【春休み最後の日は幼馴染と過ごしたいと思った二人は初めてのデートをすることに】


 春休み最終日。

 それは本来学生にとって憂鬱な日となる事が多い。

 明日から学校と思うと嫌だし、学校=勉強という謎定義がこの世にはあり勉強が出来ない生徒はテストで点数が取れず親に怒られる等と言った事にもなりかねないからだ。


 だから俺は今年もそうなるのだろうなと思っていたし。

 実際にそうなる予定だった。

 そう四日前までは。

 当然彼女も出来た事がない俺にデートの相手はいないし、二人きりで会う程仲の良い女友達もいない。


 それなのに今の俺はお昼ご飯を同じ屋根の下に住む二人ではなく三人で食べ終えて出かける準備を終えて、四日前から諸事情により同居することとなった幼馴染――霧島早苗と大型のショッピングセンターに来ていた。

 当然春休み期間と言う事で周りを見渡せば手を繋ぎ歩いている年頃のカップルやベンチに横並びに座ってキスをしているカップルなどもチラホラと見えた。

 人目を気にせずにそう言ったイチャイチャを楽しめるとは正に若気の至りと言うやつだろう。


 決して羨ましいとは思わない、だからしたいとかも思わない。

 隣にいるのが俺の初恋相手じゃなければ。


 お互いに初恋相手が幼馴染。

 それでいてこの状況。

 どう見ても恋人同士に近い関係。

 いや、だって、訳ありとは言え……ほら同居だってしているしそう見えても……可笑しくないと言うか。


 それに俺も早苗も両想いになったから付き合うと言ったことはなかったし、今はお互いに当時に比べたら気持ちが冷めているのも事実。

 だけど、キスとハグを沢山したのも事実……。

 本当はその恋人らしいことをもっとしたいししたかった。

 でも小学生だからこそあの夜お互いにそう言った身体を重ね合うような関係になる事はなかったのだと思える。


 隣を歩く早苗はニコニコしていて可愛い。

 横目でチラチラ見ているのだが、三年ぶりに見る私服姿は可愛いすぎた。

 それにこれはラベンダーの香りだろうか。

 とてもいい匂いがする。


「どうしたの。さっきから私の事チラチラ見て?」


 急に立ち止まった早苗が俺の方に身体を向ける。

 俺は視線を逸らして、冷静を装うとするが、そこでも視界に入ってくるカップルのイチャイチャ。

 羨ましい……。

 口が思うように動かない俺。

 手を繋ぎたいとかそのキスしたいとか恥ずかしくて言えない。

 だってそんな事を言ったら俺が大好きみたいじゃないか!!!

 なんで俺の心の奥がこんなにも熱くなるんだ。

 もうどうしていいかわからない。


 なんでだよ、母さん。

 お昼ご飯食べている時に、なんで――。


 早苗ちゃんが暮らすのに必要な物あるらしいから一緒に行ってあげな。


 とか言うんだよ。

 これじゃ親公認のデートじゃねぇかよ!


