第36話 バスモウタイム

「末妹様、少し詰めてー。この前のケーキ、美味しかったなぁー」

「あれは小姉様の奢りでしたからね」

「ヒーラーちゃんも可愛かったし、また遊びたいね!」

「マーさんに頼んでおきましょうか。それよりも、末姉様」


 僕はタオルをとってそっと下に沈める。


「何?」

「お風呂、ゆっくり入りたいんですけど」


 先ほどから、人の浸かる湯船に何を我が物顔でこの人は入ってきているんだ。この姉は。


「うん。私が強く出れるの末妹様だけだから無理だね!」

「……末姉様のそう言うところ、嫌いじゃないですけど。何があったんです?」

「小姉様が怖い本買ってきて、一人でお風呂入るの無理だもん。頭洗ってる時に後ろにお化けが立ってたらどうするの!?」

「は? 呪い殺しますよ。末姉様も奴隷達召喚して嬲り殺せばいいじゃないですか」


 世界滅ぼせる系魔女の一人なんだし。


「奴隷じゃなくて友達ね! それに、お化けに効くとは限らないでしょ? 末妹様はその点、呪いとかお化けにも効きそうだし、最悪食べてくれればいいかなって」

「ダイエット中なんですよ。僕は。食いしん坊キャラ付けるのやめてくれません?」

「ダイエット手伝うよ!」

「そう言って、小姉様はお菓子片手に頑張れ頑張れって煽ってきただけだったので、僕はもう誰も信じないです」

「私の事は信じてよ! それに、私もダイエットしなきゃなぁって思ってるし……」

「末姉様がですか?」

「そう! 最近、エル君やマー君がうちに入り浸る度にお菓子が出るから太ったんだよ!」

「ああ……」


 確かに、お菓子が出るたびに末姉様も僕の部屋に入り浸ってるなぁ。


「お腹やばいんだって」

「末姉様、家から出ないからいいじゃないですか」

「良くないよ!? 末妹様、私の事なんだと思ってるの!?」

「意思疎通がまあまあ出来る赤ちゃん」

「少し進化してるね! ありがとう!」


 末姉様、何でこんなに声量バグるんだろ。お風呂では耳が痛い。


「でも、このままだと本当に赤ちゃんみたいなお腹になっちゃうよ……」

「そんなにです? 余り変わらないと僕は思いますけど」

「これを見てもそう言えるかな?」


 末姉様は立ち上がり、仁王立ちで僕の前に立つ。


「末姉様……」

「うん」

「これ、ヤバくないです?」

「うひゃっ!」


 プニっとした腹を掴むと、末姉様が声を上げる。


「擽ったいよぉ」

「あ、申し訳ないです。でも、確かに贅肉が乗ってますね。よくないですよ」

「でしょでしょ!?」

「胸があるので、余り服では分かりませんが掴み心地がクッションでした」

「ハッキリ言うよね。でも、わかる。寝る時自分のお腹触って寝ると、ぐっすり寝れる」

「快眠グッズじゃないですか」

「末妹様のお腹はどう?」

「え、嫌ですよ。僕はパーフェクトボディに戻る迄は誰にも見せませんし触らせません」

「私のお腹触ったじゃん!」

「末姉様が勝手に見せてきたんでしょ?」

「姉妹だからいいじゃん! お願いー!」

「はぁ……。仕方が無いですね。誰にも言わないで下さいよ?」


 僕は立ち上がりポーズを取る。

 見られる意識は常に。美は常にだ。


「末妹様……。すっごい! お腹薄ら割れてる! えー!? 全然お肉ないじゃん。掴めない!」

「いや、ありますよ。体重も二キロも太りましたし、少しだけ腰回りが重いんです」

「うわ、腰細い。折れないの? これ」

「抱きついて折ろうとしないで下さいよ。末姉様、二の腕も……、あれ? これ贅肉……?」

「末妹様、二度と私の二の腕触らないでくれる?」

「突然の拒否!?」

