第37話 アイスオーバー

「んー……。また始まったわ」

「姉様? 如何しました?」

「ここ毎日、末の妹ちゃんと下の妹ちゃんが部屋に籠ってドタバタしてるでしょ? 今もドタバタ聞こえてるし、何してるのかなって」

「ああ。あれはダイエットですよ。姉様」

「ダイ、エット……!?」

「この前風呂場で太ったのだの何だと軟弱な事を言って贅肉を見せ合っていたんですよ。その醜さたるや、世の終わりでしたね」

「贅肉……」

「魔法よりも贅肉を鍛える方が向いているなんて、彼奴は魔女として……」

「それだわ! 上の妹ちゃん! 私も、参加してくるっ!」

「え、えー!?」

「上の妹ちゃん。お茶会が、あるのよ……? 分かってる? お茶会よ? 魔女のお茶会よ!?」

「……え、ええ。準備してますし……」

「ドレスも新調しなきゃいけないのに、この弛んだ体! あの変態にどんな嫌味を言われるか分からないわ。それに、他の妹達に、気を使われて褒められるのも、精神的に来る!」

「序列三位だからっておべっか言われますか?」

「妹ちゃん達はしちゃうのよ〜。私が一番上のお姉ちゃんだから、気を遣っちゃうのよ〜。処刑の妹ちゃんとか、滅茶苦茶オブラートに包んで飲み込ませようとするから、怖いのよ……」

「はぁ……」

「なので、お姉ちゃんもダイエットに参加してきます!」

「あ、はい。……え? これ、私もやった方がいいの? ダイエット……」


 ペタリと小姉様は胸を触る。


「……そもそも、私の肉が息してねぇんだよな……」


 姉や妹達のおっぱいを思い出しながらため息を吐く。


「パット、入れようかな……」




「末姉様、無駄にデカい尻が出てますよっ! スクワットは尻を出さずにそのまま腰を落とすっ!」

「ふひぃー! きついー!」

「筋肉が喜んでる合図です!」

「無理無理無理無理っ! 喜んで無い! 筋肉が破壊される音がする!」

「喜んでます! 末姉様も喜んで!」

「どんなプレイなの! それ!?」

「妹ちゃん達っ!」


 僕と末姉様がダイエットに勤しんでいると、部屋の扉が激しく開いた。


「あ、大姉様。如何しましたか?」

「嘘でしょ!? 私事、末妹様このまま放置するの!?」

「三十秒キープ! 数えて!」

「鬼! 悪魔! 魔女!」

「それは貴女もですよ。大姉様、すみません。今、末姉様とダイエットしていて……」

「末の妹ちゃんっ!」


 ガシッと大姉様に両手を掴まれる。


「それ、私にもやってくれる!?」

「……ええ?」




「魔女会あるのー!?」

「二人には言ってなかっけど、近々竈門の魔女が魔女のお茶会を開くの。その為に、日夜準備していたんだけどね……」

「お茶会ですか? お茶飲むんです?」

「魔女のお茶会は、なんて言うか魔女が一堂に介して魔女の規律を確認し合うとかなんかで、なんかやらなきゃいけないし、なんて言うか、凄く人が多くて拷問みたいな会だよ……。強制参加だし……」


 説明下手すぎでしょ。この人。


「引きこもりの末妹様も出るんです?」

「出るわよ〜! 何だって全魔女が集うんだから! 今回は、うちからも新しい魔女ちゃんが出るから少し気合も入らなきゃいけないんだけど……。お姉ちゃん、少し太ったのよ……」


 この人もか。


「お姉ちゃんね、他の魔女よりもお姉ちゃんなんだけどね」


 マリンちゃんが言っていた序列の話だろうか? 確か、大姉様の上はマリンちゃんとそのお兄さんしかいないとか。


「気を遣っておべっか言われるのが、精神的にとてもキツイのよ……っ!」


 序列上位におべっか言わなきゃいけない規則でもあるのか?


「でも、大姉様は魔法で何とかなるんじゃないんですか?」


 魔女だし。僕たち見習い魔女レベルの魔法よりも格段に上の魔法を使える大姉様であれば、それなりに見た目も補修できる魔法があるのでは?


