第3話 末魔女様と怪獣と

「ここが、終焉の魔女の島……」


 暗闇が支配し、島の彼方此方には朽ち果てた残骸でもある髑髏や骨が無数に散らばり、怪しげな鳥達が歌い、毒々しい花々が僕を歓迎するかの様に禍々しい色をして骨に纏わりつくように咲き誇っていた。

 なんて事はなく。


「普通の島ですね」


 普通に白浜が広がって緑が生い茂って、よく分からないカラフルな鳥が鳴いてるし、骨も髑髏も散らばってはいない。

 なんて事はない普通の島である。


「本当に終焉の魔女三姉妹がこんな所に住んでるんですか?」


 誰もいないが、眼鏡を掛け直しながら問い正しくなるのは無理がないだろう。

 それぐらい、ここは普通の島なんだから。


「はぁ。まさか、マリンちゃんに担がれた訳でもないでしょうけど……」


 見るからに怪しかった標識の魔女おっさんを思い浮かべながら僕は溜息を吐く。

 オールをくれたのは助かったのが、この島に上陸すると途端にオールは魔法の様に消えてしまった。

 まあ、魔法なんだけど。

 オールはさておき、今はこの島だ。

 本当に魔女がいるのだろうか? 周りを何度見渡しても禍々しさなんて何処にもない。何の変哲もない穏やかな島だと言うのに。

 取り敢えず、島の内部に入ってみようかな。

 しかし、虫がいたら、嫌だな。

 僕が迷っていると、後ろから男の声がする。


「あれ? 珍しいな。アンタもお客さん?」


 後ろを振り向けば、そこには眩いばかりの金髪の美少年が立っていた。

 まあ、流石に僕には及びませんけどね。

 それにしても、この美しさ。

 まさか、この人が魔女?

 マリンちゃんの例があるし、男でも魔女はいるんだ。

 でも、この人。耳が……。


「先客かい? 魔女様の所で俺以外の客を見るのは珍しいな」

「魔女様?」

「ああ。アンタも魔女様に薬を買い付けに来たんだろ?」

「……貴方は魔女ではないので?」

「俺が? まさかっ! 俺はただの魔女渡りのエルフだよ」


 そう言って、金髪の美しいエルフが笑う。

 ああ、だから耳が尖っていたのか。


「アンタはエルフじゃないよな? アンタは……」

「僕は、ただの人間ですよ。本当にこの島に魔女がいるんですか?」

「人間が、魔女様を知らずにこの島に?」

「いえ、魔女は知っているんですがね…。説明は面倒なんので省かせていただきますが、僕は少し魔女に用があって」

「見たところ、薬の買い付けではなさそうだな。どんな用かは知らないが、魔女様の客人なら魔女様の店に案内しようか?」

「本当ですか? 助かります!」

「いいよ、いいよ。こっちだ」


 何というか、絵に描いたように爽やかな青年だな。僕と同い年ぐらいだろうか。

 それにしても魔女渡りって何だろうか。

 いや、それより魔女が店を出してるのか?

 何だが絵本の中の話だな。


「あの、この島に住むのは終焉の魔女三姉妹なんですよね?」

「ああ、そうだよ。大魔女様に小魔女ちぃまじょ様に末魔女様の三人の美しい魔女が住んでんだ。アンタはどの魔女様に用事があるんだ?」


 終焉の魔女ならどれでもいいが……。


「勿論、この島の主人である大魔女様ですよ」


 取り敢えず一番強そうな奴に頼むのが筋だろう。

 あの世界を滅ぼすのは必然。

 ハズレを引いて失敗なんてしたくないからな。


「大魔女様か。多分、店にいると思うよ」

「随分とお詳しいんですね」

「まあね。ガキの頃から魔女様達に薬を買わせて貰うのが仕事だったからな」

「ああ、魔女渡りと言う仕事でしたっけ? どんなお仕事なんです?」

「え? 魔女渡りの仕事知らなのか?」


 そんなにポピュラーな仕事なのだろうか。


「ええ。生憎僕達人間には余り馴染みのない仕事でして」

「そうか。どこの世界の種族でも魔女持ちが居ると思ってたんだけだけど、違うんだな。魔女渡りってのは、その種族で魔女様と交渉する仕事だよ。俺は、ここの島の魔女様達に薬を買い付ける魔女渡りをしてる。薬だけはエルフ達でもどうにもならない物が多いし、何せ魔女様の薬は効きが違うからな」

「そうなんですか」


 終焉の魔女が、薬ねぇ。

 終わらせる務めがあるのに、生き長らえさせる事もしてるのか。

 中々残酷だなものだな。


「あの、終焉の魔女はどんな方々なんですか?」

「ん? 大魔女様か?」

「ええ。出来れば三人共教えて頂きたいですけど」

「そうだな。大魔女様は、なんて言うか、穏やか優しい人だよ。俺みたいなエルフでも馬鹿にしないし、誰にでも分け隔てなく接してくれる」

「大物ですね」


 少し想像と違うな。

 魔女と呼ばれるぐらいだから傲慢で意地悪かと思っていたけど。


「小魔女様は、大魔女様と比べると少しだけ態度が棘棘しい感じ。基本格下の格下である俺なんて虫を見る感じだし」


 こっちは想像通りの魔女だな。

 しかし、全体的に普通の人と言う印象が強い。

 マリンちゃんと比べると、普通だな。いや、あの人本当に魔女なのかもよく分からないけど。自称魔法少女おっさんだしな。

 このエルフも普通の常識人って感じもするし。

 少し偏見で偏った見方をしていたのかもしれない。


「末魔女様はちょっと恥ずかしがり屋さんかな。俺を見ると全力で逃げるし」

「終焉の魔女なのに? 恥ずかしがって逃げるって、一体……」

「まあ、魔女と一口に言っても色々いるしな。逃げるのは……、そうだな。あんな感じだ」


 そう言って彼が指を差すとそこには……。


「え?」


 目を見張るほどの大きな怪獣、と言うのか? 軽く僕の三倍はあるだろう背丈の怪獣の肩に、目元迄長い前髪を伸ばした胸がそこはかとなく大きな女性が乗って、此方を見ていた。

 え? 怪獣?

 特撮?

 魔女って、ほら、なんかもっとケモケモしい感じの猛獣とかじゃなくて、怪獣?

 二足歩行?

 え?


「あれが末魔女様」


 女性の方だよな?

 マリンちゃんの前例があるために、そんな下らない質問を出そうとすると、女性の肌が真っ赤になって……。


「きゃあぁぁぁぁぁっ! 知らない人ーっ!!」


 そう叫んで、怪獣諸共ダッシュで逃げていく。


「いつもあんな感じで逃げてくんだよ。な? 恥ずかしがり屋さんだろ?」


 あっけらかんと、笑いながらエルフは言う。

 あ、うん。

 変人アイランドだ。ここは。ヤバい奴しかいないな。うん。




 次回更新は12/3の13時更新となります。お楽しみに!

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