第30話 異世界買い物4

「多少の時間はこれで稼げましたね。で、その子は一体?」

「多分、見た所人間の女の子だとは思うけど……」


 エルさんに引っ付いたままの彼女は心許ない自分を隠す様にエルさんの後ろに隠れる。


「この子よりも、追ってきた奴ら何者なんだ?」

「さあ? 一人はシーフがいたみたいですが……、他は剣士などですかね? 屈強でしたし」

「恐らく、冒険者か何かだと余は思う」

「冒険者ですか? それは何故?」

「余の所にも来るからな。余が経営しているダンジョンにも」


 ダンジョンって魔王が経営してるんだ。

 となると。


「武器や防具が冒険者のものかぐらいかは見明が付く程客にしているからな」

「そのダンジョンの隣に僕の薬ショップの支部を置く企画を立ち上げたいのですが……」

「それはコラボか?」

「ええ。勿論。そのダンジョン限定商品などライナップなどをまとめて企画提案書として後日届けさせていただきます」

「余も近々ダンジョンに食事提供場所の設置を考えていたのだが……」

「良いですね。ダンジョン内は多少値が張っても需要があるのでカフェテリアと併用という形で僕の薬ショップを展開したいと思います。ダンジョンに入るのは若い冒険者が多いと思いますので、若者向けのフードなどを中心とした方が良いかと」

「成る程。此方のアンケート結果のデータと照らし合わせて検討したい。ある程度の情報は事前に……」

「いや、金話はいいからっ。緊急事態だろ。こんな小さい子が追われてるんだぞ?」


 エル君に嗜められ、僕らはやっと現状の整理に勤しむ事にした。


「ここは素直にお嬢さんに聞いてみましょうか。ねぇ、お嬢さん。あの人達は知り合いですか?」

「うんん。知らない人」

「どうして追われているんです?」

「おい、かけられてるか、ら?」

「では、家まで安全にお送りしましょう。ご自宅はどちらで?」

「おうちは……」


 その質問を最後に少女はそのまま黙り込んでしまった。

 と言う事は、だ。


「お前、家がないのか?」


 マーさんは常にストレートだな。

 でも、下手に自分の口から誘導よりは賢いのか。

 マーさんの言葉に、女の子はおずおずと頷いていく。


「うん……」

「そうか。家ないのか。じゃあ、母ちゃんと父ちゃんは?」

「バイバイ、した」


 どちらの意味でだ?

 僕が首を傾げていると、エル君が女の子のスカートを捲る。


「エル君っ!?」


 ちょっと貴方、その性癖は異世界的にもどうなんですか!? 警察案件ですか!?


「ちょっと、ごめんな。やっぱり……」

「貴方……」

「奴隷紋がある」


 そういうと、エル君は女の子の膝下にできた赤い紋章を僕達に見せた。


「と言う事は、奴隷?」


 奴隷紋という単語は初耳だが、この世界に暫く言えば何と無くは意味が分かるというものだ。

 何というか、漢字ばかりの中国語を漢字という文化がある日本人が何となく言いたい事は分かる感覚に近い気がする。


「ああ。奴隷紋がそのまま赤色だから、売られる前だ。お前、奴隷市場から逃げてきたのか?」

「……うん」

「そうか……。頑張ったな」


 エル君は少女の頭を撫ぜると抱きしめる。


「奴隷なんてあるんですね。この世界」

「廃止になってる世界の方が少ないぞ。余の世界にもある」

「でも、どうしますか? 恐らく、家には帰れないでしょうに」

「ああ。そうだな。それに……この子の服装を見てくれ。明らかに奴隷が着るもんじゃない」

「ドレスの様に見えますね」


 奴隷というよりは、お屋敷から逃げ出したお嬢様と言われた方がしっくりくる。


「奴隷は合法なんですか? こういう場合は警察とかに僕の世界は行く決まりになってますが……」

「この世界はどうしようもないな。逃げ続ける事しか出来ねぇ」

「合法かは分からぬが、他の奴隷とは違う様だな。小娘、此方にこい」

「……」


 マーさんの手招きに、少女は少し怯えた様子を見せる。

 見るからに少し怪しいですしね。


「あの黒い兄ちゃんは、俺の親友だぜ? 大丈夫だよ」

「親友!?」

「親友ですって!? エル君、それは浮気では!?」

「余が親友とは誠か!?」

「お前ら怖がらせるなよ。二人とも、親友。俺の一番の友達。だから、安心していいよ」

「そうだ。余はエルの親友だ。エルを信じるなら余もスーも信じるが良い」


 マーさんは少女の目線に膝を折ると少女に手を差し伸べる。

 1番最初の親友は、僕ですけどね!?


「うん……」

「なに、何も怖い事はせぬよ。ただ少し、お前の中を見せてもらう」


 歩み寄った少女にマーさんは額に手を当てると、マーさんの指先が青く光出す。


「それは何を?」

「此奴の能力を読み取っている」

「能力を?」


 そんな魔法があるのか?

 魔王特有のスキルだろうか。

 マーさんはそのまま目を閉じると、暫くして少女の頭を優しく撫ぜた。


「有難う。お前は、ヒーラーか」


 ヒーラー?


「ヒーラーだって!?」


 エル君がマーさんの言葉に声をあげる。


「ヒーラーとは……?」

「人間の世界にはヒーラーいないのか?」

「ええ。でも、ゲームだと、回復役の事をヒーラーと呼びますよ」


 主に回復系の役目を持つ職業の総称がヒーラーだ。


「じゃあ、あってるよ」

「それがそんなにも驚く事なんです?」


 ありふれた職業だろうに。


「知らないのか? ヒーラーは、全世界探しても極小数のレアスキルなんだよ」


 と言う事は……。


「この小娘は普通の奴隷ではない。勇者への貢物だな」


 勇者への……?



次回更新は3日の20時ごろとなります!お楽しみに!

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