「あっ、わかった。そうゆう時はお姉ちゃんにいいなよ。ほら行こう、達也」


 顔に出ていたのか早苗が細い指を俺の指にしっかりと絡めて手を繋いでくれた。

 突然の事に全身の血の巡りが速くなり、熱くなった。

 それだけじゃなくて身体は正直なのか緊張して手汗までかきはじめた。

 慌てて手を離そうとするが、早苗の指にも力が入っており外せない。


「緊張してるんだ。嬉しい。私も緊張してるから、大丈夫だよ」


 そのまま手を引っ張られて俺と早苗のデート――じゃなくて買い物が始まった。

 買い物をしていく途中で薬局にも行った。

 なんでもヘアスプレーが必要だと言う理由からだ。

 俺は何の違和感もなくそれを受け入れて一緒に行くことにした。

 左手で早苗が買った荷物を持ち、右手には早苗の温もりがある。

 対して早苗は。

 左手に俺の温もりがあり、右手に買い物かごを持っている。

 そんな早苗がある場所で立ち止まった。

 女性が生活していくうえで必要な生理用品売り場である。

 俺は急にその場にいる事が恥ずかしくなってしまった。

 あろうことか買い物かごを地面に置いて中腰になった早苗の下半身それもお尻付近に視線がいってしまった。

 そうだ。頭の中では理解している。

 年頃の女の子は赤ちゃんを産むための準備をもう始めているのだ。

 やっぱり早苗ってそうゆう事をもう経験して大人の階段を登っているのだろうか。

 だとしたら早苗と一緒に大人の階段を登った奴が羨ましいと思う俺はただのヘタレなのだろうか。

 あー、気になる。


「急にそわそわしてどうしたの?」


 視線に気が付いたのか早苗がニコッと笑ってこちらに視線を向けてきた。

 その時、なぜか妙な事を考えていたせいか言葉が一瞬詰まってしまった。


「……えっ、いや……大変にゃんだって思っただけでぇす」


 あー、アホだ。

 ほら見た事か、クスクス笑われてしまったじゃないか。

 恥ずかしいし、なんなら今すぐこの場で死にたい。

 でもネットの中とか本の中だとそう言った行為をしている女性ってなんて言うかエロイと言うか、気持ちよさそうと言うか、興奮すると言うか、だからやっぱり好きな人とはまずは一回してみたい……いやいや俺は一体何を考えているんだ。

 だって生理用品の棚の後ろにそう言った避妊具の棚があったら、そりゃ色々と考えてしまうわけで、これは俺が悪いんじゃない。そうだ、俺は悪くない。悪いのはこのお店の品揃えと商品配置だ。うん、そうゆう事にしておこう。


 俺もさ年頃の男子高校生に明日からなると思うと、やっぱり色々とそう言った方向に興味を持つ年頃なんだよ。だからこれが正常だと自分を強く肯定した。


「ねぇ、早苗」


「どうしたの」


「やっぱりそうゆう経験ってあるのか?」


 俺は聞いてみる事にした。

 早苗とその……世間一般的にゴムと呼ばれる物に視線を交互に飛ばしながら。


「あーエッチな事考えてるから気になるんだ~」


 いやもう俺アホ過ぎる。

 女の子はそう言った男の欲望には敏感だってネットに書いてあったの忘れてた。


「…………」


「ないよ。それより私達もさこれから先どうなるかわからないから一つだけ買っておこうか?」


 そう言って早苗が持っていた生理用品と一緒に薄さ0.01mmと書かれたパッケージの商品が一緒に買い物かごに入れた。


 戸惑った。


 これは早苗からの夜のお誘いなのだろうか。


 そう思うとついニヤニヤしてしまった。


「いてっ」


 デコピンされた。

 俺は妄想をやめて現実に意識を戻す。


「先に言っておくけど下心丸出しの達也とはしないよ。これは私が達也に夜ベッドの上で襲われてしまった時に妊娠しないようにするための保険。まぁ恋人になったら前向きに考えてあげるけどね。私もね、そうゆうの興味がある年頃だからさ」


 俺の瞳を下から覗き込みながら、俺を試すようにして早苗が言ってきた。

 その瞳を見た時、つい心が揺れてしまった。

 そして思った。

 早苗を彼女にしたいなって。

 それから早苗とあの夜出来なかった事を今はしたいって。


「私とは絶対にそうゆうの嫌だって言うなら、棚に戻すけどどうしたい?」


 小悪魔からの誘惑。

 胸元が開いた服を着ているだけでも目のやり場に困るのにそれを前のめりになって意図的に見せてくるあたりもう悪魔だ。

 そこから見える、黒い下着がまた何ともエロい。

 触りたいとまで思ってしまった本能を抑えて、俺は突き付けられた決定権をどう使うかを決める。

 いつもそうだ。

 こう言った事は俺に決めさせるんだよな、この悪魔!


「……念の為に……買っておいた方がいいと思います」


「うん、わかった」


 笑顔で返事ってそれもう俺に手を出せって言っている気しかしない。

 でもわかっている。

 ここで今夜手を出そうとしたら顔に真っ赤な紅葉が出来ることぐらい。

 それが現実だってことも十分に理性では理解しているよ。そう理性ではな。


「ところで彼氏は今いないの?」


 一応念の為に聞いておく事にした。

 ほら、後から色々と面倒な事になっても嫌だし。

 それにやっぱり男は好きな人の初めての人になりたいと思うのはしょうがないと言うか。逆に女は好きな人の最後の人になりたいって言うし。そうなると利害が一致する可能性もあるわけで……。

 別にこれは下心とかそうゆうのはない……ただ本能が……一応聞いておけと言っているだけ。そう本当に早苗とそうゆう関係になりたいとかは……ないと思うし恥ずかしいからあるとは絶対に認めない。


