第15話 古の魔女の禁断文字

「魔女文字は難しいわよ。魔女文字を使いこなすだけで、随分と骨が折れる作業だと思うけど? あの資料を魔女文字で書くとなると、不可能に近いかもしれないわ」

「勉強なら得意ですので」

「勉強で何とかなるといいわね。魔女文字は、センスが必要よ」


 センス? 成る程、魔法のセンスって事か。

 文字と言うぐらいだし、他者に向けて開発されたのは間違いないと思うが、魔女と言う生き物の特徴を踏まえれば一癖二癖ある文字なのだろう。


「未だに私も完璧には使いこなせないけれど、読める事は出来るから」

「大変助かります。僕は何も知りませんので」

「魔女文字は全世界の中でも最古の古代文字だと思ってくれればいい。末妹は、何処までこの世界について知ってる?」

「何も知らないです」

「魔法はまだ姉様から習ってない?」

「はい」

「そう。そりゃ、知らなくても無理もないか」


 一時期は僕の排除に躍起になっていた小姉様は、思ったよりも理性的且知的である。

 僕の無知を責めたることもなければ、順序を把握して方法を模索する。

 実に理にかなった魔女だっだ。


「何で姉様は末妹に魔法を教えてないの?」

「まずはここの生活に慣れろと言われました」

「……最初からなかり馴染んでたのに?」

「ええ。最初から覚悟とある程度の予想はしていのでスムーズに皆様の家族に紛れ込める様、努力に努めましたから」

「紛れ込むとか言うなよ。溶け込むだろ」


 知的だ……。


「魔女文字と一緒に、ある程度魔法も覚えないと」

「矢張り、魔女文字は魔法と何か関係でも?」

「ないと言えば、ないけど、あると言えばある。魔法と一口に言っても、様々なものがある。例えば、私は稲妻になれるが、私がなろうと思えばなれるし、なろうと思わなかったらならない。指を動かすのに、呪文なんて態々何も言わないだろ? これを同体魔法と言う。何も必要としないのは魔法の源が私の中にあるからだ。逆に私の中にない炎とかは召喚魔法を施さなければならない。召喚魔法は呪文を唱えたり、魔法陣を描いたりするのが一般的。まずは自分に合う魔法を探すことからね」

「僕にあった魔法……」

「私達は姉様から魔女の種を分け合えられている。それは、私達の体の至る所に根を張り巡らせ、私達に一番適した花を芽吹かせる。私は、稲妻。アンタも、そろそろ根が身体中に芽吹いて花が咲いてる頃合いだわ」

「それは……」


 もしかしなくても。


「薔薇の花ですね。間違いなく」


 僕に一番相応しいし。


「張り倒すわよ?」

「何故!?」


 絶対に似合うじゃないですか!


「魔法の花は普通の花とは違うの。それが、魔法の源になるよ。アンタは恐らく……」

「僕は恐らく?」


 炎とか?

 矢張り、炎が一番いいですよね。拷問とかにも何かと使えそうですし。


「馬鹿の花な気がする」


 馬鹿!?


「どんな花ですか!?」

「いや、まったく予想付かないし。因みに、妹も馬鹿の花が咲いてるとずっと思ってたわ。私」

「小姉様、僕達に何か恨みでも?」

「いや、馬鹿な事しか言わないし」

「末姉様は置いておいて、僕は頭いい発言しかしていないと思うんですけど?」


 本当に心外だ。


「そう言うところだよ。ま、どんな花かは私では分からないけど、ある程度の基礎魔法は一通り出来た方がいいわね。どうせ、姉様と妹では教えられないと思うから、これから私が少しずつ魔法の練習に付き合ってあげるわ。でも、先に魔女文字よね」


 そもそも、今回の目的はそちらだ。

 しかし、これからやっと魔法が覚えられると言うのならば吝かではない。


「ええ。お願いします」

「魔法の練習は、明日からね。何かと準備もいるし。今は魔女文字よ。魔女文字は、魔女達が他の魔女に情報を伝える時に用意た文字」

「情報とは、魔法の手順とかですか?」

「いいえ。それよりも、もっと直接的」


 直接的?


「魔法自体が練り込まれている……?」


 直接的と言うのならば、魔法がその文面に練り込まれている文字なのだろうか?


「ならば、矢張り魔法陣とかに近い形態ですかね」

「魔法陣、か。着目点は悪くないわね」

「矢張り」


 魔女文字の解読は、魔法陣の解読に繋がる。

 そう言う事か。


「まずは、見たほうが早いわ」


 そう言って、姉様は一冊の本を本棚から取り出して僕に渡した。


「これが魔女文字の資料になる本よ。魔法使いに伝わる、古の魔女の本」

「魔法使いの、一族に?」

「ええ。大変貴重な本よ。読んでみなさい?」


 僕が、この本を?

 読めるのか?

 僕が読めるのか?

 まだ、魔女とは言えない僕の実力で。


「怖い?」

「……少し」


 魔女の文字。魔法が練り込まれているならば、最早何が起こるかはわからない。

 僕の様子に、小姉様はニヤリと笑う。


「大丈夫よ。今のアンタには、何一つ分からないから」

「……随分と馬鹿にしますね。いいでしょう。僕が、絶対に読んでみせますよっ」


 僕は意を決して、本を開いた。

 そこには……。


『♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪

Σ(゚д゚lll)』


 書かれている正規用途無視の記号文字。

 こ、これは……っ!


「古いタイプの顔文字だ!!」


 古代の顔文字だ! おじさんとか使ってる顔文字だ!!


「ふふふ。貴方にそれが読めて?」

「よ、読めないけど、言いたい事は何となく、つ、伝わるっ!」

「そう。魔女文字は文字と言う文化がない分、何となく伝わる記号とかを掛け合わせて感情を何となく伝える文字の事を言うのよ!」

「何となく過ぎでしょ!? 古代にシグマとかないでしょ!? 人間の世界より魔女の世界の方が古いでしょ!?」

「世界の謎の一つね」

「謎でも何でもないですよね!?」


 悪ふざけすぎるでしょ!?


「これでプレゼン資料書いて何が伝わるんですか!」

「感情?」

「いります!?」

「まあ、説明文字なら全世界共通語使えばいいんじゃない? 姉様もエルフとかの逆にはその文字で言付けとか渡してるし」

「最初からそっち教えてくださいよ」

「……あ」


 小姉様も、馬鹿の花が咲いてるな。これは。


次回更新は12/15の13時更新となります。お楽しみに!

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