第6話 種の魔女

「今から貴方は私の末の妹ちゃんよ。私の事は大姉と呼んでね! これから沢山仲良くしましょうね。末の妹ちゃん!」


 大魔女は楽しそうに僕の手を握りながら笑った。

 しかし、終焉の魔女なのに種の魔女? そう言えば、マリンちゃんも道を司る標識の魔女とか言っていたな。二つ名とかあるのか?

 そうなると、僕は美魔女の美少年魔女という事になってしまう危険が……?


「……悪かったな。変な水を挿して。アンタが後悔していないなら俺が言うべき言葉じゃなかった。気分を悪くしないでくれよ」


 僕が新たな問題に立ち止まっていると、エルフが頭を掻きながら謝ってくる。


「いえ、僕も言い過ぎました。どうかお気にならずに」

「有難うな、えっと……今度はアンタが末魔女様か?」

「そうよね。末魔女と言えば、下の妹ちゃんの事だし……。そうだ! もうお友達みたいだし、あだ名で呼び合いましょう?」


 何だ。その古き良き教育番組に出ていた中心に穴が空いた菓子の島にある古の伝説みたいな友達認定は。


「エルフ君も末の妹ちゃんに名前は教えてはならないし、丁度いいじゃない! お姉ちゃんが考えてあげるね! まず、エルフ君はエルフのエルでエル君!」


 安直!!

 驚きの安直!!


「エル、くん……」


 おい、エル君が引き攣り笑いしてますけど。


「で、末の妹ちゃんは、末でスーちゃん!」


 こっちも安直!!


「流石にそれはセンスが古……っ!」


 致命的に。古い。


「ふる?」


 大魔女に抗議しようした瞬間、四方八方から巨大な木が生え始め、僕を威嚇するように脅威的な成長を見せる。

 そう言えば、この人はこんなのほのほしているが種の魔女。成る程、能力は植物かっ!


「末の妹ちゃん。ふる、何?」

「ふる……」

「まさか、古……、アンティークって言いたかったの、かな?」

「そこは普通に古いでいいのでは……?」

「ち、違いますよ! 大魔女様! コイツは、スーちゃんはアレですよ! フルクラエアみたいに良い名前で嬉しいなって! な!」


 ふ、フル? 何だって? 何それ。


「なっ!?」


 エル君とやらの眼圧がヤバい事になっている。

 同意しないとあの世界を滅ぼす前に僕を滅ぼそうとしてんな?


「ま、まあ、それで、いいですけど……」


 逆に君はそれで良いのか?


「あらー! フルクラエア! お洒落って事かしらー! お姉ちゃんそんなに喜んでもらえて嬉しいー!」

「良かった……。アンタ、気を付けろよ。大魔女様に古いとかババアを関連させる言葉は禁句だ。世界が滅ぶ所じゃすまねぇ」

「はぁ……」

「アンタは、スー、俺はエル。それで生きていくしか俺たちの生きる術はない」

「突然の重さ」

「大魔女様キレると、マジでおっかないからな。妹になるなら死ぬ気で気を付けろよ」


 エルさんの有難い言葉に頷きながら、やっぱりここはヤバいやつのしかいないのかと思ってみたり。


「他の妹ちゃんにも紹介しなきゃいけないから、エル君、悪いけど薬は出来てるものだけで大丈夫? いつものなら揃ってるから」

「いつものだけでいいですよ。後、子守薬があったら少し分けて欲しいです」

「こもりん? まあ。もう、そんな時期なのね。今あるだけ渡しておくわね」

「お願いします」


 そう言うと、大魔女とエルさんは背負ってきた鞄に次々と薬草を放り込む。

 かなりの大雑把。神経質な僕にはとてもじゃないが真似はできない。


「あれ? はいらねぇなぁ」

「ぎゅぎゅっと押し込みましょ? 私が鞄持っているから、エル君はいつもみたいに足でやっいちゃえ」

「はーい」


 は? 薬草を足で?


「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!」

「え?」

「何をしているんですかっ! 薬草でしょ!? 飲むのじゃないですか! 正気ですか!? 足でなんて言語道断ですよ! 貸しなさいっ! 先ほどからお二人は大雑把に入れ過ぎなんですよ! 整理整頓すれば十分に入り切る量でしょうに! 大姉様は空いてる瓶や袋を下さいっ! エルさんは先ずは詰め込んだ荷物を全て出して下さい! ほら、ボヤボヤしない、キビキビやるっ!」


 僕は手を叩いて二人を急かせる。


「いいですか? 荷物はただ詰め込むだけではいけないのですよ。エルさんが帰った後、荷を解くのに時間が掛かかる、また、他の薬草と間違えたりしてしまえばクレーム物です。売る立場の人間として、ある程度は買い手にとって何が良いのか考える必要があります」

「私、人間じゃなくて魔女だけど……、そうね。末の妹ちゃんの言う通りだわ。私、大雑把だから……」

「これからで良いんですよ。大雑把ならば、大雑把でも詰め込みやすいように小分けに分けて重いものから下に入れるんです」


 二人に手伝ってもらいながら、我ながら惚れ惚れする様な手付きで薬草を鞄に詰め込む。

 完璧だ。

 完璧すぎる。

 実に僕の様に美しい配置!!


「ほら、これなら鞄に全て入るでしょう? お二人とも、次からは……」

「末の妹ちゃん、凄いじゃない! あれだけの荷物、全部入っちゃったわ! 凄い! お姉ちゃん感激しちゃった! 有難うね!」

「アンタ、凄いな! 流石魔女の妹になるだけあるぜ! ありがとな!」


 これだけの事で?

 これだけの事で、これだけ褒める? 普通。

 はっ。何がエルフだ。何が大魔女だ。まったく。


「まったく。僕は当然の事をしたまでですよ。でも……」


 チョロ過ぎだろ!


「次からはまた僕を呼んでくださいね。僕が手伝って差しあげますので!」


 こんなにチョロなら僕がしっかりしなければ!

 まったく! 仕方がないんですから!


「大魔女様、コイツ、チョロいですよ?」

「何も出来ないダメ男にお出てられて引っかかるタイプねー」




次回更新は12/6の13時更新となります。お楽しみに!


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