第7話 終焉の魔女三姉妹

「代金が、こんな魚三匹って……」


 あれだけの薬草を詰め込んだのに?

 エルさんが薬草の鞄の代金にと置いていったものはたった魚三匹である。


「私達三人姉妹だったから三匹しか貰ってなかったけど、次からは末の妹ちゃんの分も頼むから大丈夫よ!」


 いや、それは別にいいけど……。

 薬草の単価って、そんなに低いのか?


「貨幣は、存在しないんですか? この世界には」

「そうね。魔女の世界には通貨はないわ。基本は物々交換ね」


 そんな物なのか。

 魔女と言うぐらいだし、魔法で何でも出来てしまうのだから労働等に意味は確かにないのかもしれないな。


「それよりも、私の可愛い上の妹ちゃんと下の妹ちゃんを紹介するわね。きっと、二人とも家にいると思うし、貴方の新しいお部屋も用意しなきゃね」

「はぁ……。下の妹さんはここに来る前に見かけましたけど……」

「ああ、お友達とお散歩中だったのね。ご挨拶もなく悲鳴をあげて逃げちゃったでしょ?」

「ええ」


 三人目の魔女はそう言う認識でいいんだ。


「あの子、人見知りなの。でも、姉妹にはとても礼儀正しくていい子だから安心してね。少し甘えん坊だけど」

「え、ええ」


 甘えん坊ねぇ。

 そんな年齢には見えなかったが……。

 まあ、何処の世界でも末っ子は可愛いものなのかもしれないな。

 僕はそうは思わないけど。


「此処が、私達の家よ」


 あの露天を少し歩いた先に、小さな小さな白い家があった。

 魔女のと言うよりも、小人の家の様に可愛らしさがある。


「そして、今日から貴方の、末の妹ちゃんの家でもあるのよ?」


 大魔女、いや、大姉様が僕の肩を掴む。


「魔女になる勉強もしなきゃだしね! お姉ちゃん達にどんどん教えて貰ってね!」

「魔女に勉強? 修行という事ですか?」


 成る程。

 確かに、人間が魔女になると言うのだから赤子のが突然大学試験を受けろと言うものだろう。

 まずは知識から。

 ふむ。嫌いじゃないな。


「是非ご教授お願い致します!」

「でも、まずは生活の基盤からよ? 人間から突然魔女になるんだから生活は一変するわ。まずはその変化に慣れましょう」

「成る程、勉強になります」

「末の妹ちゃんは勉強家ね。これなら他の妹ちゃんとも直ぐに仲良くなれちゃうわ」

「下の妹さんは拝見しましたが、上の妹さんは……」

「上の妹ちゃんは元気いっぱいの元気っ子よ! 誰よりも姉妹想いでちょっと……」


 大姉様がドアを開けた瞬間、雷様な黄色が僕に襲い掛かる。


「お前、誰だっ! 姉様に何する気だ!?」


 黄色と思ったのは、長いツインテールの髪。

 魔女らしい黒色のカボチャパンツと白黒のニーソを履いた僕と同じ年齢ぐらいの女子が僕の上に馬乗りになりながら首を絞めてくる。


「ちょっとだけ、姉妹以外には冷たい態度を取っちゃうけど、心は優しい子なの」

「心優しい子に首絞められそうになってるんですけど!?」

「あらー! 新しい妹が嬉しくても、そんなに元気よく飛びかかっちゃうと下着が見えちゃうわよ!」

「新しい、妹?」


 黄色のツインテールは僕の顔と大姉様の顔を交互に見る。

 恐らく、いや、絶対。

 こいつが上の妹であり、エルさんの言っていた小魔女だろう。


「男じゃんっ!」

「正論言えるんですか!?」


 マリンちゃんといい、大姉様といい、魔女なんてこんなアバウトな人間しかいないと思っていたのに。


「男でも心臓が魔女なら、魔女は魔女よぉ〜? 今日から新しい妹ちゃんなんだから、仲良くしてあげてね?」

「姉様、正気!? こいつ、男だよ!? 男の魔女なんてうちに入れたらどうなるか分かってるの!?」


 何か起こるのか?


「そんな事したら……、こう、こう……、いやらしい感じに家の中がなっちゃうじゃん!」

「あら〜。おませさんねぇ」

「その前に風評被害止めてくれませんか!?」

「男なんて、ダメ! 絶対ダメ! 絶対にそう言う目的じゃん! 私は認めないからねっ!?」

「はぁ? 失礼ですが、僕の目が節穴だと? 貴女みたいなガサツな人を女だと僕は認めませんし、大体、女だからと何と言うんですか!」


 悪いが、人間不信此処に極まれりだ。

 僕を虐めていた半数は女である。


「女だからと無条件に僕に好かれるべきと言う考え方は如何なものなと思いますが!?」


 そんな女に何の好意的な目を向ければ良いと言うのか。

 人は僕以外外見では無いのだ。

 中身だ、中身! 好かれる条件が揃わない限り異性として意識するわけがない!


「それど、自分は無条件に愛されるという自信でも!? 外見に自信がどれほどおありでも、失礼ですが、僕の方が可愛いですから!」


 どっからどう見ても、美と言う文字が似合うのは僕しかいないだろう。


「あらー。自信満々ね」

「己の美しさにおいて妥協をする人間では無いのですよ、僕は」

「……ヤバい奴じゃん! 男とか関係なくヤバい奴じゃん! 自分が一番可愛いとか、正気か!?」

「大姉様、この家鏡ないんですか?」

「あらー。ある筈なんだけど」

「ちょっと! 私が鏡見たい事ないみたいな態度辞めなさいよ!」

「え? あるのに僕の正気を疑うんですか? 正気ですか? 鏡の前で並びますか?」

「う、ウザっ!」


 その時、奥の扉が開いた。


「大姉様、小姉様〜。何喧嘩して……」


 そこに居たのは、末の魔女。

 彼女は僕を見ると、真っ青になり、そして……。



「し、知らない人ーっ!!」


 扉を壊して逃げていった。


「あらあら」

「大姉様。前途多難すぎませんか?」


 僕にどうしろと?


次回更新は12/7の13時更新となります。お楽しみに!

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