第44話 魔法学校短期入門7
「何で、何で分かるんですか……っ!?」
「何でって……」
僕はチラリとマリンちゃんを見る。
「おん? 恋の相談か?」
「茶化すなら帰ってください」
「はいはい。魔女でも色んなタイプの魔女がおんねん。この子は、君と違って少し鈍いかもしれへんな」
「……そのケットシーが、私の正体を貴方にバラしたんですか……!?」
嘘だろ。
この雑なコスプレで、本当にケットシーだと?
「こら。この子を疑うんではなくてな、俺を疑うべきや」
「え?」
「標識の魔法の応用。俺の認識を標識で弾いてある。ま、俺に会ったことある奴には君みたいに効かんぐらいよっわい魔法やで?」
「これも……、標識?」
「せや。意外に魔女って何でも出来んのやぞ?」
「成る程、分かりました。そこのケットシーさん、主人の命令は聞けますか?」
「おん? んー。どうしよっかなぁ?」
「ぶん殴りますよ。召喚獣になり切るんでしょ? やるなら徹底的にやってくださいよ。外に僕たちの声が聞こえない様に標識を立ててください」
「仕方がないにゃー」
マリンちゃんが指を鳴らすと、微かにだがマリンちゃんの魔力が僕たちのを包み込む様な感覚に陥る。成る程、意識すれば何とか気づく範囲か。こんなコントロールもあるだなんて。
「さて。どこの魔女さんか知らないですが、随分と物騒ですね。可能性について色々と考えていただきたかったですが、こうも実力行使に出られたら話は別です」
「ま、魔女とバレたからには、貴方を殺さなきゃいけない……」
「そんな規約が魔女にありましたか? とんだ非生産性な規約ですね」
「貴方が何者か知らないけど、死んで貰うんだからっ!」
彼女はナイフを構える。
「魔法使い殺しのナイフやん」
「何ですか? それ」
「魔法を全て無効化するだけ」
「ふーん。そんなもんながあるんですね。物騒だな」
「でも、魔法だけや。根源は消せへん。よって、魔女には効かん」
「じゃあ、要らないですね。少々借りて試してみようとみようと思ってたのに」
「ありゃありゃ。怖い怖い」
マリンちゃんが手を両手にあげる。
「との事なので、僕にそれを刺したところで何も起こらないらしいですよ?」
「これは魔法使い殺しの……」
「先程聞きました。二度も説明が要るほどの馬鹿だと言いたいんですか? それは流石に腹が立つな」
「じゃあなんで……っ!?」
「貴方こそ、先程の説明を聞いていなかったんですか? 魔女には効かないと言っていたでしょ? この怪しい人が」
僕はナイフを取り上げて自分の首に刺す。
「なっ!」
「痛いじゃないですか」
「別に痛みはないよって言っとらんやろ。狂っとんのか?」
「効かないって言ったじゃないですか。嘘つき」
「人聞き悪い事を風聴すな。首を刺しゃ誰でも痛いわ。でも、死なんやろ?」
「当たり前じゃないですか。身体を稲妻で引き裂かれても死なない身体なんですから。さて。これで無駄だと言う事がわかりましたでしょう? お返ししますね」
「どうして……」
「嘘でしょ? ここまで来て? 包丁を売りつける仕事よりも分かりやすい仕事してますよ? 僕は」
「野菜感覚で首を刺すなや」
「キャベツよりは幾分も可愛いですよ。僕は。はぁ。もういいです。貴女に察しろと言う僕が間違いでした。自己紹介をしましょう。僕は終焉の魔女の四姉妹の末妹、呪いの魔女です」
僕の足元から黒い呪いの手が這い上がり僕の血を取り合う。
「以後、お見知り置きを」
「ま、魔女だったなんて、そんな、ご、ごめんなさいっ!」
僕が正体をバラすと、ルナさんは頭を深々と下げて僕とマリンちゃんに何度も謝っている。
もう何十回目だろうか。
「まさか、種の魔女様の寵愛の妹様だと気付かず、何とも不躾な事を……っ」
「寵愛されてる記憶がまずないんですけど」
「いや、これ以上ないぐらい可愛がられとるやん」
「何処がですか。はぁ、もう良いですから謝るの辞めてもらっても? 貴方は?」
「は、はい。私は香りの魔女の妹でキャンディーの魔女です」
キャンディーの魔女……。
僕よりポップでキュートだと!?
