第33話 異世界買い物7

「見つけたぞ!」


 僕はふむと、周りを見渡す。目の前にいる男達は四人。剣、斧、ナイフに杖か。ナイフは僕が仕留めたシーフとは違う男だな。

 接近戦と遠距離戦。

 どうやら僕達は大きな声を出しすぎたらしい。いつものノリではしゃぎ過ぎたようだ。


「早くその子供をこちらに渡すんだ」

「ヤダっ! 私、行かない!」

「あなた方はこの奴隷の所有者の方ですか?」

「いや、違うが所有者から依頼を受けて其れを回収に来ている」


 剣の男が前に立つ。

 こいつがリーダー格か。


「僕達は逃げる女の子を保護しているんです。何か間違えがあってからでは遅いんですよ。悪いですが、それを証明できるものは?」

「あるが、今はない。冒険者ギルドに一緒にこればいい」

「僕達だって、まだ十五、六の子供ですよ。大の大人に囲まれたら勝てないんです。もしそれが嘘で、貴方達の根城に連れ込まれて殺されましたと言う可能性もある。ここに持って来られるまでは僕達は彼女を渡せません」

「確かに、君達の言い分は正しい。だけどな、これは一刻を争う時代なんだよ。その子供は、大切な子供なんだ。もし、彼女の存在を嗅ぎ付けた魔物が君達を襲うかもしれないんだ」

「その言葉をそっくりそのままお返ししますよ。貴方達が人間に化けた魔物の可能性もあるじゃないですか。この子は、僕達に怯えて助けを求めて来たんです。どんな事情があるか僕達には分かりませんが、貴方達が本当にこの子の持ち主に依頼されて来られたと証拠を見るまでは、はいそうですかと渡す事はしませんよ」


 僕達は、一般市民であり、少年である。

 見た目の話だ。

 中身の話はしていない。

 恐らく、交戦してもマーさんがいる限り幾ら飛べず潜れずの僕達がいようが勝てる。

 これは確定事項だ。

 そして、僕達は小姉様のビンタで死ぬ。これも確定事項である。


「僕達は此処で待っていますので、見張りの人を置いて取りに行ってください」


 ならば、バレない程度に一人一人懇切丁寧に土に埋めるしかない。

 流石に土の中なら小姉様にもバレないはず。


「……はぁ。分かった。分かったよ。どうやら、このお姫様には騎士が付いているようだ」


 意外にも聞き分けがいいな。

 ただの脳筋だと思っていたのに。


「では……」

「しかし、悪いが此方は急ぎなんだ。力づくでいかせて貰うぞ」

「あー……。やっぱり、馬鹿の方でしたか……」


 僕ははぁと溜息を吐く。


「は?」

「いや、本当に。何で見直そうと思っちゃったのか自分の心優しく女神の部分に呆れ返りますよ。本当に、脳みそも筋肉で出来てるんです?」

「お前、何を舐めた口を……っ」


 その瞬間だ。

 ナイフを持っていた男が大きく後ろに吹っ飛んだ。


「おい。余の親友に何をしようとした。まだ、スーが喋っておるだろう。大人しく聞く脳みそもないのか?」

「あー……。やっちゃった……」

「エル君。公共決裂ですよ。僕たちは頑張った。そうでしょ?」

「いや、もっと頑張れたと俺は思うよ?」

「気のせいです。オセロで絶対勝つ方法を教えましょうか?」

「この前、スーが自作してた白黒テーブルゲーム?」

「そうです。あれには必勝法があるんです」

「え? 何? 角取るとか?」

「いえ、もっと簡単です」


 僕は力の限り拳を作って目の前の剣士を殴る。


「相手が倒れたらゲームが続けれないので終わりです」


 生前は法の元で生きいてた為、この行為は出来なかったが法外の今なら何でもできる。

 美しさは強さも含めて。僕は日夜体を鍛え上げていたんですよ。


「ガキじゃん……」

「美少年ですっ!」


 一発ではやはりこの筋肉は沈まないか。

 すぐ様男は大きな剣を抜き振りかざして来る。


「お前らっ! 俺たちが誰だか分かってんのか!?」

「失礼。顧客以外の顔を覚える無駄な領域はありませんもので」

「この野郎っ!」


 男は何度も僕を斬りつけるが、僕は最低限の動きで避ける。

 はー。一度避けてみたかったんですよね。現実世界でやると、死ぬ程非難を浴びて陰湿さが増すのでこんな事出来ないですけど、今は関係ないですもんね!