「いないよ。でも欲しいとは思ってるかな」


「なら彼氏候補とかもいないのか?」


 すると顔を近づけて耳元で囁いてきた。


「ひ・み・つ」


 そのまま戸惑う俺を一人置いて買い物かごを持ってレジへと行ってしまった。

 結局一番気になる所は半分しかわからなかった。

 本当に意地悪な悪魔。

 なんで俺はこんな意地悪な女の子に心が揺らいで惹かれているんだ。


 たぶん。


 意地悪だからこそ、素直にさせたいとか思ってしまうんだろうか。


 う~ん、少し違う気がする。


 相手の事をもっと知りたいと思った時点で、早苗に惹かれているのかもしれない。


 たぶん、これが正解。


 俺は大きなため息をついてからお会計を終わらせた早苗の元に行った。

 結局期待させられた時点で負けなんだよな、恋愛って。




「やっぱりこれからは仲良くしないとだよねー」


 お買い物が終わって家に帰るとすぐに早苗の部屋に招待された。

 あるのはダンボールの山だけだったわけだが。

 それを見た俺は「疲れたからやっぱり自室でゆっくりする」と言って身体を反転して逃げようとしたわけだが、部屋が隣である以上逃げられるはずもなくすぐに捕まって連行された。そこで引っ越しの荷物の片付けを手伝う事となった。そこに拒否権は最早なく、あるのはこの家で既に母親の次に権限を持ち始めている早苗の命令と言う名のお願いだった。逆らってもどうせ負けると、負け犬癖が早くもつき始めた俺は黙々と作業をして一秒でも早くこの地獄から抜け出す為にひたすら手を動かして頑張った。


「ところでコレどうする?」


 荷物が片付き、もう終わりかなと思った頃、早苗が今日薬局で買った箱を手に持って、聞いてきた。

 そこには12個入り・薄さ0.01mmと書かれていた。


「保険なら早苗が持ってた方がいいと思う」


「そっかぁ……。チキンなんだね」


 勘違いさせたいのか、俺にボソッと聞こえるように言ってきた早苗。

 よく見ると、唇を尖らせているではないか。

 なんだよ、俺が文句を言うのはなしって訴えるようなその顔はズルいぞ。


「悪かったな……どうせ俺は……ビビりだよ」


「なんですぐにいじけるのよ」


「う、うるさい。俺の勝手だろ」


「よくない! これじゃあ私に女としての魅力がないみたいでムカつく!」


 身体を近づけて頬を膨らせて何を言っているんだ。

 全く持って意味がわからない。

 細い足と腕でありながら、大きく育った胸と年を重ねるごとに美しくなっていたその美貌に、気が付いていないのか?

 そもそも女として意識して欲しいのかそうでないのかがよくわからん。

 エッチは嫌だと言う割には俺がそれを否定すると、それはそれでつっかかってくる時点で悪魔だ。やっぱり同居認めるんじゃなかった……。


「なら襲ってもいいのかよ」


 俺は半分投げやりに聞いてみる。

 すると早苗の顔が赤色に染まった。


「そ、それは……」


 急に身体をモジモジさせ始めた。


「だ、ダメに決まってるでしょ。恋人でもないのにそう言った行為はダメに決まってるでしょ」


 なんだよ、ほらな。

 俺がちょっとでも期待したらすぐに嫌って言って。

 そうゆうところが俺は嫌いなんだよ。

 俺の心を弄び、楽しんでいるつもりなのだろうが、そのたびに俺の心は期待した分だけ突き落とされて疲弊してしまう。

 でもなぜか本気で嫌いになれない。


 あーホント、恋って難しい。


「と、とりあえず半分っこ。いい! 絶対に他の女に使ったらダメだからね!」


 そう言って早苗は箱の封を開けて、中身を取り出して6個を切り離して俺に渡してきた。

 それからすぐに早苗はベッドの収納箱に中身の外箱と一緒に収納した。


 俺はとりあえず受け取った物をズボンのポケットに入れる。


「と、ところで達也は女の子とそう言った経験ってあるの?」


「……ない」


 すると早苗が大きな胸に手をあてて「よかった」とポツリと呟いた。

 とても小さい声だったが、これはいったいどうゆう意味なのだろうか。


 そもそもこの会話って普通、愛し合っている男女がする会話ではないのか。


 まるで俺と早苗には空白の三年はないような感覚にまでなってしまった。

 まてまて、と言うか『よかった』ってどういゆ意味?

