第42話 魔法学校短期入門5

「流石種の所にいるだけあるやん。薬学満点か」

「日々、大姉様には鍛え上げられてますしね」

「えらいえらい」

「雑に頭撫ぜないでもらえますか? 心底不愉快ですので」

「可愛げ何所に置いてきたん? 人間の世界か? おじさんが拾ってきてやろか?」

「見た目がパーフェクトに可愛いんで問題ないです。それにしても、ケットシーさん」

「おん?」

「今日、近くないですか?」


 先程から肩の方から声がするんですけど。


「ご主人様との距離感を見つめ直した結果やろ?」

「再度考え直していただいても? これ以上近寄るならば姉様を呼びますよ」

「それはあかんやろ」


 パッとマリンちゃんが離れる。

 一体何なんだ?

 またいつもの悪ふざけだろうか。いい加減にして頂きたい。


「折角数少ない魔女の男同士交流を深めとるのに、保護者の名前出すのはあかんやろ。控えめに言って萎えるわ」

「そのまま腐ってもげろ」

「口悪っ」

「そう言えば、僕とケットシーさん以外にも男の魔女っているんですよね?」

「数は少ないが、おるよ。前言ってた、序列一位とあとはポツポツ。三百人に一人おったらいいなぐらいの割合か?」

「へー。圧倒的に女性が多いんですね」

「まあ、女の方が呪いを溜めやすい傾向にあるからなぁ。孕むのは女の特権や。男にもそれなりにあるやろうが、男は吐き出す生き物やしな。魔女になる程の呪いを溜め込むんは骨が折れる。でも、女でも君レベルはそうそうおらへんよ」

「セクハラで訴えますよ?」

「真理の話をしとるんに、生娘か?」

「生娘? まあ、愛とか恋とかは総じてクソだと思うので生娘で間違いでは無いですね」

「ははは。わかるわ〜。真理〜。俺達仲良くなれそうやな」

「適当な相槌で若くて美しい僕と仲良くなろうなんて、烏滸がましい事言わんで下さい。それに、貴方は知らないでしょうけど、愛とか恋とかは随分と酷い呪いなんですよ。アレを食べる時は、気でも狂うかといつも僕は思います。よくもまあ、普通の何でもない人間があんなにもクソみたいな呪いを作れるなんて理の間違いでしょうに」

「……烏滸がましさは圧倒的に俺が負けとるのになぁ。でも、本当に、愛も恋も呪いってのは同感やわ。あんなもん、魔女でも死ぬ呪いやで」

「ケットシーさんも経験が?」

「俺? いやー。俺は、皆んなのアイドル的存在な魔女っ子やからなぁ!」


 マリンちゃんは小さく笑うと僕の頭をグシャグシャに撫ぜ回してくる。


「やめて下さいって、いつも言ってるでしょ!?」

「ははは。でも、愛とか恋とか言う呪いのクソさは誰よりも知っとるで?」




「今日は半ドンか。午後からなにするん?」

「ハンドン?」


 昼食を取っていると、僕の授業予定用紙を見ながらマリンちゃんが謎の言葉を発していた。


「え!? 半ドン知らんの!?」

「呪文ですか?」

「マジかぁ。地味にショックなんけど」

「知らんですし。で、何なんです?」

「午後が休みって事やで。君、午後から……」

「クロユリ!」


 マリンちゃんの言葉を掻き消す様に、後ろから声がする。


「あ、サスさん」


 振り返ると、魔法使い族のサスさんが自分の召喚獣であるクーシーと一緒に立っていた。


「まだ昼飯食ってねぇの?」

「もうすぐで終わりますよ。何か用でも?」

「今日の午後から予定あったりする?」

「いえ、特には」


 自室で最終日のテストに向けての復習ぐらいか?


「じゃあさ、基礎魔法の自主練にこないか? クラスの奴誘って午後からやる予定なんだよ」


 基礎魔法か……。

 基礎魔法は徹底的に小姉様に仕込まれてきたから今更教わる事はない気がするし、どうしても未だに杖が上手く使えないしなぁ。


「ええやん、行こ行こ。魔法使い君、俺達も参加にしといてくれん?」

「あ、コラ! また勝手に……」

「勿論! クロユリは成績者だからな。来てくれて助かるよ」


 助かるよ?

