第27話 異世界買い物1

「あとは、制服と杖ねぇ……」

「二週間なのに制服がいるんですか?」

「制服と言っても、私服の上にローブを纏うだけよ。一応、学校に属するからね」

「杖は何に使うんですか?」

「杖は……、魔法使いっぽく振る舞う為にいんのよ」


 最早ただの小道具では?




「で、それが末姉様のローブ?」

「どうですか? 変ですかね?」

「流石に短過ぎるのではないか?」

「女物だしな。そのピンクのリボンもどうなんって感じ」


 家に遊びにきたマー君とエルさんの前で末姉様のローブを着てみるが、矢張り男の僕には小さいらしい。


「んー。やっぱり、ローブは買わないとダメかぁ」


 小姉様は低く唸りながら何とか裾を伸ばそうと引っ張るがそんな物でどうにかなる程の長さではない。


「小姉様。杖も買うんじゃないの?」

「はぁ? 杖なんてそこら辺の枝を荒く削ればいいでしょ?」

「うわ、暴挙」

「あったりまえでしょ。杖から魔法なんて魔女が出るわけないんだし、フリしときゃなんでもいいのよ。むしろ、アンタの箸でもいいんだけど」


 成る程。

 皆、立派な杖を持つ中、一人だけ自分で作った手作り箸片手に……。


「暴挙過ぎでしょ」


 最早いじめじゃないか。


「ちょっと細くて短い箸ですって言っとけば?」

「もうそれは普通の箸ですよ。何も隠せてないじゃないですか」

「ああ、杖。杖ですって言えば何でも杖でしょ」

「姉様達は杖どうしたんですか?」

「私は……置いといて、妹は自分の所の大魔術師に借りてたわよ」

「え、本業の方に!?」

「方に」

「ふむ。それでも良いのならば、余のローブと杖を貸そうか?」

「マー君のいいんです?」

「良い良い。余もローブも杖もそれほど重要ではないからな。友として貸してやる」


 そう言うと、マー君は不思議な空間から黒いベルトが滅茶苦茶付いたローブとこの家の天井まで届きそうな無数の髑髏×黒い翼×黒い鱗の何処ぞの各話タイトルの様な杖を取り出した。


「……あ、いえ、やっぱりいいです。それを着こなせるのはマー君だけだと思うので」

「スーも顔だけは良いから似合うぞ」

「知ってますが、結構です」


 色々と疼くでしょうに。主に未来の僕が。


「えー。俺一回着たい」

「エルは学校に行かぬだろうに。しかし、お前も友だからな。一度着てみるといい」

「やったー!」

「小姉様、ローブ買いに行きましょうよ。何処に売ってるんです?」

「そうねぇ……。あっ。ついでに、他の入用な物を買いたいから、いい機会だし異世界に行こっかな」


 異世界。

 急に異世界って。


「荷物持ち三人いるし、丁度いいわ」

「はぁ」

「え!? 俺たちも行くの!?」

「余もか?」

「アンタ達、明日休みだからうちに屯ってんでしょ!? 場所代、きっちり体で払いなさいよ!」


 いや、僕の部屋ですし。


「姉様と妹にもいるもの聞いてくるから、ちょっと待ってて。ローブ分はだすけど、ほかの欲しいものがあるなら小遣いで買いなさいよ」

「はーい」

「じゃ、少し待ってて」


 小姉様が部屋から出ると僕たち三人は顔を見合わせる


「異世界って、どこの世界に行くんでしょうか?」

「貿易世界の魔法使いの街じゃね?」

「あそこなら、港の方が揃ってるだろに」

「何売ってるんですか?」

「色々。お菓子とかあるよ。今日夜に皆んなで食べるお菓子買わね? 俺、あんま持ってないけど、三人で持ち合わせれば何か買えるだろ」

「僕、銀貨五枚しかないですけど、大丈夫です?」

「大丈夫、大丈夫。そんだけあれば籠盛りのお菓子が買えるって」

「余は……金貨しない」

「おー、魔王だわ」

「魔王が銅貨持ってる方が想像し難いですもんね」

「じゃ、マー君が買って俺達が後で金払うのがいいな」

「そうですね」

「他にも買いたいものがあれば余に言えば買ってやるぞ?」

「ダメですよ、マー君。それは友達にしてもらう事ではないですから」

「俺も。俺たち友達なんだし、割り勘が一番いいって。な?」

「そう言うものなのか?」

「ええ。そう言うものなのですよ」


 僕たちが顔を合わせあれでもないこれでもないと話していると、バタバタと足音が聞こえた後に、勢い良く扉が開く。


「酒とか、部品とか色々聞いてきたから、行くわよ」

「何処の世界行くんです?」

「そうね。貿易の港に行こうと思うんだけど、アンタ達はそれでいい?」

「魔法使いの街じゃないの?」

「あそこは偏ってるし、酒が微妙」

「ほら、余が言った通りだろ?」

「マー君の勝ちかー」

「わかってると思うけど、エル以外は種族バレ厳禁よ。特にマーはツノも必ず隠して」

「魔王いると困るんですか?」

「魔女もね。貿易世界の大半は反魔の種族で成り立っているからね。魔法使いは別だけど」

「反魔?」

「魔族や魔女、ひどい差別が蔓延るとオークとかも対象になるわね」


 成る程、魔王軍に入ってそうなところか。


「アンタ達、絶対目立つ事しないでよ。したら……」


 小姉様が僕たち三人を睨んで笑う。


「黒焦げにしてやるからっ」

「はーい」


 そんな事するわけない。

 小姉様じゃないんだから。この時は、そう思っていた。

 だが……。




「アイツら、何処行きやがった!?」

「ガキを連れて逃げたぞっ!」

「顔を見られたっ! 殺せ!」


 路地裏の木箱にひっそりと隠れて、僕たち四人は息を潜める。


「お兄ち……」

「シィ。まだ、貴女は喋らない方がいいですよ」

「しかし、数が多い。どうする?」

「余が魔法で……」

「マー君の魔法ではここら一体黒焦げですよ。取り敢えず、見つからない様に奥まで行きましょう」


 小さな手が僕の服を掴む。

 可哀想なほど、震えている小さい指が。


「大丈夫。お兄ちゃん達が貴女を守りますから」


 僕はそっと小さな手に、自分の手を重ねた。

 まったく、こんな厄介事になるんて、聞いてないですよ。




 次回更新は28日20時予定です。お楽しみに!

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