第4話 大魔女様の品定め

「あ、あれが終焉の魔女の末妹……」


 終焉と言うか、世紀末では? 核の炎に包まれたシルエットで見たことあるぞ?


「数百年通ってるけど、未だにコレだから」

「す、数百年!? あ、そう言えばエルフって長命なんですっけ?」


 漫画とかにあったな。


「魔女や悪魔と違って寿命はあるが、長い方の種族だと思うよ? オークとかゴブリンとか、ポンポンと死んでくもんな」

「オークやゴブリンにも世界が?」

「あそこは、世界って言うよりも国かな。エルフはエルフだけの世界があるけど、オークやゴブリンは身を寄せ合って一つの世界を分けて暮らしてる。アンタ達人間も人間の世界があるんだっけか?」

「ええ。そうですね。エルフさんは人間をご存知で?」

「知ってるよ。人間の世界はよく知らんけど、人間自体はどの世界にもそれなりに生息してるからなぁ」

「エルフの世界にもですか?」

「いや、エルフの世界はエルフだけ。たまに余所者が来るけど、居座れる場所じゃないんだよ。アソコは」

「でも、エルフは精霊と仲が良いのでしょう?」

「エルフが? お互い言葉が通じるだけで仲は良くないだろ。もし、同じ世界に住んでたら居場所の取り合いでいざこざが絶えないだろうな」


 可笑しな世界観だな。


「人間は面白い事考えるな。エルフと妖精とか」

「面白い事なんですね」


 ここでは、新手のジョークになるぐらいに。

 しかし、何とも言えぬ気持ちだ。

 この島もそうだが、このエルフも、先程の魔女もマリンちゃんも、奇抜さと可笑しさは目立つが穏やかすぎる。

 本当に僕が望んだ終焉は、ここにあるのだろうか?


「ほら、見てえてきたよ。あれが、魔女様の店さ」


 僕が思い悩んでいると、エルフが僕たちの進む先を指差した。緑生い茂る森の出口の向こうには、店と言うには些か質素すぎる露店の様なものが立っていた。


「あれが、終焉の魔女の店?」

「そうだよ?」


 なんとも質素なものだろうか。

 言い方は悪いが、一抹の不安を抱くしかないだろ。

 本当に、こんな質素な露店なんぞ営業してる魔女が、世界を滅ぼせるのか?

 人間の世界の薬局の方が魔女感を感じるレベルだぞ?


「大魔女様ー、エルフの魔女渡りです」


 滅しすぎた末の一種のミニマリストとなった姿なのか?

 いや、それにしても、魔女だろ?


「あらあらあら。ご苦労様で〜す」


 僕がアレコレ考えていると、おっとりした声が露店の後ろから聞こえてきた。

 これが大魔女?

 露店から出て来たのは、大学生ぐらいのゆるく髪が巻いてあるグラマラスなお姉さんが出てきた。

 服は魔女と言うよりも中世の町娘の様なエプロンをかけた服だが、色味も何も『悪』感は何処にもない。

 海外映画に出て来そうな感じだな。

 とてもじゃないが、大魔女とは思えないぐらい若い。老婆ではないのか。


「今日もいつもの薬達でいいのかしら?」

「あ、はい。でも、その前に大魔女様の客人を連れて来ました」

「あらあらあら? その子はだぁれ?」

「人間の子だと。浜辺で大魔女様を尋ねに来たと言っていたので連れて来ました」

「あらあらあら? 人間?」

「あ、初めまして。僕はあ……」

「こらこらこら。魔女に名前は厳禁よ。根本から幹の天辺まで巡るもの全てが魔女のものになってしまうから」


 そう言って、大魔女は僕の唇を指で塞ぐ。

 その指は恐ろしく、冷たく、怖かった。


「人間の子が私に何の用かしら?」


 余りの事に、気を取られたが僕ははっと意識を戻し深々と頭を下げる。

 こう言う時は何事も礼儀がいる。


「貴女にお願いがあって参りました! どうか、僕の世界を滅ぼして欲しいのですっ!」

「はぁ!?」

「あらっ?」


 深々と頭を下げる僕に、二人は声を上げた。


「おいおい、正気か!?」

「ええ。勿論」

「魔女の契約は代償が付き物よ? それでも?」

「覚悟の上です」


 命だろうが何だろうが、自分に払える代償は全て明け渡す。

 頼んだだけでやってくれるなんて都合の良い解釈なんて最初から毛頭ないに決まってる。

 あの大きな女性が魔女を頼れと教えてくれた時から、代償の事は常々考えていた。

 だが、払わないなんて選択肢なんてない。自分の命だけであの歪な世界が滅ぶなら安いものじゃないか。何たって、一度死んだ身なんだ。惜しむ命が何処にある。


「やめておけよ! アンタ、魔女がどんな……」

「エルフ君、それはダメダメよ。過ぎたる良心というやつだわ。最低でも、彼は何の知識もなく私の所に来た事に敬意を示さなきゃ」

 

 大魔女はそう言うと、僕の肩を叩いた。


「お顔を上げてくれるかしら? 顔をよく見たいわ」

「顔、ですか……?」


 顔面の皮膚という皮膚が剥がされるのだろうか。

 それでも、あの世界が滅ぶというならば、悔いはない。喜んで剥ぎ取ろう。

 僕は顔を上げると、大魔女はじっと僕の顔を見る。

 可愛い顔をしているからな。価値を見出されてもおかしくは無い。


「んー。お姉ちゃん的には合格っ!」

「大魔女様!? でも、コイツ男ですよ!?」

「エルフ君、魔女の中には男性もいるわ。それに、この顔なら、末っ子にしてもいいかなって思うでしょ!?」


 ん?

 末っ子?

 何かおかしな単語が混じった事に目を見開いていると、大魔女が僕の顔を両手で挟み、にっこりと笑ってくれる。


「君の願い、この種の魔女が叶えてあげましょう。今日から君は、私の末の妹よ!」


 そんな願い事してねぇーよ!!



次回更新は12/4の13時更新となります。お楽しみに!

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