第21話 美しき友情劇

「あらあら、お帰りなさい」

「末妹様、お帰りなさーい」

「お帰り! 末妹、悪いけど早く手を洗ってこっち手伝ってくれる?」


 露店から帰って来ると、家の中で姉達がドタバタと大忙しに駆け回っている。

 いや、一人だけ違うか。


「お客人ですか? 僕、外出ていた方が良いのでは?」


 あまり広くはないうちのテーブルを老若男女合わせて十二人が肩を受ける様に座り、何か書き物をしているではないか。

 普段は美人三姉妹プラス超美人妹の四人暮らしをしている場所では、明らかに人数オーバーだ。


「あ、うんん。お客さんじゃないから安心して」

「あ、はい」


 何故かその客人を監視する様に椅子に座る末姉様が笑うが、そういえばあの人、コミュ障だった様な? 末姉様の関係者か?


「手、洗いました」

「末妹はこっち」

「あ、はい。小姉様、何があったんです?」

「あー。アンタの頑張りで、通ったのよ」

「何がです?」


 通った?


「うちの店の現金取引が」

「えっ!?」


 今何と!?


「あれから凄く考えたんだけどね、何度も何度もお金の大切さやこれからの事を真剣に考えている末の妹ちゃんの熱意に負けてね、決めたのよ」


 驚いていると、大姉様が後ろから僕の肩を押す。


「末妹、おめでとう。良くやったわ」

「ええ、末の妹ちゃんの完全勝利よ。お姉ちゃん、負けちゃったな」

「……いや、嬉しいんですけど、この騒ぎは?」


 小姉様に連れて行かれた部屋では、良くわからない白い生物が多数縦横無尽に駆け回っているではないか。


「は? 見てわからない? 現金化になったことにより、各関係者にお知らせをしなきゃいけなくなった訳」

「ああ、お知らせを作ってるって事ですか?」

「お知らせの製造工程はあっちのダイニングテーブル。姉様は紙を今作ってるわ。こっちの私達は発送よ」

「アンタの仕事は、ある程度の魔法は使える様に意外となって来たから、私が行き先の魔法を込めてた飛び回ってる封筒に風魔法を込めて」

「封筒!? これ、封筒!?」

「飛び回ってるやつは宛先が既に入ってるから」

「はあ、分かりました。これなら、エルさんも呼んでおくんだった」

「いい案ね。採用してあげる」


 そう言うと、小姉様はパッと消えて、パッと戻ってくる。

 いや、もっと仰々しい言い方はいくらでもあるとは思う。しかし、今回ほどその表現が的確なものはないと思うんだ。


「え?」


 それに、何故か上半身裸のエルさんを小脇に抱えている。

 あ、これ、誘拐だな。


「何? これ……」

「お久しぶりですね、エルさん」

「二時間ぐらい前に会ったばかりですけど!?」

「煩いエルフね。バイトよ、バイト。夕飯出すから、バイトして行きなさい。全部終わったら帰してあげるから」


 小姉様、それは悪い奴のセリフじゃないか。


「えー。マジでこれどう言う事? 部屋着に着替えてたら行成ここに居たんですけど……」

「まあ、色々ありまして。取り敢えず、こいつらに風魔法を付与しながらお話ししますね。エルさんはそっちからお願いします」

「エルフ使い荒過ぎない?」

「妹使いも荒いので、それこは何とも」


 取り敢えず、僕達は仕事をこなしながら今の経緯を話して行く。


「成る程なー。まずは、おめでとう。スー君、頑張ってたもんな」

「有難う御座います。でも、こんな形で巻き込んで申し訳ないですね」

「いや、いいよ。金貨で買える様になると思えば安いもんだし。それに、何だかんだで小姉様には魔法教えてもらったり、ご飯たまに誘ってくれたりでお世話になってるし。これぐらいは手伝うよ。ただ、少し説明と言うものは欲しかったけど」