 もしかしてお互いに初めての相手は……――んなわけないか。

 また余計な期待をして裏切られてもいやだし、これ以上は考えない方向でいこう。

 でももし早苗がまだ未経験でそう言った事を望んでくれたら……マジで嬉しい。


 そんな事を思っていると母親から「ご飯できたから二人共リビングに集合!」と声が聞こえたので俺と早苗は部屋を出てリビングへと向かった。



 夕飯とお風呂を済ませた。


 ベッドの上でゴロンとしながら優雅にこの前かった漫画を読んでいたら、部屋がノックされたかと思いきや勝手に幼馴染――早苗と言う初恋相手が枕を持ってやって来た。


「ん?」


「寂しかったら来ちゃった」


 頬を染めながら、照れているのか持っていた枕を両手でぎゅと握りしめ、顔の半分を隠す早苗。

 めっちゃ可愛いんだけど、照れた早苗。

 それにピンク色の寝間着は上の第一、第二ボタンが開いているの為、水色のブラジャーがチラっと顔を出しているではないか。


「その枕は?」


「う~んとね~特に意味はないよ」


 そう言いながら俺の身体を両手でベッドの隅に追いやって陣地を確保した早苗が枕を置いて寝転がる。


 おいおい。

 これでは同居を始めた新婚夫婦いや同棲を始めたばかりの恋人みたいではないか!?


 いや同居は始めたばかりなんだけど。

 なぜだろう。

 とてもドキドキする。


 落ち着け、落ち着け。

 まずは、平常心を保とう。


「あぁ~ドキドキしてるんだぁ~。思春期なんだね~」


 戸惑っていた事が顔に出ていたらしい。

 笑みを作って、クスクスとまた笑われてしまった。


 そのせいで顔が熱く――赤くなってしまった。


 誰だよ! 初恋相手にこんな可愛い悪魔――早苗を選んだのは!?


「心は許しても身体は許してないから」


 さり気なく牽制を入れてくる早苗。


 クソッ、ガードが固いな……。


 って、あのなー。俺の頭は何を変な事ばかり考えているんだ。

 どうせ最後はからかわれて終わるって少しは学習しろよな……。


「マッサージしてよ。荷造りで身体がもうクタクタなんだ。だからお願い」


「わ、わかった」


 枕元にさっきまで読んでいた漫画を置いて、背中にまたがる。

 実際に乗って見ると、目で見ていた以上に細い身体してるなと実感できた。

 それに腰に手を当ててみると、柔軟な身体で痩せているとわかる。

 これが女の子の身体。

 全体的に柔らかいんだなと思いながらも、慣れない手つきでありながら早苗に喜んでもらいたい一心で頑張ってみる。



「あぁ~気持ちいぃ~」



 喘ぎ声をあげる早苗。

 その言葉に俺の男としての部分が目覚める。

 ネットで見た事がある男女の関係の時にでる男を興奮させる声に似ていた。

 やっていることは健全なはずなのに、どうしても頭が良くない方向へと動いてしまう。


「うぅ、うぅ~ん、気持ちぃ~」


 あの時と比べるとやっぱり触ってみると色々わかる。

 三年前に比べると早苗は成長している。

 けっこうメリハリが出て来て女性らしい身体になってきている。

 それにお尻の部分にまたがって見るとまた大きくて座り心地が異常に良い。

 試しに指先で突いてみると、張りがあって弾力もある。


「もぉ~どこ触ってるの。でもいいよ、ちょっとだけなら」


 そう言って早苗が俺の手を股下にあるお尻に誘導して触らせてくれた。

 おぉーこれが女の子のお尻なのかと思って一人興奮していると、見事に嵌められた。


「ちなみにおっぱいはもっと柔らかいよ~」


 マッサージが終わっている事から器用に身体の向きを反転させて俺の顔を見上げてくる早苗。そしてあろうことか自分で自分の胸を触って、その自慢の胸の弾力性をアピールしてきた。


