第9話 末妹の友達事情と金事情

「それはさ、収入がないってことじゃないか?」


 エルさんが薬草を瓶に詰めながら呆れた顔をする。

 終焉の魔女の妹になって早、一週間。

 今日の手伝いは露天の店番である。


「え?」


 なん、だとっ!?


「いや、だって……、スーさんはこの店で金もらってる所見た事あるか?」

「な、ないです……」

「ほらー! 大魔女様、金取らないもんっ!」


 そう言えば、うちに来る客と言えば、卵やら肉やら魚ぐらいしか持ってこないじゃないかっ!


「ほ、本当じゃないですかっ!」

「初回の何も知らない客が金貨置いてくぐらいじゃないか?」

「初見くるんですか!? ここ!」

「いや、俺は見た事ないけど……」


 なんてこった!


「そ、そうですよ……! そもそも、この島には現金が無いんですよ……っ!」

「大魔女様、大雑把だからなぁ」

「大雑把で一括りできるものではないのでは!?」

「あ、まあ、そうなんだけど……。俺も、金貨の方が随分と助かるし、金貨にしてくれねぇかなぁ」

「金貨、助かるんです?」


 買い手が?

 支払いは安い方が嬉しい物じゃないのか?


「少なくとも、俺はね? 俺さ、魔女渡りじゃん? 他の世界では魔女持ちって言葉の方が主流なんだけど、魔女渡りって、用は魔女への生贄なんだよ」

「い、生贄!? こんな現代にっ!?」

「いや、現代は現代だけど、世界観違うし。まあ、多分スーさんが想像してる生贄と俺が言ってる生贄は違うんだよ」

「違うといいますと?」


 んーと、エルさんは空を見上げた。


「魔女って、みんな怖いんだよ。すげぇ、強いし、大魔女様達なんてやろうと思えば世界を終焉に導く力がある。他の魔女だって、すげぇ力を持ってる。俺たちエルフはそんな力なんてないし、魔女がすげぇ怖いの。でも、俺達だけで世界の維持は出来ない。現に、俺は自分達で作れない薬はここで貰う事しか出来ないしさ」

「怖い、ですか」

「そう。しかも、魔女って小魔女様みたいな難しい人も多いしさ。誰も近寄りたくないんだよ。機嫌を損ねれば、それこそエルフの世界は終わりに近づくわけ。そこで、クソみたいなエルフや人間達は考えた。個人で勝手に取引してれば、全てそいつの責任で自分たちには関係ないって」

「そんなわけが……」

「あるんだよ。魔女ってそう言う取引好きなんだ。だから、魔女渡りって一族からの爪弾き者や俺達みたいに迫害されてる一族がなるもんなの」

「迫害?」

「そう。気も遠くなる祖先が、禁忌を犯したなんやらな。理由なんてもうどうでもいいけど、村にも住まわせてもらえない嫌われ者。石だって平気で投げつけられるんだぜ?」

「そんな……」


 なんて、残酷な……。


「まあ、俺は慣れてるけどさ」

「滅ぼしましょう!」

「……アンタ、本当に根っからの魔女だな……。まあ、落ち着け。俺達は金貨の話をしてるから、滅ぼすとかは置いといて」

「滅ぼしましょうよ!? そんな世界あった所で邪魔じゃないですか!」

「いや、マジで置いといて? 話戻すぞ? で、俺達は金貨とか余り持てないのよ。そもそもエルフの世界が金貨とか流通する場所じゃないし。でも、魔女渡りで必要な金貨がある」

「まあ、それは、そうでしょうね」


 他の家はお掃除ロボットがあるわけですし。


「そうすると、仕方がないから金貨が貰えるんだよ。代金分な」

「貴方達は持てませんものね」

「その通り! でもさ、ここは、どうだ?」

「どうって?」

「代金は?」

「魚とか?」

「そう! なると、俺が賄わなきゃいけねぇんだよな。魚とったり、肉とるために狩したり……。正直、自分の生活もあるから面倒くさい。特に魚なんて、エルフの世界は海があまりないし、川魚は泥臭いしで、なんだかんだでここでとるしかないのが辛い。変なの絡まれるし」


 マリンちゃんだ!


「五回に一回釣れるし」


 マリンちゃんではないか。


「自称人魚だし」


 マリンちゃんじゃないな。


「おっさんだし」


 いや、マリンちゃんでは?


「滅茶苦茶フレンドリーに話しかけてくるし、イルカでかいし」


 絶対マリンちゃんだ! それ!

 人魚自称してるおっさんってヤバさが僕の時以上にヤバい! 魔法少女よりもダメージがでかい!


「だから、俺は金貨の方が随分と助かる」

「成る程……。それは、確かに金貨の方が助かりますね」

「スーさん、何とかして金貨払いに出来ない?」

「僕も金貨払いにしたいですよ。家電が欲しいですし……」

「家電って、あれだろ? 氷の箱とかだろ? あと、四角の水晶とか」


 氷の箱?

 四角の水晶?

 ん?


「家電、エルフの世界にもあるんです!?」


 世界観!

 言い方は世界観合ってるけど、何の家電か伝わるぐらいの知識があるじゃないですか!


「長老の家にある」


 富裕層!!


「まあ、魔女渡りの俺には一生縁がないけど……。確かにあれは便利だ」

「うちの世界が色々な世界の世界観を壊している事実が怖いですよ。家にあったら、随分と家事が捗りますからね。大姉様と僕の負担が減る」

「小魔女様と末魔女様は家事しないのか?」

「あれは、ただのニートですよ。何もしないです」

「ニートて。いや、世界滅ぼしたりしてるから、たまに」

「ニートがゲームやってても仕事に分類されないでしょ? 同じですよ」


 僕は溜息を吐くと、持っていた薬草に目を向ける。

 そう。うちにはニートがいるのだ。

 これを何とか、現金化出来れば……。


「取り敢えず、金貨化の件ですが……。尽力させてもらいますが、あまり良い返事を期待しないでくださいね」

「お? マジで!? 頼むぜ、相棒!」

「まったく……。いつ貴方の相棒になってしまった覚えはないのですが……」


 まったく、まったくですよ……っ!


「でも、親友の頼みであるのらば叶えないわけにはいかないですねっ!」


 まったく! まったくですよ!! 生まれて初めの友達ならば、親友と呼ぶべきが正しいですね!


「……え、チョロっ」



次回更新は12/9の13時更新となります。お楽しみに!

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