「そんな魔女有りなんです!?」
「ありやで。香りって事は、複製の魔女の系統か」
「はい。大魔女様は複製の魔女様です。あの、そちらのケットシーさんは随分と魔女にお詳しそうですが、終焉の魔女姉妹の召喚獣なのでしょうか? 終焉の魔女の姉妹に、召喚魔法陣の魔女がいらっしゃるとお聞きたんですが……」
「ああ、末姉様ですね。でも、この人はそれとは無関係なおっさんですよ」
「いや、あるやろ。無関係ではないやろ。まったく、俺が誰だか知りたいなんて、知りがたがりやな〜! ええで、教えてやるわ! 俺は〜!?」
口でジャーンと言いながら、自分で猫耳と尻尾を取り外す。
ノリノリじゃないか。このおっさん。
「可愛い可愛いケットシーの正体は、魔女の序列第二位の皆んなのアイドルお兄ちゃん的存在、標識の魔女ちゃんなのでした〜!」
「標識の、魔女……?」
「せやで〜。モノホンやぞ!? サインいるか?」
「そんなゴミ要らないでしょ。貴女も何をそんなにぼんやりしているんですか。早く断らないとゴミが押し寄せてきますよ?」
「酷っ。嬢ちゃんは、このアイドル魔女のサイン……あれ?」
「どうしたんです?」
ピクリとも動かないルナさんを見て、マリンちゃんが呟く。
「あかんわ。死んどる……」
「は?」
はぁー!?
「も、申し訳ございませんっ! 標識の魔女様が、あの、まさか、あの、私の目の前にいらっしゃるなんて……、そんな、あのっ」
「このおっさんに対して、其処迄畏まらなくても……」
「君、ほんまそう言うところやぞ? え? ホンマ、サインいるの? この杖でいいの?」
「お願いしますっ! あの、私、標識の魔女様に憧れておりまして、本当に、本当にっ! 今日お会いできて、本当に嬉しくてっ!」
「はぁー。俺、この子の使い魔になりたかったわぁ」
「はぁ!? 僕の可愛さと美しさに何かご不満でも?」
「そう言うところやで。マジで。ほい、サイン」
「有難う御座いますっ!」
本当に嬉しそうに受け取るな……。いや、あり得ないでしょう。僕がやるんだったら絶対におべっかだ。
「ホンマ可愛い〜。癒し系妹やん」
「はぁ? 僕を見て癒されてないと?」
「君、本当喋って動くのやめた方がええで」
「全て計算し尽くされた美ですが!?」
「はいはい、可愛い可愛い。種はセンスが死んどるからしゃーない」
「大姉様の悪口はいいですが、僕の悪口は絶対に許しませんよ? 一生その言葉覚えてますからね!」
「君の口に標識立てたろか?」
「ふふふ。標識の魔女様と呪いの魔女様はご兄弟のように仲が良いのですね」
「はぁ? 何処がですか?」
「普通に近所のガキンチョって感じやわ」
「いいなー。私、お姉様達とそんなに仲良くなれてなくて、少し羨ましいです」
「貴女の姉様達と?」
「ええ。私、見ての通り、落ちこぼれ魔女で、姉様達の足ばかり引っ張ってて……。この学園に来たのも、生贄の代わ……」
その瞬間だった。
「あれ?」
キャンディーの魔女の心臓を、黒い呪いの手が貫き掴む。
あれ? 僕は、何も出してないのに?
「……え?」
呆然とする僕の隣で、マリンちゃんが素早く動く。
キャンディーの魔女を受け止め、いつのまにか持っていた標識で彼女の心臓を掴んでいたの呪いの手を切り落とす。
それもまた一瞬で。
僕は何も分からずに、ただ何かをしなければならないと言う自己欲求だけで、手だけが前に出だ。
でも、それも三本の標識によって拒まれる。
「俺から離れるなや。お前みたいなカッすい呪い、直ぐに食われるで?」
僕の呪いを食べる、呪い?
「うちの可愛い妹に、豚の餌を食わす馬鹿はどこのどいつや? ぶっ殺すぞ」
僕は何も知らない。
呪いも魔女も僕は何も知らなかったのだ。
次回更新は17日20時となります。お楽しみにー!
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