「うちの姉、稲妻属性なので」

「それじゃ、仕方が無いな」


 クスクスと笑いながら、僕達は風魔法を込める。




 それから、約三時間後。


「皆、お疲れ様ー! 全部終わったわー」


 わーと、みんなの歓声が上がっていく。


「随分と疲れたでしょう。今、ご飯の用意するから、少し待っててね。パンは焼くだけだから、本当に少しだけよ」

「はー。三時間ぶっ続けで魔法使うの、滅茶苦茶疲れるな」

「ええ。もう正直、肩上がらないですよ」

「二人とも、私の練習の成果が出ていて良かったわよ。これからはもう少しハードな練習でも良さそうね」

「今その話は聞きたくなかった……」

「明日を想像したく無い……」

「三時間ぐらいの耐久レースでもへばらなくしてあげるって言うんだから、喜びなさいよ」

「あのー……」


 僕達が話していると、扉から末姉様の控えめな声が聞こえてくる。


「お、お茶、あの、あ、お、あの、お茶……」


 いつも声のボリューム狂ってるのか? と思う程の元気の良さを見える末姉様が!?


「お茶だって。末妹、受け取ってあげたら?」

「あ、はい。末姉様、有難う御座います。でも、どうしたんですか?」


 こんなに大人しいなんて。


「え、あ、う、うん、あ、い、うんん……」

「エルフが知らない人だからじゃない?」

「あ、成る程」

「いや、何回か会ったことあるのに!? スー君よりも昔から知ってるのに!?」

「か、あ、の、う、え、えっと」


 何か必死で言おうとしてる末姉様の手を僕は握る。


「……末妹様?」

「末姉様、紹介しますね。僕の親友の、エルさんです。彼はとても優しくて、気さくで、親切で、頑張り屋さんで。僕の自慢の友達なんですよ」

「……とも、だち」

「ええ。大姉様とも小姉様とも仲良しですよ」

「いや、それ程私は仲良く無いけど?」

「バイト無理矢理させといて!?」

「お世話になってるって言った口は誰の口よ?」

「だから、きっと末姉様とも仲良くなれると思いますよ」

「……う、うんっ!」


 末姉様は少し臆病だけど、末姉様自身がそれを変えたいと思っているならば妹である僕は少しでも手伝いをしたいと思う。

 末姉様は僕の手を解くと、エルさんの肩を叩く。


「え、エルさんっ! 私とも、友達になって!」


 末姉様の素敵な一歩に、エルさんは少し驚くといつもの様な笑顔で末姉様に笑いかけた。


「勿論っ」


 まったく。世話のかかる姉ですよ。


「あの」

「あ、はい」


 声を掛けられて振り向けば、テーブルに座っていた十三人の老若男女が立っていた。何で一人増えているんだ?


「私達、そろそろお暇させて頂きますね」

「あ、はい。でも、そろそろ食事も……」

「我々も仕事がありまして、そろそろ城に戻らねばならないのです」


 城?


「あ、皆。今日は有難う! 凄く助かったよ!」

「末妹様」

「いえいえ。お力になれたのならば幸いです。では、失礼致しますね」

「うん。また今度お礼するからね。気をつけて帰ってね! バイバーイ」


 末姉様に一礼すると、一人一人が魔法陣を出しその中に入っていく。


「あの、末姉様。彼は?」

「あの子達は、私の友達だよ」

「友達? 末姉様が友達と言うと、召喚されたと言うことですか? 魔獣ではなく、人の様に見えたのですが……」

「うん。皆魔王だらね。文字を書く為に人になれる子呼んだの。私、文字書けないから、手伝えないし、これぐらいは、ね?」


 ……。


「エルさん! ゲームやろ!」

「お茶ぐらい飲ませて下さいよ」

「友達になったから今!」


 エルさんに対しての友達って……。


「末妹。深く考えたら闇よ」


 小姉様が僕の肩を叩く。

 闇が、深過ぎるな。これ。



次回更新は12/22の15時更新となります。お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る