 そのまま自然と伸びる手。


 ぺちっ


 だが止められた。


「発情した達也に触らせるわけないでしょ」


 そう言って笑う早苗に一本取られたと頭が理解する。

 こうなったら少しは男の怖さを教えてやる。

 俺だっていつもやられているだけのヘタレではないのだと。


 俺は早苗の手首を力いっぱい握りしめて抵抗ができないようにする。


 視線の先にはちょっと怯えた早苗の顔。

 目元には薄っすらと涙が見える。


 その光景に俺は慌てて掴んでいた手首を離して、早苗から離れた。


「ごめん。ついからかわれてムキになった」


 そんな俺を慰めるようにして起きあがってはうつむく俺の顔を下から覗き込んできた。

 と思った俺は後悔から戸惑いが心の中を支配することとなった。


「この根性なし。怖い反面……内心……期待した私の気持ちを返して! このバカ!」


 突然早苗が怒ってしまった。


「えっ?」


「えっ? じゃない! 初めてはその……痛いってよく言うから……恐いの! なんでそんな事も知らないのよ。少しは女の子の気持ちを考えてよ! いつも私から誘ってあげないと昔から手も出してこないってそれでも男なの!? このヘタレ!!」


 本心をつかれて、ムキになった俺は。


「泣いた顔見たら手だせるわけないだろ!」


「これでも私は結構覚悟を決めていつもゆうわ――やっぱり何でもない!」


「なんだよ。最後までハッキリ言わないとわからないだろ!?」


「それくらい察してよ、このいくじなし! だから未だに彼女の一人も出来ないのよ!」


「なんだと!?」


「なによ!?」


 その後、俺と早苗はお互いの不満を言い合うこととなった。

 心の中で溜まっていた感情が爆発して、火山が噴火しマグマを吐き出すようにして一気に溢れ出てきた。

 好きだから俺がいつも緊張したり、困っていたり、戸惑ってしまう事をなんで気が付いてくれないんだこの悪魔は!

 あぁーもうムカついた。

 この際全部ぶちまけてやる。

 

 ――。


 ――――。


 最後は早苗が涙目になって、鼻をグズグズさせたことで決着がついた。


「……ひどい。なんでそこまで言うのよ」


「ごめん」


「いや! 絶対に許さない!」


「………………」


「なんか言ったら?」


「………………ごめん」


「抱きしめて。そしたら許す」


 心の中を支配する罪悪感と後悔に向き合いながら、上から身体を重ねるようにして身体と身体を密着させて抱きしめる。


「本当にごめん」


「ううん、私こそごめん」


 俺と早苗はお互いの耳元で謝った。




「…………………………」


「…………………………」




 それからしばらくして。

 顔を上げると、視線が重なり合った。


 早苗の顔が赤いのは、ドキドキしているからなのか。

 きっとそうだ。そうであって欲しい。

 そして綺麗な瞳に反射した俺の顔も赤くなっているに違いない。


「するならこうゆう展開が私一番好きかな。ドキドキしちゃうから、達也は?」


「俺も」


「さっきは本当にごめんね」


「俺こそごめん」


「今度は優しくしてね」


 早苗が太もも擦りあわせてモジモジし始める。

 そして徐々に近づいていく顔と勝手に早苗の下半身に伸びて行く左手。

 もう我慢できない――


 ――早苗の息づかいが荒い。

 何より初めてみる女の子の顔が欲望を増幅させる。





『早苗ちゃーん』





 母親の声が下から聞こえてきた瞬間、俺と早苗の意識が正常運転に強制的に戻らされる。


『明日からの事で少し相談があるからちょっとこっちに来てー!』


 クソッ。ちょうどいいところだったのにとは言いたくても言えない。

 慌てて離れ離れになって「今行きまーす!」と早苗が俺の部屋のドアを開けて返事をする。


「残念だったね。それと枕の下にゴム隠してたでしょ。隠すならもう少し上手にしてよね。でないと『身体だけが目的なの?』って女の子は不安になりやすいからさ」


 そのまま部屋を出て早苗が階段を降りて行く音を聞きながら、枕の下にあるゴムを手に取り隠す場所を変える事にした。


 さっきは夢中になっていて気が付かなかったが。


 これでもかと言うぐらいにドキドキしている心臓。


 ようやく終わりが見えた初恋――ようやく冷めてくれたと思っていた恋心。


 だけど新しい環境がそれを拒み――再点火させようとしてくるようだ。


「あぁー初恋って難しい」


 やっぱりまだ早苗の事が好きだと思ってしまった。 


 でも大好きとは絶対に認めないからな!!

 認めるときは早苗が先に大好きと最初に認めた時以外にありえないからな!!!





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