわけじゃないのよ。ただ、少しだけ考え事してて」
「あー。あの馬鹿のですか? 仮にも魔女なんで殺しても死なないですよ」
そんな憎まれ口を叩きながらも、小さな妹も末の妹の事を心配しているのは知っている。
「そうね。末の妹ちゃんの事もね。ふふふ、近くに居ないと考えてしまうわね」
もうすぐ、季節が巡る。
花が咲き誇る季節が巡る。
種の魔女は小さくお腹をひと撫ですると、それまた小さく笑った。
「考え事してたらお腹、空いちゃった。下の妹ちゃんもお夜食食べない?」
「太りますよ?」
「えー。半分こなら大丈夫よ! カロリーも半分こだし!」
季節は巡る。
呪いの、季節が。
「呪いの魔女は死しても俺達に嫉妬の魔女として忌々しい記憶になっとる。魔女は死んでも呪いの記憶は死なんからな」
「マリンちゃんは、その嫉妬の魔女がこの学園にいる事を知っていたんですね?」
「君に呼び出される前からアレの匂いがしたからな。あり得へんはずなのに、アレが呪いの匂いを撒き散らしとった。それを探してるうちに、君に呼ばれたわけやが……、まさかここにおるとは思わんかったわ」
「偶然ではなかったんですか?」
「たまたま近くにおったから呼ばれたってのは正しいが、恐らく俺を呼んどったんは、君やない。嫉妬や」
「でも、何故マリンちゃんを? 貴方は、彼女を殺した魔女でしょう? 僕だったら貴方を呼ぼうとは思わない」
「何でやろうな。俺もやわ。でも、こうも思う。俺を殺したいぐらい、憎んどった呪いなのかもしれへんて」
可愛がっていた妹に殺したい程憎まれる。
皮肉な話だ。
「俺は、アレを可愛がっていたが、ほかの妹達も可愛い。俺は俺達姉妹の絆は特別なものだと信じとる。それ以上もそれ以下にもならん。それをクソが覆したのが腹立つわ」
「……それは、序列一位の世界の魔女の事ですか?」
「察しがええな。世界の魔女と俺は双子や。性格も顔も魔法も全然にとらへんけど、繋がった歪な卵で同じ瞬間に産まれてきた。アイツの方が先に喋ったからお兄ちゃんや。ま、俺が本気出せばアイツより早く喋ったし、歩いとったけどな」
「はぁ。そう言えば、僕世界の魔女を見た事がないです」
「俺も誰も見とらん。嫉妬が死んだ時に姿を消しとる。消息は不明やが、俺だけはアイツが生きとる事を知っとるわ。卵が繋がっていたからなんかな。多分、俺の命とアイツの命繋がったんやろ。でも、何処におるかは知らんし分からんし、出来れば二度と帰って来てほしくないわ。他の妹もそう思っとる。と、俺は信じとる! あんな奴よりも俺が一番のお兄ちゃんやろ!」
「私欲が混じってらっしゃる様ですが?」
「お兄ちゃんやで!? 俺が一番妹可愛がっとるお兄ちゃんやで!? お前んところの種のも俺にとっては大切な妹や。その妹である君もっ! 俺にとっては大切な妹やで。だから、守ったるから。安心しいや」
他人ではないか。
それはまるで、赤の他人ではないか。
血のつながりも、種のつながりもないのに。
それでも、この人は僕を妹だと言う。おかしな人だ。見た目も中身も。魔女だと言うのに。
「それは是非ともお願いします。僕はあの魔女に、絶対に勝てないですし」
「自分の力量わかってんのはえらいで」
「それよりも、キャンディーの魔女さんはどうするんです? あのまま帰らせてしまいましたが、また襲われる事は……?」
「そん時は俺が飛んで行くわ。まあ、標識刻んどいたし、多分大丈夫やと思うけどな」
標識って刻むものなのか?
建てるものだろうに。
「はぁ。姉様達には言えないな……」
「そうか? 魔女のお茶会の土産話としては最高やねんけどね」
「ああ、そんなもんありましたね」
「君のお披露目会も兼ねとるんやで? もっと気合い入れていこや」
「お披露目って……」
「ここ数百年はお茶会なんて無かったからな。あんだけの人数集まるのも中々ないで? ドレスは出来たか?」
「ドレス? いえ。僕は知らないですけど?」
「はぁー!? 俺が金出してやったやんけ!」
「ええ。でも、二着でしょ? うちには四人いるんですけど」
「ばっか。種のと雷のガキンチョは前回のドレスあるやん。俺は、召喚のと君のドレス代を出してやったん!」
「末姉様も?」
「あいつのお披露目もまだやからな。ドレス無いから出ないなんて言わせん為に渡した金や」
「うちの末姉様、引きこもりなんですけど」
「引き摺って来いや。出資者に挨拶ぐらいはさせに来いよ?」
「僕には言わずに保護者の方へお願いします。それよりも、もう僕の鼻は効かないですけどどうします?」
僕はピタリと足を止める。
ここは、学校の地下にある下水道みたいなところだ。正式名称は知らないし、知るつもりもない。
できれば二度と来たくもない。
「ここら辺が最高に臭いのは分かるんやけどな」
あれから僕たちは、呪いの匂いを追ってここまでやって来た。
何故、あの魔女が呪いを食べているのか、いや、呪いを食べれる状態にあるのか僕らには分からない。
だが、必ず本体と言うものがある。
呪いだけなんて有り得ない。
必ず、呪おうとする本人がいなければ成立しないのだから。
「地下は呪いの匂いがこもりやすいんですよね。あの魔女の匂いと呪いが混ざりきって、正直鼻がもげそうです」
「そうなん?」
「呪いを吐く時に空を見る人は稀ですよ」
「空に吐いても地面に掛かるからな」
「そういう事ですね。どうします? ここらで引き返しますか? それとも、貴方の標識でどうにか出たりするんですか?」
「まあ、出来んこともない。他の匂いを標識で飛ばすぐらいは出来るな。だが、俺に君みたいな優秀な鼻はない。アレの呪いの匂いが微かにしかわからん。何を基準に標識を建てればええのか」
「でも、匂いを追ってきたって……」
「何もない澄んだ空気に呪いの匂いがありゃ、俺だってわかるわ。こうも呪いが乱立してる所では無理や。君より先に鼻なんか遠に効かへん」
「ああ、成る程」
「何か出来んか?」
「無くはないですよ」
「真似っ子か?」
「まさか。人を劣化コピーみたいに言わないでもらえます? 出来る事をしてあげるだけです。分かりやすいんですよ。あの呪い。僕は常に嫉妬の呪いも出していたと言うのに、僕は最後の最後でしか認識できなかった」
最後の最後。
あの手を伸ばされる時に出した自分の匂い。
「あの呪いは、処女の匂いがお好きな様だ」
処女性の呪いは血の匂い。
「僕が囮になりますので」
「え? 君、処女なん?」
「ぶち殺しますよ?」
「え? だって、処女って言ったもん」
「もんとかキモイです。呪いにも色々なものがあるんですよ。処女特有の匂いを撒き散らした呪いぐらい、僕だって出来ますよ」
穢れを知らない呪いは、血の匂いがする。
「なんたって、僕は呪いの魔女ですから」
呪いは、呪いなのだから。
次回更新は23日の22時頃に更新予定です! お楽しみに!
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