第39話 魔法学校短期入門2

「召喚魔法は各々が召喚魔法陣を描き、自分の波長に1番合う魔法獣を召喚する。この十五日間、苦楽を共にする相棒だと言っても過言ではない。召喚魔法で一番の肝は己の想像力だ。より強い、より最高の魔法の本体を思い描け」


 魔法陣か……。


「よう、少年。魔法陣は初めてか?」

「あ、魔法使い族のお兄さん」

「サスって呼んでくれよ」


 僕の呪いの手が動かない、か。偽名か何かなのだろう。


「こちらも名乗り遅れましたね。僕の名前はクロユリです」


 大姉様が僕にと考えてくれた名前である。薔薇にしてくれと頼んだが、こっちの方が末妹ちゃんの名前にぴったりなのと押し切られてしまった。


「クロユリね。随分と魔導書と睨めっこしてるが、初めてか?」

「ええ。魔法陣は初めてです」


 なんせ魔法陣で出来ている化け物が我が家にはいるわけだ。僕や姉様の様に呪いとか、稲妻などの魔法の源ではない。呼び出す為の魔法陣自体が魔法の根源となっている末姉様の特殊さは今になって漸く分かる。

 あの人自体が全てのゲートであり、全ての手綱なのだ。普段はポニョポニョしてる赤ちゃんだが、魔女としては明らかにトップクラスの能力だろう。


「取り敢えず、そろそろ描き始めた方がいい。多少魔法陣を書き損じた所で大丈夫だから」

「そうなんですか? 普通、どんな召喚獣が来るんです?」

「そうだな。人にもよるが、よくいる魔獣が一般的かな。魔力を持っていれば、繋げられるから一概には言えないが、上級魔法使いは妖精族やらも呼び出せるよ」

「エルフや魔王も?」


 呼び出したいわけじゃないけども。

 魔力があるならエル君やマーさんも呼べるのかな。


「エルフ? 魔王? いや、聞いた事がないよ。そんな魔法陣があるなら、一度見てみたいな」

「魔力があるなら何でもってわけじゃないんですね……」


 魔王は呼び出せるのは知っている。末姉様ならエル君呼び出す事も出来るんだろうな。


「魔力が近い魔獣を呼び出せるんだ。例えば、俺みたいな炎系の魔法使いはイフリートとかね」

「イフリート」


 アラビア半島の神話がこの世界に何の影響を及ぼしているんだよ。


「妖精ですよね?」

「いや、魔獣だよ?」


 微妙に認識がずれてる。

 一体、どんなカラクリがあるんだろうか。


「悪魔とかも呼び出せるんですか?」

「勿論。でも、この魔法陣じゃ悪魔は無理かな。対価がないしね」

「成る程。勉強になります」

「初めてだと、呼び出すまでに時間かかるから君は早く描いた方がいいよ」

「はい。サスさんは?」

「俺は……、見えない? もう隣にいるんだけど」

「ああ……」


 その緑色の犬か。普通に飼い犬かと思っていた。


「これは地獄の番犬」

「ケロベロス?」

「いや、ケロベロスは地獄にいないでしょ?」


 こうなってくると、あの世界の常識が随分と仇になる。


「クーシーって言う半妖精」

「炎関係ないですよね?」


 色的には草属性になるのか?


「いや、俺一応魔法使いだからね? 自分の属性以外にも呼び出せるんだよ」

「ああ。選択肢が出来るんですね」

「そう。流石に経験値の賜物さ。それに、今回は契約を結んだ奴を呼びつけるわけじゃない。契約なしで自分達の魔力に惹かれ合う奴がくるからな。クロユリにはどんな子がくるんだろうな」

「そうですね……。意思疎通が出来て、自分の世話が出来て、僕程でも無くていいのでそれなりに美しくて……」

「いやいやいや、恋人選ぶわけじゃないんだから理想高すぎるだろ」

「それもそうですね。どんな子が出ても面倒は見ますよ」

「ははは。優しいじゃん」

「面倒見は良い方なので」


 魔法陣を描き終わると、サスさんに教えてもらいながら呪文を唱え血を魔法陣に捧げる。

 絵に描いた様な魔法だな。文字通りに。


「クロユリは初めてだから魔力を魔法陣から通すのに時間がかかると思うぜ。ほら、魔法陣に手を掲げて呼びかけるイメージを強くして。自分が一番強いと思う力をイメージして。俺はもう行くけど、この後は一人で時間との勝負だ。クロユリ、頑張れよ」

「はい。有難うございました。」


 強い力……。

 姉様達……、は確かに強いけど一番は決め難い。マーさんは魔王だけど、矢張り力は上三人に劣るし、エル君は、そういうのじゃないしな。

 んー。他の魔女?

 始まりの魔女、ラインハート……。

 強い、筈ですよね? でも、導きの魔女って言うからマリンちゃんぐらいか? でも、マリンちゃんも強い筈ですもんね。あの人序列二位とか言ってたし。

 でも僕は、あの人の強さ、いまいち分からないんですよね。

 確かに一番魔女からかけ離れてるのに、一番魔女らしいし。でも、オール出してもらったぐらいしか分からないんですよね。

 そもそもあの人、本当はオールの魔女では?

 標識の魔女って呼ばれると言っても、標識ってどう強いんだ、と。

 そもそも本当に魔女なんですかね? 原始の魔女の一人って言ってますけど、自称では?

 姉様達、マリンちゃんの名前出した時の顔、とても微妙でしたし。

 それに……。

 ラインハートの名前から連想ゲームをしてしまった瞬間だ。


「誰や。俺を呼ぶ不届き者は」


 聞き覚えのあるが耳に入る。


「え?」

「この標識の魔女を呼び出すとは、それなりの覚悟はあんねんな?」

「……は?」

「対価が君の心臓でも足りへんぞ? そんな禍々しい呪いの目持っとるん言う事は、その覚悟が……」


 僕の魔法陣から出て来た男が僕の顔を見る。


「……え?」

「……いや、こっちが、え? ですけど……?」


 そこには見覚えのある変態、もとい。魔女が。


「種の所の末妹! こんな所で偶然やん! 何や! はじめての学園生活でマリンちゃんが恋しくなっちゃったか!」


 マリンちゃんが出てきてしまった。


「あの、手違いなんでそのまま帰って貰ってもいいですか? チェンジで」

「頼れる系お兄ちゃんのマリンちゃんが恋しくなっちゃったか〜っ!! 可愛い所あるやん! よっしゃ、一丁ここら辺の奴等の魂導いたろか!」

「いや、帰れよっ!!」


 た、頼んでねぇ〜っ!!

 貴方の面倒は見る気がそもそも無いんですよ! こっちは!



次回更新は12日の20時となります。お楽しみに!

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