「もう、末妹様とは二度と触り合いっこしない。私だけが酷く傷つく。残酷な世界……。終わらせなきゃいけない世界……」

「死んだ魚の目をして魔女みたいにならんで下さい。基本的に、末姉様は筋肉がないんですよ」

「でも、筋肉って重いし太くなるんでしょ?」

「ある程度はね。でも、ないと消費も悪いですし、脂肪を燃焼させるものが無いので肉もつきやすいですよ」

「へー」

「あと、末姉様。スキンケアはされてますか? 肌の状態、余り良く無いですよ?」

「え? 何にも」

「髪は?」

「あの石鹸泡立ててざぶざぶしてる」

「石鹸!? はぁー!?」

「え、突然のキレ!?」

「あり得ないんですがっ! ほら、湯船から出て! 僕のボディーソープ使ってください! 泡立てて! 潰さない様にこうやって肌を労りながら!」

「この高そうな石鹸、末妹様のだったんだ」

「ボディーソープ! 石鹸じゃ無いです」

「顔が怖い」

「ほら、腕を上げて。僕が一通り洗うので、これからは真似して下さい」

「ひゃっひゃっ! 人に洗われるのくすぐったいよね」

「さあ? 僕は洗われた事ないので」

「えー。本当に?」

「流石に赤ちゃんの時は洗われていたと思いますが、覚えてないですよ」

「そうなんだ」

「太腿伸ばして。僕の足に置いてくれてもいいですが、ここも筋肉を付ける為には自力で維持した方がいいですよ」

「明日からで……」

「デブに明日は来ないんですよ」

「はひ……」


 美は一日してならずです。


「髪も僕のシャンプー使ってください。今日は酷く痛んでいるんでリンスも」

「ひゃー。頭洗うの美味いー。末妹様のが一番気もちいいかもー」

「リンスは時間よりも揉み込む方が大切ですからね」

「はーい」

「ほら、出来ました。出た後は保湿をしっかりして下さい」

「やってくれないの?」

「末姉様は全て洗い終えてますが、僕はまだですから」

「私がやってあけるよー! 気持ちよくしてあげる!」

「いいです。末姉様はテクニックが望めないので、僕を満足させる事においては力不足だと」

「やってみなきゃ分かんないよ? それに、人を喜ばすテクニックならあるから。末妹様は忘れてない? 私が何の魔女か」

「人間召喚魔法陣」

「召喚の魔女でいいじゃんか。私に召喚された子達は私のメロメロ指テクで天国を見て帰っていくの。あの子達の毛並みがどれ程輝いてるか知っていて? 私が滅茶苦茶すごいテクがあるからなんだよ!」

「いや、僕魔女なんで。人型なんで」


 毛並みじゃないんで。


「魔女ルール! 姉様の言う事は絶対!」

「何で!?」

「ほらほら! 身体を明け渡せー!」

「きゃー! 襲われるー!」

「うっせー!! アンタ達、餓鬼じゃないんだから静かに風呂入れないの!?」


 小姉様が風呂場のドアを開ける。


「あ」


 これ、デジャヴ?

 あ、これ消させるな。


「……小姉様……?」


 しかし、小姉様は何も言わずに鼻で笑いながら僕達を見る。

 何も攻撃もしてこないなんて、何で……?


「ここ、相撲部屋だったか。悪かったわね。ぶつかり稽古の邪魔して」


 そう言って、ドアを閉めて出て行ったのだ。

 は?

 は?

 はぁ?


「……末姉様。私間違ってた」

「末妹様。僕もです」

「絶対に痩せて小姉様見返してやろうね!」

「ええ! お風呂出たら筋トレしましょうね!」

「絶対に小姉様より痩せてやるんだからー!」


 この僕の腹を見て笑った事、必ず後悔させてやるんだからなっ!



次回更新は9日20時となってます。お楽しみに!

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