第28話 異世界買い物2

「ここが、異世界……」


 ふ、普通〜っ!


「よく漫画とかで見る風景ですね」


 様々な人種が入り乱れているが、特に驚く事もなく。

 何故だかよくテレビで観る観光地に来ている様な錯覚に陥ってくる。


「もっと感動ぐらいしなさいよ。連れてき甲斐のない奴ね」


 小姉様が呆れた様な口調で僕を責めるが、おかしな話である。


「一般的なファンタジー漫画における基本的な描写を見ている感じですからね。目新しさがないです」

「本当、可愛げ無いわね。少しぐらい、わ〜。沢山人いましゅ〜! ぐらい言えっての」

「ましゅは流石に……」

「そこだけピックアップすんな!」

「いやでも、ここで騒がれて悪目立ちするよりはいい反応じゃないっすかね?」

「エルはよれよりも、しっかりとその魔王の手綱引いてなさいよ」

「あれは何だ?」

「マー君、ステイ!」


 僕よりもマーさんの方が異世界を満喫しているな。


「アレは他人のフリしとけ。取り敢えず、ローブ買って、姉様に頼まれた物買って……。ああ、あそこだわ」


 小姉様が僕を引き連れて入った店はごく普通の洋服店。

 この規模なら、僕の世界にもたまに商店街で経営が成り立っているのかと首を傾げたくなる程度に見た事がある。


「魔法学校の指定ローブは……。あった、あった。これよ」

「意外に金額が掛かりすね。これなら、大姉様の織った布の方が良いのでは?」

「気持ちはわかるけど、無理ね。姉様は普通の布を織ることは出来ないのよ」

「普通の布? これは?」

「魔女の布はね、最高級の魔法防御値があるのよ。そこら辺の魔法使いが簡単に手に入れれる布じゃ無い。それこそ、あそこの魔王を狩る勇者の魔法使いが着てるもんなのよ」

「無敵じゃないですか」

「防御力が高いだけで完全に防げる訳じゃ無いわ。私みたいな稲妻の化身が相手なら意味を成さない。でも、魔法学校にそれを着て行ったら一発でバレる品物なの」


 まあ、確かに……。


「理にかなっている……」

「当たり前でしょ。でなきゃ私も妹もこんなゴミみたいなクソ高いローブ買わないわよ。ほら、後ろ向いて、合わせるから」

「あ、はい」

「んー。足首迄欲しいわよね」

「皆んなそれぐらいなんですか?」

「魔法使いはね。これは少し小さいか……」


 そう言えばこの人は魔女になる前は魔法使いだったんだよな。

 魔法使いについては、一番詳しいのだろう。


「よし、これ。これ買うわよ」

「はい」

「アンタは外であいつら回収しといて」

「わかりました」


 店の外に出ると、マーさんを取り押さえようと格闘しているエルさんが目に入る。

 魔王がエルフに取り押さえられているのも中々面白いな。


「お二人とも、遊んでないで次行くそうですよ」

「スー君も手伝ってくれよっ」

「あれは!? あれは何だ!?」

「ステイ!」


 小姉様。これは確かな人選ミスですよ。




「大体、こんなもんね」

「滅茶苦茶疲れた……」

「余もだ……」

「僕もです……」


 ぐったりとテラス席のテーブルで伸びている僕達に小姉様が鼻で笑う。


「アンタたち男の子なんだから少しは体力ってもんつけなさいよ。だらしないわね」

「何で小姉様はそんなに元気なんですか?」

「鍛え方が違うのよ。ほら、ここのご飯はご褒美に私が奢ってあげるから好きなもん食べなさい」


 天変地異か?


