第17話 稲妻の姉

「で、この店番の後、スー君人生初の魔法の練習ってわけだ」

「ええ。そうなりますが……、エルさん。荷物詰め終わってるのに何で帰らないんですか?」

「面白そうだから見て帰ろうと思って! あと、茶も飲みに来た!」

「はいはい。出しますから」


 僕は溜息ついでに席を立つ。


「それにしても、魔法の練習相手小姉様なんて、厳しそうだな。大姉様に教えて貰えばいいのに。あの人、優しいだろ?」


 いつの間にか、二人だけの時はエルさんも姉様達を姉様呼びする様になってしまった。

 ふむ。親友っぽいな。これは。


「僕にはちょうど良いですよ。初心者なので、厳しく確実に教えて頂かなければ」

「そんなもんなの?」

「ええ。そう言えば、エルさんも魔法使えるんですっけ?」

「腐ってもエルフだからな。例えば……」


 エルさんは僕から受け取ったカップを手に持つと、掌が優しく光出す。


「光魔法っ!?」

「いや、普通に光魔法でも何でも無い」

「あ、そうなんですか?」

「どちらかと言うと、炎魔法。ほら、ちょっとこのコップ持ってみ?」

「あ、暖かい」


 冷たいお茶が、暖かいお茶に変わっている。


「詠唱も魔法陣もないのに魔法使えるんですか?」

「簡単なものはな。例えば、この茶を沸騰するまで温めるとなると、詠唱が必要になる。けど、これぐらいなら俺自身を媒体として温度が上げれるんだ。エルフ自体が、微量の魔法で出来てるから。だから、エルフは生まれた瞬間からこの程度の魔法が使える」

「魔法使いも?」

「魔法使いは違うよ。魔法使いは、魔力が本質で

魔法では出来てない。魔力と魔法はそもそも違う物なんだ。その代わり、魔力がある分どんな魔法も使える感じ」

「成る程……」


 パソコンとディスプレイの様なものか?

 エルフはパソコンで生まれた時から魔法の回路がある。逆に魔法使いは魔法の回路はないが、借りることによって様々な魔法を映し出せる。

 この違いがあるのか。


「世界全部で見れば魔法で出来てる種族の方が、多いかもな。魔法使いは、どちらかと言うと人間より」

「エルフは?」

「んー。魔族に近いんじゃね? そこら辺は、俺も詳しくない。俺、学校とか行ってないし」

「学校? エルフに学校があるんです?」

「あるよ。っつても、学校行けるエルフと行けないエルフだと割合的に六三って感じで皆んなが行けるわけじゃねぇけど」

「一足りないですよ?」

「残りの一は、俺みたいな行ける行けないって選択肢すらない奴等。例え、学校に入れるだけの金とか持ってても、入らせてもらえねぇの。エルフは恐ろしく排他的で成り立ってるからな」

「矢張り滅ぼすべきでは……?」

「いや、滅さんでくれよ。俺達には俺達の生活があるけら、スー君が気にすんな」


 そんな生活、捨てて仕舞えば良いのに。

 エルさんなら、大姉様の新しい妹として迎えてくれると思うし、何なら僕が口添えしてもいい。

 けど、恐らく、彼はそれを選ばないんだろう。

 あの世界から、死という逃避をした僕と、何が違うというのか。


「僕も一度、他の世界とやらを見てみたいです」

「お? エルフの世界に来るか? 村には入れないけど、森なら案内してやるぜ? ただ、今は無理だな」

「何かあるんですか?」

「今、エルフの世界には成人の儀で森とかにもエルフで溢れてるから、人間……じゃないな。魔女なんて来たら大騒ぎになんだよ」

「成人の儀? 成人式です?」


 僕の国にもあったな。


「成人式……。ま、そんな感じ。終わったらうちの世界案内してやっから! でも、その前にスー君は魔法だよな」

「魔法、矢張りいるんです?」

「いる。扉潜りって魔法がないと他の世界には行けないんだ。俺は先祖代々受け継がれてる道具があるから行けるけど、一人様だしな」

「何でも魔法なんですね」

「そうでもない。オーク達なんて魔法も魔力も余りないから機械に依存してるしな」

「オーク? そういえば、オークがいるんですっけ? 不思議だなぁ。僕たちの世界でもオークの概念がありましたよ」

「逆に何で人間しかいない世界の奴がオーク知ってるのか俺には疑問なんだけど」

「確かに。名称も一緒ですし、どうしてでしょう?」

「エルフは、まあ、何となくわかるけど」

「何故?」

「エルフって、エルフの世界以外にもいるんだよ。エルフの世界に馴染めなかった奴は、外に出るんだ。多分、人間の世界にもいるんだと思う。人間のふりして、生きてるんだろうな」

「そんなこと出来るんです?」

「エルフは弱いから、多種族に化ける術を持ってるんだ。俺は出来ないけど、学校出てる奴は大抵出来るよ」

「へぇ……。変わった種族なんですね」


 そんな特技がエルフにあるのか。


「それは人間も一緒でしょ?」

「っ!?」

「な、何だ!?」


 一筋の稲妻が落ちる。

 それは段々と人の形を作っていき、金髪のツインテールを靡かせた小姉様がそこに立っていた。


「貴女は……」

「驚いた? 末妹。これが私の……」

「ブラックファイヤーサンダーっ!」


 あ、エルさんが汚物を見る様な目で僕を見てる。

 とても心外。僕がつけたわけじゃないのに。


「そ、その名前で呼ぶなよっ!」


 あのブラックファイヤーサンダーこと、小姉様が真っ赤になりながら肩を震わせている所を見ると、矢張り……。

 炎と雷はないな。

 登場かっこよかったけど。

 それは、ない。

 絶対にだ!


次回更新は12/17の22時更新となります。お楽しみに!

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