 楽しいー!


「エルさん、作戦変更です。彼女と逃げて貰って大丈夫ですか?」

「え? 無理っ!」

「何で!?」

「何でって……、こっちにも魔法使い来てるから!」


 あらあら。では、斧はマー君が相手をされているんですね。


「何系の魔法使いです?」

「え、知らね! あの、おっさんどんな魔法が得意っすか!?」

「それ、聞いちゃうんです……?」

「聞かなきゃわかんねぇんだもん!」

「コミュ力高過ぎでしょ!? 合コンか!?」

「俺は、幼馴染以外なら大丈夫ですっ!」

「……性癖が歪んでいる……」

「うるせぇ! 幼馴染は地雷なんだよ! カスしかいねぇんだよ! その後に何されてもマイナスはプラスに二度と戻らねぇんだよ! ツンデレだったとかふざけた属性付ける前に顔面地面に擦り合わせて火出すのが先だろっ!」

「お兄ちゃん、それ分かる」

「だよね!?」

「あの幼女もエル君も闇が深いですね……」


 あの少女は分かるけど、エル君には何があったんだろうか……。


「巫山戯るのも、いい加減にしろっ」

「ああ、失礼。いいですよ。じゃあ、終わりましょうか」


 時間は十分に稼いだ。


「全員、消したらゲームなんてなかった事になるでしょ?」


 僕の呪いは、既に完成しているのだから。


「っ!」


 僕が手を叩くと、周り一面が夜に変わる。

 酷く局地的な夜だけど。


「うわ。えっぐ」


 煩いですよ、エル君。


「エル、これは?」

「スー君の呪い」

「スーの肌に黒い手形が……」

「ここは、スー君の呪いの内側。呪いって、俺よくわかんないんだけど、姉様達が言うにはどうしようもない敵意と悪意と殺意なんだって」

「ええ。でも、敵意と悪意と殺意だけでは何も起きませんよ。心の中で唱えているだけですから。でもね、内側に入ればそれは反転し呪いは敵意と殺意と悪意を具現化するのです」


 何十本と言う誰の手かも分からない腕達が男達を何重にも絡みとる。


「これは、本当に囁かない僕の呪いの一部です。貴方達に向ける、敵意と悪意と殺意。先程あったばかりですからね。些細なものになってしまうのは仕方がない。でも……」


 男の手足を手達がもぎ取る。まるで実ったフルーツをもぎ取る様に。


「っ!」

「僕を殴ろうとした。僕の言い分を聞かなかった。僕の友達に敵意を向けた。ささやかですけど、貴方たちが死ぬのには十分な呪いになると思いませんか?」


 僕と言う個を認めない。

 それだけで、十分に苦しんで死ぬ必要がある。


「まだまだですよ。まだまだ、もがき苦しんで死んでもらいます。あの時、僕の言葉を、言い分を、提案を聞かなかったから、こうなったんですよ。それをへし折った奴は何処のどいつだ? ええ。彼です。彼のせいで皆んな死ぬんです。彼の安直な選択のせいで。さあさあ、皆様。ここは呪いの内側。彼に責任を、呪いを掛けるなら今しかないのですよ!」


 斧と魔法使いは、剣の男を酷く呪った。自分たちがこんな事になったのは、お前のせいだと。

 その呪いは方を変え、手が何本の剣になり男に突き刺さる。


「上手上手! ああ、もっともっと……」


 僕に、惨劇を……。


「あら、楽しそうね。ナイトパーティなんて、私初めてかも」

「……え?」


 え?


「あら、でも、音楽がしけてるわね。悲鳴一つ? これで気分が上がるとでも?」

「あ、あ……」

「ここは、もっと音楽をアゲアゲにすべきね。そうでしょ? 末妹。アンタの悲鳴でね?」

「小姉様ー!?」

「うるせぇー! 腹の底からお前は悲鳴を上げろや!!」


 雷パンチって知ってますか?

 ええ。僕は勿論知ってますよ。

 だって、今くらってますからね。

 吹き飛びます。全てが。

 ええ、全てが。

 全てがっ!!



次回更新は6日20時頃となっております。お楽しみにー!

 

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