「小姉様、現金あるの……?」

「お前たちは私の事を何だと思ってんの。大体、あの店でどうやって金が入用の時に支払いしてたと?」

「ああ。それは確かに気になりました」


 現金を受け取らない大姉様の経営方針時にどうやって姉様達のローブを買ったのだろうか。


「たまにバイトしてんのよ。冒険者ギルドで」

「バイト!?」

「ニートが!?」

「ニートじゃない。フリーター。魔女にはどうしてもある程度の金額が必要な時があるのよ。魔女のお茶会とかね。その為に、少しだけ小遣い稼ぎしてるわけ」

「ゴブリンとか狩ってるんですか?」


 冒険者ギルドといえば、ゴブリンだろうに。


「固定種を出さすな。この世界にはゴブリンも普通に店出してるんだから。まあ、敵だと言われ奴を仲間に紛れて殲滅させる簡単な仕事よ」

「そこに善悪は?」

「ないない。報酬が正義」

「ま、魔女だ……」

「そんなもんでしょ。仕事なんて」


 あっけらかんと小姉様が笑う。

 しかし、ニートだと思っていたが小姉様がニートではないとすると……。あの家の真のニートは末姉様だけだったのか。


「でも、いつ仕事なんてされてたんですか?」

「基本夜。けど、別にいつでも。私、稲妻だから距離とか関係ないのよ。仕事しながらご飯の時間には家に帰ってご飯食べてまた仕事するとか」

「稲妻、便利ですね。いいなぁ」

「でしょー!?」

「落ち着いて、エル君。稲妻使いになるとブラックファイヤーサンダーになりますよ」

「あっ……」


 一気にエル君の目が死んだな。


「いい加減その名前忘れないさいよっ」

「いえ、呪いと毒の僕には程遠いいい名前だと思いますよ」

「鼻で笑いやがって……っ!」

「それより、余はこのケーキが食べたい」


 突然会話にマーさんが割り込んでくる。


「いいわよ。ほら、アンタ達も選んで」

「そう言われると……」

「何頼んでいいのか分かんないよな?」

「優柔不断かよ。アンタ達もケーキセット頼めば?」

「いえ、甘いものは肌に良く無いもので」

「肉……? いや、魚の方がいいのか? 何を食べれば一番元が取れるんだ……?」

「女子と小学生か。めんどくさっ。マー、こいらの分も選んであげれば?」

「うむ。なら、スーはチコルのケーキ。エルはギョコンのタルトが良いと思う」

「じゃ、それで。すみませーん」

「いや、ケーキじゃないですか! 話聞いてました?」

「せめて飯食おうよ!」

「決めないアンタ達が悪い」

「じゃあ俺は海のランチセット!」

「僕は山のランチセットで!」

「最初からそう決めなさいよ」




「あ、こんな時間。悪いけど、少しの間アンタ達ここら辺で遊んどいてくれる?」


 運ばれてきた料理を食べ終わると、小姉様が席を立つ。


「何処か行かれるんですか?」

「うん。冒険者ギルドにね。少し呼ばれてて」

「何か悪い事でも?」

「アンタ本当に黒焦げにするわよ? 違うって、緊急クエストか何かじゃない?」

「ゲームみたいですね」


 緊急クエストだなんて。


「ゲームみたいなもんでしょ。魔女にとっては。適当に終わらせてくるから、アンタ達は遊んでていいから。その代わり、騒ぎ絶対に起こさないでよ?」

「ういっす」

「任せてください」

「余なら余裕だ」

「全員嘘くせぇ……。じゃ、お金は払っとくから適当にぶらついてて。また後で。いってきまーす」

「はい。お気を付けて」

「いってらっしゃーい」

「励めよ」

「いや、アンタ達が騒ぎ起こさない様に気をつけて励みなさいよ」


 そう言うと、小姉様は伝票を持って普通にレジに消えていった。


「何か、すげぇお姉ちゃんって感じだな。今日の小姉様」

「ですね」

「いつも姉ではないのか?」

「いや、確かにいつも面倒見はいいよ。言動キツイけど」

「うちには珍しいタイプですからね。これから、どうしますか?」

「取り敢えず、お菓子買いに行こうぜ」


 僕達はエル君の提案に賛成すると、三人で店を出る。


「あの露店の菓子が余は気になる」

「どの露店です? マーさんずっと気になるしか言ってないじゃないですか」

「あれは確か……」


 その時だ。


「助けてっ!」


 一人の少女が僕たちに飛びついてきたのは。




次回更新は12/31の20時となります。お楽しみに!

※すみません、予約間違ってたいました!13時にお待ちしていた方々申し訳ないです。また次回も楽しんでいただけたら幸いです!

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