第18話 魔法★レッスン

「火のイメージが弱いっ! エルフは特に何力んでんのっ!? アンタの村燃やすレベルの火出しなさいよ!」

「な、何で俺まで……っ」

「文句言うなっ! エルフの癖に高みの見物決め込もうと思った事に後悔しなさいっ! これ以上醜態晒すようなら、アンタの髪の毛稲妻で燃やすわよ!」

「あの! 小姉様っ! 僕はっ!?」


 小姉様が勢いよく振り向いて大声をあげる。


「お前は、論外っ!!」

「心外っ!!」





「はい、休憩ね」

「ふぇ……。何で、俺も……」

「何で、僕だけ……っ」


 何処がダメなんだっ!

 どうして、エルさんは良くて僕が……っ!


「いや、スー君は俺から見てもダメだったよ」

「何で!?」


 まさかの親友からの裏切りっ!?


「いや、だって、何も出てなかったじゃん」

「エネルギーが、エネルギーが出てたでしょ!? 微熱程度のっ!」

「微熱エネルギーって……」

「そんなもん出す前に火を出せって言ってんのっ!」


 突如現れた小姉様が僕の鼻を引っ張りあげる。


「痛っ!」

「アンタね、その元気を掌に集めて燃やせば一発で出るでしょ!?」

「集めて燃やしてますよっ」

「まあまあ、小魔女様。スー君は魔法初めてなんですから、いきなりは……」

「何? エルフの癖に私に口答え?」

「え、いや」

「エルフも魔女に意見できるとは偉くなったものね。魔法一つに満足に使える教育すら受けられないのに」

「ち、小姉様っ!」


 流石に、魔女としても言い過ぎては?

 エルさんだって望んでその環境に身を置いている訳ではないと言うのにっ!


「末妹、アンタは黙って見てなさい。このエルフには体に教え込ませないと行けないみたいだから」

「そ、そんなっ!」

「いいっ! 良く見ておくのっ! これが、火の魔法の集中点っ!」


 そう言って、いつの間にか持っていたマイネームペンで小姉様はエルさんの手のひらに三つほど点を付ける。

 まい、ネーム、ぺん……?

 僕でさえ久々に見た代物じゃないかっ!


「アンタは魔法の基礎習える環境じゃないなら、今ここでしっかりと基礎を死ぬ気で覚えなさいよっ! こんな機会二度と来ないわよ!? ただでさえ、魔女渡りは不安定な中で仕事すんだから、自分の生存確率あげる術は死ぬ気で覚えなきゃダメでしょ!? 私に口答えする暇があれば、ドラゴン一匹ぶっ潰す力をつけろっ!」

「え、え〜……」

「火の魔法舐めんじゃないわよ? 火を覚えれば、炎。炎を覚えれば業火になる。固体気体を発火させ、誰にも止められない業火にする。火、一つで死なない程度の自衛が出来るなら、出来ることに越した事がないわ」

「……あ、ありがとう、ございます……?」

「最期疑問系にしてんじゃないわよ! エルフの癖にっ!」

「す、すいませんっ! 有難う御座いますっ!」

「アンタは、結構筋いいんだから素直に努めなさい」

「……はいっ!」

「なんだ今の間。本当に髪の毛燃やすわよ? そして、末妹」

「はいっ!」

「アンタは手出さなくて良いから。次はアンタの番でも何でもないから」


 何故!?


「ひ、贔屓がこんな所で……っ!? 僕の方がエルさんよりも顔がいいと言うのにっ!?」

「贔屓でもなければ、顔関係ないでしょ。アンタは点を付ける以前の問題なの」


 そう言って、健気に出された僕の可愛らしいお手てを全力で小姉様がはたきおとす。


「ゆくゆくは、世界遺産になる手なのに……?」

「ならねぇーよ。烏滸がましいわ。アンタは、こっち」


 呆れながら、小姉様が僕に林檎を渡して来た。


「……贔屓ですか?」

「お前も髪の毛燃やすぞ?」


 僕が可愛いから差し入れの林檎じゃないのか?

 ならば何の為に、林檎を?

 

「何っすか? それ」

「エデンの林檎」


 エルさんの質問に、小姉様が口を開く。

 エデンの林檎?


「聖書……?」


 そう言えば、アダムとイブの禁断の果実はエデンに実っていた林檎だったな。


「何それ?」

「知らないですか? あ、そうか。世界が違うと宗教の概念も違っても可笑しくないですね」

「そうね。でも、これがアンタの知ってるエデンの林檎かは、これから分かるわ」


 小姉様は自分から発生する雷で、辺りの芝生を所々に焼いていく。


「火の魔法って、魔法の中でも一番基礎の基礎の魔法なの。少し前まで魔法がない世界に魔法が使えない人間として生きてたアンタが、どれだけ魔法の適性があるかを見るには丁度いい課題なのよ」

「僕には?」

「これだけやって出ないなら、ない方ね。妹と同じだわ」

「末姉様と?」

「あの子も、アンタと同じよ。あの子の花、どんな花か知ってる?」


 不規則に動く雷が、ピタリと止んだ。


「いえ、知らないです」

「そう。あの子はね、召喚魔法陣の花が身体中に咲いてるの。魔法の源そのものではなく、召喚魔法陣と言う複雑なものが、あの子自身なのよ」

「そんな事、あり得るんですか!?」


 僕が驚く間も無く、エルさんが声を張り上げた。


「あり得る。魔女なら、姉様の魔女の種なら。魔女に道理なんて通らない。通るのは、魔女の規律のみ」


 小姉様はため息を吐くと、僕の手を引っ張りとある場所まで誘導する。


「アンタも、恐らく妹と似た様な花が身体中に咲いてる。私や姉様と違って、道理から外れた花が」


 僕の、花?


「そこのエルフ、末妹の肩を抑えてて。いい? 何があってもそこを動くんじゃないわよ。動いた箇所から吹っ飛ぶからね、二人ともども」

「俺も!?」

「無茶な!」

「今、私の雷が描いた魔法陣は、アンタの本質を暴くものよ。私達の本質は魔女の種とイコールになる。いいわね、気合入れなさいよっ!」


 小姉様が両手を合わせると、黒い稲妻が僕たちの周りに降り注ぐ。


「もう、マジでスー君動くなよ!?」

「死ぬ気で押さえつけて下さいねっ!? 多分、これ動きますよっ!」


 体の内側から、引っ張り出される感触が身体中を駆け巡ってくる。


「さあ、見せなさいっ! 末妹っ! アンタの本質って奴を!」


次回更新は12/19の10時更新となります。お楽しみに!

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