第32話 異世界買い物6
「追っ手を掻い潜りながらこの街を出る。出る時は少々乱暴でも出れればいいので何とかなるでしょうが……、問題はこの街中での戦闘をどう回避するかです」
「俺ぐらいが使える基本魔法でも、魔法が使えない奴の方が多いこの街では目立つだろうな」
この街は、魔法が使える種族もいるが多くは魔法の耐性がない人間などが主となって形成されてるらしい。
見せ物であればいいのたが、戦闘となるとどうしても人目は引かざる得ないだろう。
「目立たない魔法は?」
「土、とか? いや、地面が抉れるし人がいたら人を巻き込むな。水とか? 水を顔に纏わせて窒息させる」
「いいジョークですね。嫌いじゃないですよ」
水責めにあっていた少女の前でその残虐さ。
矢張り、エルフも何処か少しズレてるんだろうな。
特にエルさんは。
周りに僕たちしか居ないから。こればかりは仕方がないか。
「でも、出来れば穏便に済ませたい」
「スーよ、何故にそんなにも彼方側に拘る? この小娘と言う大義名分が此方側にはあるではないか」
確かに正当防衛と言う文句が曲がり通るなら飽く迄も我々は堂々としていればいい。
だが、それは、今回以外の時だ。
「先程、マーさんは彼らを冒険者だと仰っていましたね」
「ああ。間違い無いだろうな」
「となると、皆さん。よくよく考えてください。うちの小姉様のバイト先を」
エル君とマーさんは空を見上げてはっとした顔をする。
よくこの短時間で忘れられるものだ。
「冒険者ギルド!」
「お二人とも、正解です。つまり、彼らを無駄に攻撃すれば攻撃する程、小姉様の光速張り手ビンタを喰らう確率が上がるわけです。あれは……、痛いどころじゃ無いですよ。無駄なバトル漫画さながらに体が飛びます」
君達は水を平行に吹き飛ばされた事があるか?
僕はある。
「ラスボスじゃん」
「ラスボスですよ」
「魔女は余達ドラゴンよりも上位種族だからな。多分、エルはビンタを繰り出す衝撃で死体は残らんし、余も原型はなんとか魔力で留める事はできるが、内部が消滅して消える。スーは魔女の原理の元で生きているから死なんなけだ」
「こえぇえぇ……」
「いや、僕も顔面半分破壊されてましたよ。海に映ったのホラーでしたし」
「何そのフォロー。いる? 普通に怖えよ」
「なので、今回騒ぎを起こすと僕の顔はまた半分吹き飛びますし、二人は死ぬので。無駄な交戦は回避していきましょう」
「では、どうする? 空から行くか?」
「あ、僕空飛べないですよ? 陸歴十六、七年程なので」
「エルフ、空、飛べない。地面、這いづって生きる」
「貴様ら魔法が使えるなら飛べるだろ」
「馬鹿野郎! 陸で生きてる奴が空飛べるか!」
「風魔法って相手に向かって放つものですよ? 何故自分にかけれるんですか? 誰が保証してくれるんです?」
「貴様らは……」
飛ぶなんて絶対嫌ですからね。
あんな危険行為ができる人の気がしれないですよ。
「このまま裏路地抜けるのは?」
「裏路地は裏路地ですよ。外に続くか分かりませんし」
「ならば、地下は?」
「地下水路とかあるんですか?」
異世界にも?
「無い」
「無理じゃ無いですか!」
「普通に地下に潜って掘り進めれば良いだろう。地面と仲が良いならそれぐらい……」
「出来ねぇよ」
「僕たち魔法一年生にすらなってないレベルですよ? 分かりますか? 空を飛ぶことも土に潜る事も僕達にはしに直結するんですよ!」
レベルカンスト魔王と一緒にされては困ります。
「……貴様ら、得意魔法は何なんだ」
「呪いと毒です! 一人からでも、数千人規模でも毒殺、呪殺ならお任せを!」
「村を焼く炎なら任せろ! 影ひとつ残さねぇ!」
「……交戦的過ぎるだろ?」
「因みに他の魔法は基礎が使えるぐらいです」
「右に同じく」
「貴様ら本当にエルフと魔女なのか? 偏りが酷くないか?」
「僕の長所は一つの事をトコトンやり続ける根拠ですからね!」
「俺はもう村を焼くことしか出来ないエルフだから」
「闇が深い」
魔女ですし。
「ならば……、そうだな。エルフは姿を変えれると聞く。エル、貴様は女になれ」
「えっ!? 何で!?」
「如何わしい同人誌みたいな事を言い出しますね」
「お前達が何を言っているか知らんが、この子の手を引き母子に化けろ。人間達は余達の姿を見ておる。既に他の仲間に今の姿は共有されておると考えた方が良い。ならば、それを逆手に取り全く違う出立ちにするのだ。余は影に潜めばよいし、スーは小姉が戻って来てから合流すればよかろう」
「あ、成る程」
「マー君頭いいじゃん」
「そうであろう、そうであろう。しかし、褒め称えるのは後にして、早くしろ。時間はないぞ?」
僕とエルさんはにっこりと笑う。
「いや、したいのは山々なんですが、エルはさんは姿を変える魔法が……」
「出来ないんだよなー!」
「え!? エルフなのにか!?」
「渡にそんな魔法教えてくれる所、ねぇーんだよ。クソエルフの世界には」
「なので、無理です。ここは正攻法で一人づつ闇打ちの方が良いのでは?」
「え? 本当に脱出ゲーム得意なの?」
「そもそも、謎がないですもん。秘密の暗号とかあれば、もっと本気出せますよ」
「ねぇよ」
あーでもない、こーでもないと話していると、少女が手を挙げる。
「お兄ちゃん達」
「はい。何ですか? お腹空きました?」
「うんん。違うの」
「喉渇いた?」
「違うの」
「どうした?」
僕達に、少女は指を差す。
ん?
「おじさん達に見つかってるよ」
僕達の後ろには、少女を追っていた男達の姿があった。
「あっ……」
うっかり!!
次回の更新は5日の20時となります。お楽しみに!
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