 助かるよ!?

 助かるよ!?!?


「まあ、予定もないですし、良いですよ」


 人に頼られるのっていいですよね。僕みたいな優秀であり天才だと、認められている様で!


「それにしても、初めての召喚で妖精って凄いな。言葉も喋れるし、いいな!」

「やろぉ?」


 いや、妖精じゃない魔女が何をデカい顔でドヤってるんだ。


「結構、クーシー呼び出して俺が一番かなって思ってたのが恥ずかしいよ」


 は? この人、滅茶苦茶良い人なのでは?


「そんな事ないですよ。サスさんも素晴らしい魔法使いじゃないですか」

「クロユリにそう言われると、照れるな。ありがとな。じゃ、俺は他の奴にも声かけてくるな。飯終わったら教室に来てくれよ」

「はい。では、また」

「おう」


 そう言って、サスさんは去っていった。


「爽やかな子やな」

「ですね。良い人ですよ、彼。僕の事滅茶苦茶褒めるし」

「チョロ過ぎん? 君、本当、チョロ過ぎん? もう少し自分を大切にした方がええぞ?」

「は? これ以上ないぐらいしてますよ」

「エルフのガキンチョや魔王のガキも君ん事褒めるの?」

「いや、あの二人は親友なので。褒める褒めないじゃないんですよ」

「それは、愛か?」

「はぁ? 何を気持ち悪い事言ってるんです?」

「……せやな。自分で言っててキモいわ。いややわ。おっさんになると疑いたくなるの」

「いや、貴方はもっと自分の事疑った方がいいですよ」

「だから君、そう言うところやぞ?」




「結構人集まってますね」

「十人ぐらいか。よう集めた方やない?」

「ええ。サスさんってエル君と似てますよね……」

「あのエルフ君と? 何処が?」

「コミニュ力お化け」

「ははは。確かに。あのガキンチョ結構人懐っこいからなぁ。君とは対やなぁ」

「僕はそれを補う程の自分力があるもので」


 とは言いつつも、エル君の誰とでも瞬時に仲良くなれる能力は高く評価している。今では小姉様ですら結構絆されてるし。

 末姉様なんてエル君の膝の上乗ってお菓子食べてるし。面倒見が良いし、上の人はそれなりに敬えるし、優しいし。何故彼がエルフの中で地位が低いのか謎である。


「皆んな待たせたな! それじゃ、始めようぜ!」


 サスさんが颯爽と扉から現れると、自主練の開始の合図が鳴る。

 と言っても、僕は特にやる事はないので周りを観察するぐらいだ。

 色々な種族、年齢、職種で構成されているおかしなクラス。僕のいた世界では余りない事だった。いや、僕がそれに所属しきれなっただけか。

 皆、基礎魔法を使いこなすのに四苦八苦しているが、末姉様も……。

 あれ?


「……ん? どうしたん?」

「いえ。少し席を外しますね。そこの貴女」


 僕は一人の女子生徒を呼び止めた。


「ふぇ?」

「力が入り過ぎていますよ。炎魔法は其処迄力を入れ過ぎると、爆発しちゃいます」

「あ、は、はいっ!」

「もう少し、集中して。ほら、杖を指だと思い込んで。その指で熱を感じて」

「こう、ですか?」

「もう少し。少しだけ温度を上げるイメージを」

「は、はいっ!」

「そうです。その調子です。徐々に温度を上げて」

「温度を……わっ! 出来た!」

「そう。やれば出来るじゃないですか」


 僕は手を叩く。


「有難うごさいますっ! えっと……」

「同じクラスの最優秀生徒のクロユリです」

「あ、え、は、はいっ。クロユリさん、有難う御座います。私はルナです」

「ルナさんですね。良い名前だ。お姉様から付けて頂いたんです?」

「え、あ、え、えぇ……。何で姉だと……?」

「僕も姉から頂いた名前なので。一緒ですね。先程のコントロールを忘れない様、気をつけましょう。加減は大事ですよ。魔女だってバレたくないなら、ね?」

「え……? な、んで……?」


 揺れる彼女の瞳は、まるで蜂蜜の様だった。




次回更新は15日20時ごろとなります!お楽しみに!

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