第38話 魔法学校短期入門1

「はい。では、うちの弟をお願い致します。クロユリちゃん、お姉ちゃんは帰るけど、今日から頑張って魔法のお勉強に励んでね」

「はい、姉様。僕は立派な魔法使いになって帰ってきますね」


 15日間だけだけど。




「短期入学でも、皆様の魔法力は莫大に上がります。この世界には、良い魔法使い、悪い魔法使いがいますが、これは魔法の使い方によって……」


 だだっ広い講堂で、この学園の長が長々と話している内容を、僕は要点をメモしながら聞いている。

 魔女の末妹になって初の魔法学校への入学の日だ。

 ここで十五日間、僕は魔法使いの知識を高める為に魔法使いのふりをして授業を受ける。


「では、皆様の検討を祈って」


 長い話がようやく終わり、学園長が空に向かって杖を振る。


「祝福を」


 空中に色とりどりの花が咲き、僕たちに花びらが降り注ぐ。僕はメモを置き、花びらを両手で受ける。


「わぁ! 凄い!」

「こんなにも多くの花を咲かせる事が出来るんなんて……」

「綺麗……」


 うちの大姉様に比べれば何とも可愛い魔法だろうか。

 あの人と人間比べるのもアホらしい話だが。


「でも、まあ、確かに綺麗ですね」


 十五日間、僕は姉様たちの元を離れて、一人魔法学校の寮で生活を始める。

 その祝いとしては、十分だろうに。


「君、この学校で初めて見るね。初めての入学?」


 花と戯れていると、隣の男が声をかけてくる。

 年は随分と僕より上の様に感じた。二十歳は恐らく過ぎているだろう。

 見た目は人間に近いが、恐らく人間では無い。魔法使いか?


「ええ。初めてです。お兄さんは?」

「俺はここ三度目」


 小姉様が言っていた、修行帰りと言うやつだろうか。

 魔法学校は僕の常識上にある学校とは随分とズレており、何度も短期講習に参加する魔法使いは少なく無いらしい。


「お詳しいんですね」

「それでも、学園長の話をメモしてる奴は初めて見たよ」

「はあ。姉が頑張って入れてくたので、一秒でも無駄なく過ごしたいんです」


 ここに入るのに、僕の打ち出した売上の半分は持っていかれている。

 そのせいで、末姉様には欲しいものを少々我慢して頂く事になってしまったのだ。

 元を取らねば姉様たちに顔向けは出来ないだろう。


「あー。君は魔法使いの家系?」


 これまた微妙な質問をしてくるな。


「いえ。姉に魔法が使える人がいるだけですよ。お兄さんは魔法使い属ですか?」

「おお、当たり。君もここに座ってるって事は複合型?」


 複合型。スタンダードか。


「はい」

「魔法のレベルアップには一番適した学科だよな。君も学校には通っていないけど、それなりに魔法の知識がありそうだね」

「ええ。姉に少し」

「そうなんだ。お姉さんは?」

「今、冒険ギルドの雇われ魔法使いをしていますよ。お兄さんも?」

「ああ。凄いね、そんな事も分かるんだ」

「ええ。優秀な姉に教えていただきましたから」

「さぞ名のある魔法使いなんだろうな、君のお姉さんは」

「まさか」


 名のある魔法使い? あの人が?


「そんなものなわけないでしょうに」


 あの人は魔女と言う法外に生きる化け物の間違いでしょ?




「では、今日から君達を十五日間育て上げる先生の紹介だ。私の名前はアバラン。君達にしっかりと魔法を教え混んでやるぞ!」


 担任は女性の魔法使いか。

 

「では、まずは座学から。魔法使いの歴史について学ぼうか。魔法使いの歴史は一人の魔女から始まっている。大魔女、ラインハート。彼女がいたからこそ、我々は魔法が使えるんだ」


 ラインハート、ねぇ。

 これも事前に聞いていた事だ。

 正しい歴史はないが、世間の常識だと思って学んで来いと姉様達からは言われている。

 間違ってても常識と言うものは生きていくには必要なものだ。心して学べと小姉様が言っていたな。

 今は意味が分からないが、あの小姉様が無意味なことを言う人ではないのは知っている。


「ラインハートは導きの魔女とも言われ、我々に魔法の基礎を与えた。現魔法使い種は彼女の末裔であり、彼女の血を引く唯一の種族なんだよ。ラインハートの魔法力学については、最終日のテストに出てくる。魔法を使う上でも必要な知識だ。ちゃんと各自学んでおけよ」


 導きの魔女? マリンちゃんも導きの魔女、でしたよね? あの人がラインハート? でも、女性って言われているし……。

 いや、あの人の事だ。女になって悪戯に人々を導いててもおかしくは無いか。

 人間、魔女も日頃の行いがモノを言うんですよ。

 もっと、僕みたいな真魔女を見習った方がいい。


「次は召喚魔法の基礎を学んでもらう。召喚した魔法動物はこの十五日間一緒に過ごし、最終試験で戦わせることになるからな。怪我をしたくなかったらしっかりと服従させろよ、お前ら」


 この時僕は全くもって知らなかった。

 この時の意識の逸れがあんな結果を導くなんて。


「召喚魔法か……」


 初めての魔法に浮かれていた自分に腹が立つ。

 いや、一番腹が立つのは自分へではない。

 おっさん。アンタにだ。


次回更新は11日20時となります。お楽しみに!

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