「なるっ!」

「なるならいいじゃないですか」

「なるけど、他の魔女から魔法使ってる事は一発でバレる! みんな使えるから!」


 凄まじい魔法の弊害を見た気がした。


「……はぁ。わかりました。じゃあ、大姉様も一緒にやりましょうか。言っておきますが、僕のダイエットはハードですよ?」

「望むところよ……っ!」

「まずは基礎の運動から! 姉様達は筋肉にもっと興味を持って!」

「はいっ!」

「大姉様声、デカ……っ」

「集中! 指先まで集中! 末姉様、集中しすぎて魔法陣出さない! 大姉様も枝出さないっ!」

「はいっ!」

「大姉様返事、本気……っ」

「もっと太腿を上げて! 自分が木になっていると思うだけでいいんで、大姉様は本当に木にならない! 根っこ張らない!」

「はいっ!」

「次は二の腕! 姉様達っ! 何ですか、このプルプルはっ! スライムの方が筋肉がありますよ!」

「スライムは筋肉ないよ!?」

「流石にそれはお姉ちゃん達でもわかるよ!」

「いえ。姉様達よりは筋肉があります。スライム以下です。姉様達は」

「ぐぬぬぬっ! 真顔で!?」

「真顔で真剣に言われるとそんな気になってくる……っ!」

「次はエステです。僕の呪い達っ!」


 姉様達相手に反転世界を作らなくてもいいのは楽である。

 いくつも黒い手が床から映えて姉様達の体をシェイクアップしてくれる。

 正直、呪い殺すよりも僕はこの使い方の方がとても個人的には利益がある。いつでも最高級のエステを体験できるんですよ? 凄く無いですか!?


「えー。何これ。気持ちいい〜」

「これだけは末妹様のスパルタ受けてて良かったと思う〜」

「ふむ。末姉様の肌はだいぶ良くなって来ていますが、大姉様にもケアが必要ですね。この後はお風呂に入って徹底的にスキンケアをしましょうか」

「はーい」

「大姉様の声量が元に戻ってる。浄化されてる……っ」

「では、お風呂入りますよ。でも、三人はキツいですね」

「そうね。空間歪めましょう」

「ゴリ押し魔女力」

「魔法で解決し過ぎでしょ」

「これで三人で入れる様になったわ! ささっ! 先生、ケアお願いしますっ!」

「全裸で頭下げられるの初めてです」

「私も脱ご」

「まずはしっかりと湯船に浸かりましょうか。それから体を洗って……、大姉様、石鹸じゃなくてこのボディーソープを」

「高そうな石鹸!」

「ボディーソープ!! 泡を立てて潰さないように。そうです。上手いですね!その間に僕は大姉様の髪を洗いますね」

「姉妹でお風呂入るのいいよねー。初めてかも」

「そうね。上の妹ちゃんも一緒ならいいのに〜」

「あの人が入るわけな……」


 ガラリと風呂場の扉が開く。


「入るけど!?」

「入るの!? こう言うのに厳しい人でしたでしょ!?」

「もういいの。そう言う無駄なのやめたの。お前はハーレムものの主人公にしては逸脱しているから何も起こらないっ!」

「起きますよ。肌が綺麗になるんです。あと、髪も」

「上の妹ちゃんも寂しかったわよね〜。一緒に洗っこしましょうか!」

「いや、大姉様は自分のをしっかりやって下さい。小姉様も髪洗いましょうか?」

「赤子じゃ無いんだから結構よ。それより、何でここの空間誰もタオルしてないの……? エフェクトバグってんの?」

「え? もう、僕はパーフェクトボディに戻ったからですが?」

「タオルいる?」

「逆に上の妹ちゃんは何故巻いているの?」

「……取ります」

「ほら、皆さん。お風呂に入る間も背筋を伸ばして! 猫背は一番ダイエットの天敵ですよ!」

「はーい」

「どうしても猫背になっちゃうのよね〜」

「何だこの空間……。最高に狂ってるな」

「ささ、出たらスキンケアです。保湿はたっぷりとね!」

「私の顔でやるなよ」

「小姉様、凄く肌綺麗ですね。何か特別なことでも?」

「やってるわけ無いだろ」

「いるわよね……。何もやってなくて綺麗な子……」

「私だけが傷つくこの世界……、滅ぼさなきゃ……」

「突然の闇落ちが酷い。末妹、二人の呪い食ってよ」

「いやですよ。魔女の呪いなんてカロリーオーバーもいいところなんてすから。ほらほら二人とも手を休めない。丹念に体に塗って下さい」

「はーい」

「ふぁーい」

「さて、皆様お疲れ様でした。睡眠は大事ですからね。ゆっくりと寝てください」

「はーい」

「ふぁーい。あ、お風呂上がったしアイス食べよ」

「いいわね。お姉ちゃんも〜! お風呂上がりのアイスは格別よね〜」


 ……。


「いや、それ意味ないからっ!」


次回更新は10日の20時となります。お楽しみに!

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