第10話

あれから、俺は実家に帰る準備を進めていた。母に『墓参りに行くから明日帰る。』とメールを送ると、すぐに電話がかかってきた。安心しているような、嬉しそうなそんな声だった。




 その日の夜。布団の上に寝転んだまま、俺はボーッと天井を眺めていた。電気を消し、真っ暗になった部屋に、カーテンの隙間から月明かりが差し込む。


 ふと隣から気配を感じ、横を向くとミユも同じように天井を見ながら仰向けになっていた。




「いなくなるんだよな」




 俺のその言葉に、ミユは何も反応しなかった。いや、反応したくないのかもしれない。




「明日から寂しくなるだろうな。いや、正確にいえば明後日からか。明日はとりあえず実家だから、親がいるからな」




「……寂しいって思ってくれるんだね」




「思うよ」




「……私も寂しいよ」






 途切れる会話。それもそうだ。これ以上話していたら、泣きそうになってしまうからだ。


 隣で目を閉じる彼女に手を伸ばす。当たり前だが、触れることは出来ない。最後だけでも、彼女に触れることが出来たら、抱き締めることが出来たら……そんな思いは胸の内にそっと隠しておくことにした。








「……ミユ……ありがとう。好きだ」








 その言葉を伝えて、俺は静かに目を閉じた。目頭が熱くなる。我慢すればするほど、涙は溢れてきて耳の方へと伝っていく。


あの人形も、ミユも明日になれば全てが消えてしまう。その事実は変えようがなくて、熱いものが込み上げてきて、どうしようもできなかった。




 と、その時。




 隣から聞こえてきた優しいメロディー。


 祖母が歌ってくれた子守唄を、ミユが口ずさんでいた。あまりに綺麗なその歌声に、俺の涙はピタリと止まった。


 その歌声は小さく震えていた。それが涙からなのか、緊張からなのか俺はあえて確認しなかった。ただ、眠りに落ちるまでその歌声は止まらずに部屋に優しく響いていた。






















「私も大好きだよ。祐太くん」


















 その呟きは、頭の中に響いてきた。


 彼女が本当に言ったのか、それとも夢だったのか分からないが、その言葉が聞けただけで俺には十分だった──。






















***














 ジャリ……。砂利道を踏みしめて、墓の目の前に立つ。俺は、大きく深呼吸をした。


 命日ということで、綺麗に供えられた花。先に墓参りに来た人がいるのか、何本かの線香が灰になっていた。


 俺は、墓の前に座ると墓を見上げる。














「……ばあちゃん。遅くなってごめんな」




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見えないあなたの正体は? 瑠音 @Ru0n

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