第14話 妹会議

「うーん。薬草でお金を貰うのは、少し抵抗があるのよねぇ……。うちに来る子って、みんな良い子だけど、環境に恵まれてないし、お金は何かとトラブルになるって言うし」

「しかし、僕達が資金を手に入れるのはその方法しかないのでは?」

「でも、悪いじゃない。そんなに手間も何もない薬草よ?」

「他の魔女はそれで対価を得てますよ! 大姉様!」

「私は毎日のスープの具材を作るついでにやってる事だし……」

「姉様、それでも手間と時間は掛かっていると私も思うわ。対価を貰うことは相手にとっても大切よ」

「うーん……」


 妹三人ががりで大姉様にプレゼンからの感情論を持ち出してみるが……。


「ごめんなさい。少しだけ、考えさせてくれる? 持ち帰って検討させて頂くわ」


 そう言って、大姉様は部屋を出た。

 持ち帰って検討……?


「いや、ここ家なのに!?」

「持ち帰るのもここなのに!?」

「断り方も大雑把過ぎですよ!」


 大姉様が部屋を出て行った後、僕を含む妹三人は頭を抱えていたのだ。


「駄目かぁ。上手くと思ったのになぁ」

「まだ十分想定の範囲内でしょ? 人のいい姉様に直球で金銭の話をするんだから。末妹の方はどうなの?」

「……た」

「へ? 何?」

「末妹様?」

「プ、プレゼン資料を一度も一読してもらえなかった!!」


 一週間もかけて作ったのに!?


「そこかよ」

「末妹様、頑張って作ってたもんね〜」

「僕の一週間の労働がっ! 努力がっ! 何が足りなかったんですか!?」

「何って……。あの文字私たち読めないから知らないわよ」


 え?


「小姉様〜。次の作戦どうします?」

「そうねぇ……。もう少し緩和案を出すとか?」

「あ、あのっ!」


 そうだ。

 そうだった。


「この世界の文字を教えてくれませんか!?」


 僕の世界とこの世界は、違うんだった!


「は?」

「言葉が通じる事ですっかり忘れていたんですが、僕は文化圏が違う人間ですから」

「まあ、そうね。あんたこの間きたばっかりじゃん」

「文字も、同じで通じると思っていたんですよ。出ないと、おかしくないですか!? 文法とかも一緒でしょ!?」

「いや、そんな事言われても」

「でも、私、大姉様が使う文字知らないよ?」

「え?」

「私達も、アンタと一緒でここの生まれじゃないからね」


 魔女と言うものは実に不思議な生き物だ。

 そして、不確定な、生き物だ。


「私は自分の世界の文字も書けないけどね!」

「それは、それで……」

「アンタはね。でも、まあ、私は魔女文字を知らないわけじゃないけど」

「小姉様が?」

「昔、少し習ってたから」

「魔女文字、学校でやったけ? あれ、あ。そっか。小姉様、魔法使いだったもんね」

「魔法使い?」


 ゲームのジョブか?


「そう。昔取った杵柄」

「小姉様は魔女じゃなくて魔法使いなんですか?」

「ああ、人間は魔法使える人を魔法使いと呼ぶ習性があったんだっけ?」


 虫みたいな扱いをされてしまった。

 しかし、不本意ながら、確かにその習性はある。


「ええ。まあ、そうですね」

「魔法使いって、種族があるの。私はその種族の出身。姉様と妹の契約を感じて魔女になったわけ」

「血は繋がってないんですか?」

「誰一人も血なんて繋がってないし、住んでた世界も違うわよ。私達を繋げるのは、姉様が私達に与えた魔女の種だけ」

「魔女の種?」

「アンタも飲んだでしょ? 姉様の種」

「そういえば、そんな事もありましたね」

「き、キッスしたのに!?」

「何で小さいツ付けるんですか? 普通に言えば良くないです?」

「ふ、普通に言ったら無条件でうっかり発生しちゃうかもしれないでしょ!?」

「末妹様、これが魔法使いジョークだから。深く突っ込んじゃ駄目」

「……呪文的な?」


 名前を言ってはいけないあの人的な?


「それにしても、あれが魔女の種なんですね。何の説明もなかったもので知りませんでした」

「私の時もなかったよー」

「いや、聞けよ。そこは」

「飲んでしまった後だと、急激に興味って無くならないですか?」

「わかるー。私もー」

「いや、普通なるわよ」


 はぁと短い溜息を突いて、小姉様は席を立つ。


「あれ? 作戦会議は?」

「魔女文字、知りたいんでしょ? 教えるから、私の部屋に来なさいよ」

「部屋ですか?」

「本もあるし、ここよりそっちの方が早いでしょ? 早くしなさい」


 どうやら、教える事については決定事項らしい。


「あ、妹は立ち入り禁止よ。アンタ、私の部屋でお菓子食べるから禁止」

「えー! まだ根に持ってるんですかぁ? 五百年ぐらい前の話でしょー!?」

「六百九年前よ。アンタ大雑把だし、駄目」

「大姉様もじゃないですかー!」

「姉様は、いいのっ! 大雑把の質が違うんだから!」


 大雑把なのは認めるんだ。


「ほら、行くわよ」

「あ、はい。末姉様、悪いですが洗い物お願いします」

「えー! ……はぁ。末妹様の頼みなら仕方がないなぁ」

「末姉様の今日のおやつは多めにしておきますので」

「本当? やったー!」


 末姉様は本当に扱いやすくてとても好感が持てるな。


「……まったく。姉としての威厳のない妹だ事」

「可愛らしいじゃないですか」

「お前の可愛らしいは、小動物に対しての可愛らしいと同語にしか聞こえないよ」

「え? それ以外に可愛らしいさってありますか?」


 ハムスターも子犬も子猫の可愛らしさ以外に可愛らしいものってこの世に存在するとでも?


「本気かお前」

「……あ。すみません」


 そうか。何で小姉様がこんな怪訝な顔をしているかわかったぞ?


「僕と言う存在を忘れていましたね」


 ハムスター?

 子犬?

 子猫?

 僕の可愛らしさに比べたら下位互換もいい所だ。


「……アンタ、その面倒臭いの無かったら滅茶苦茶顔だけは可愛いし美人だと思うけど、トータル的にマイナスだよね」

「それは……」

「マイナスにどれだけプラスを掛けてもマイナスになるんだよね。知ってた?」

「小姉様……」


 この人は……。


「何よ」

「算数、出来るんですね」

「そう言う所だよっ!」


次回更新は12/14の13時更新となります。お楽しみに!

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