第40話 魔法学校短期入門3

「成る程、召喚の授業ってわけか……。俺を呼び出すとはええセンスしてるやん!」

「人違いです」

「ええやん、ええやん! 照れんな、照れんな。って事は、俺は君の初めての相棒ってわけや。あの中で誰でもなく俺を選ぶなんて、スー君ったら、面食いっ!」

「は? 僕のセンスが大姉様よりも悪いみたいな言い方やめて貰えます?」

「ええー……。そこまで……?」

「大体、召喚獣を呼んだのに何で本元が来るんですかっ! 可笑しいでしょ!?」


 何で魔女が来るんだよ!


「おいおいおい。俺は君に呼ばれたから来てあげたんやで?」

「呼んで無いです。勘違いだと分かったなら、帰って頂いて結構ですよ」

「えー。こんなにも可愛らしい俺がおるのに他の子呼ぼおっての? 酷い男やな」

「ここで求められるのは召喚獣です。おっさんじゃない」


 はぁ。もう一度やり直しか。


「わかった! そこまで言われたら、俺も腹を括るわ」

「は? 突然なんですか?」

「召喚獣が欲しいんやろ? 俺がなったるわ。魔法少女おっさん舐めんなや」

「その設定まだあったんです?」

「ここに猫耳カチューシャと猫のしっぽがあります」

「聞いてますか?」

「これをこのイケメンに装着すると、なんとー!?」

「絵面がえっぐい」

「じゃーん! 貴方のハートと股間をがっちりキャッチ! ラブリーイケメンケットシーやで!」

「無理矢理過ぎるっ!」


 何だ、この茶番は。


「はぁ。変態の国に帰ってもらっていいですか?」

「誰が変態やねん」


 何処をどう見ても変態でしょうに。


「全員、召喚は終わったかい? 皆んな、それぞれの召喚獣を呼んでいるね。中には半妖精も……。今年は優種だな。……あれ? 君のは……?」


 変態の相手をしていると、先生が僕の前に止まる。

 え、どうすればいいんだ、これ。


「クロユリきゅんの召喚獣のイケメンケットシーやで!」

「あ、コラっ! 何を勝手に……っ!」

「ケットシー? 妖精じゃないか! 君、凄いな!」

「は……?」

「この魔法陣召喚で妖精を出すなんて、中々できないよ。君、召喚士の才能があるんじゃないか?」

「え……」


 え。


「お? どしたん? 相棒」

「……天才、そうだ。僕は天才だった……」


 日々の生活の忙しなさとプロとの実力の差に打ちひしがれていたが、そう言えば僕は天才だった……っ!


「おん?」

「いえ、僕の実力を踏まえれば当然の結果ですよ。ケットシーぐらいっ!」

「あー。この子こんな子やったね」

「凄いぞ、クロユリ。君は優秀だな。今年は優秀な子が多くて私も楽しみだ」

「いえ、それほどでも!」

「じゃ、残り時間は召喚獣としっかり信頼関係を結ぶ為に大いに触れ合ったりしてくれ」

「はいっ! お任せくださいっ!」

「優秀だな〜」


 はっはっはっと笑いながら先生が去っていく。

 あー! 久々に褒められるの、脳汁が出る! 最高!


「マリンちゃんっ!」

「お? 触れ合うか? ハグでもするか?」

「今から本物のケットシー呼んできて下さい。チェンジで」

「君、ほんまそういう所やぞ?」




「本当に僕の召喚獣生活を十五日間送るんですか?」

「君も可愛い猫ちゃんに懐かれて嬉しいやろ?」

「え? 控えめに見ても地獄でしょ? 何で僕の姉よりも序列上位のデカいおっさんを召喚獣にしなきゃいけないんですか」

「そう言うプレイだと思えば、まあ」

「いや、僕のはなしで貴方の心持ちはどうでもいいです」

「つれんやん」

「死活問題でしょ? バレたら不味いんですよ。貴方だって、わかってるでしょうに」


 ここで魔女だとバレるわけにはいかないのだ。


「ま、ええやん。魔法学校なんて俺らにとったらお遊びの延長線上なもんやろ? 座学だけが茶会に参加条件で必要やけど、魔法の実践なんて君には必要がないやろ?」

「いえ、僕実践経験ないんで」


 前の異世界の買い物時には小姉様に邪魔をされたし。


「いる?」

「何があるか分からないじゃないですか」

「君んところは姉妹喧嘩にすらならんやろ。それぞれの魔法の性質が違い過ぎるしな」

「姉様達相手には使いませんよ。僕がボコボコにされるだけじゃないですか」

「種は強いな。毒ならあいつの方が君よりも強いやろ。稲妻ちゃんにも数千年頑張っても効かんかもな。召喚のは、アレはそういう次元で生きてへんからな。ボコボコにされるなぁ」

「知ってますよ」


 嫌味か?


「でも、呪いは、まあ、凄いことやで?」

「でも、姉様達には効かないです」

「そりゃ、たかがそんだけの呪いで、呪われた女達の相手は無理やろ」

「呪われた?」

「魔女になんのは呪いよ。己に掛けた呪いが、魔女にする。君も、あの小娘達も。魔女になろうとした奴ら全て、自分を呪って魔女になっとるんや」

「魔女魔女連呼しないでくれます? 危機管理どうなってるんですか?」

「誰にも聞こえとらんて。標識の魔女なめんなよ。声の方向を決めるのなんて朝飯前や」

「なめてないです。これでも、年上を敬えるぐらいの常識は完備されてるので。便利な能力ですね」

「二番目に産まれたおっさんの特権やな。で、いつまで指合わせてるつもりなん? 触れ合いなんやから、こう、がばっとするべきちゃうん?」

「は?」


 人差し指を合わせながら僕はマリンちゃんを睨みつける。


「おじさんとの触れ合いはこれが最大限の譲渡ですよ?」

「君、本当そういう所やぞ」

「姉様達と違ってパーソナルスペースは狭い方なので」

「あー。それはな、見てわかるわ」


 なんか馬鹿にされてる感が否め無い。


「そこも、呪い特有なんかな?」

「呪い特有?」

「いや、何でも……、そう言えば、俺を呼び出しのは一人で呼び出したん?」

「召喚ですか? ええ。一人ですけど?」

「あれま。ほんまか」

「何にか?」

「少し、他の魔女の気配がしたんやけど、気のせいか?」

「僕以外に魔女、ですか?」

「おん。偉く酷い魔女の残り香がしたんやけど……」

「僕が臭いと?」


 自分では何も感じ無いけどな?


「いや、君の魔女の匂いなんて赤ちゃんの匂いやで。今は何もしいへんし、気のせいだったんかな?」

「ああ、歳を取ると嗅覚が衰えるといいますしね」

「言葉のナイフ〜! まあ、他の魔女がチラホラ混ざったとしてもあの匂いはない、か」

「知り合いの香りだったんですか?」

「おん。古い古い知り合いや」

「どんな魔女の?」

「そうやなぁ」


 マリンちゃんが僕の指を弾いて手を広げる。


「嫉妬の魔女の、匂いやったわ」


 そう言って、彼は笑った。

 嫉妬の魔女など聞いた事もない僕はいまいちわからず首を傾げる。

 その嫉妬の魔女がどんな魔女なのか。

 何をしたのか。

 この時僕は何一つ知らなかったのだ。



次回更新は13日20時となります。お楽しみに!

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